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自慢話。~懐かしきグリーティングカード

前回の近況に書いたように、部屋の大掃除を敢行した。
本当に毎回、「こんなの買ったっけ?」とか「なんでこれがウチにあるんだ??」とかまあいろいろ「発掘」される。
奥深くに眠っていた10年以上分の雑誌のバックナンバー、読まなくなってだいぶ経つマンガや小説、いつかのカクテルや料理アイデアの殴り書き、溜まりに溜まった年賀状その他ハガキ類。

そんな中から「それ」は発掘された。

「それ」とはグレンファークラスからもらった、いつかのグリーティングカード。
はて、なんでファークラスが僕に送ってくれたのか?
(今も当時も変わらず)名が売れているわけでなし、先方の売上に貢献したわけでなし…なんて記憶の跡を辿っていたら思い出した。
この年-おそらく15年くらい前-、有楽町のどこかで開催されたセミナーに出席した。おそらくそのためだったのでは。

当時勤めていたBARに某酒屋(営業担当)の人がゲストにいて、その方が「ファークラスのセミナーあるけど興味ある?行くなら席押さえるよ」と-勤めていたそのBARと取引が無いにも関わらず-声掛け頂いたので内容も確認せずに店長共々ひょいと乗っかって行ったのだ。

ちなみに酒類のセミナーはだいたいブランドストーリー、今後のスタンスや方向性のプレゼンテーション、現行流通しているものの比較テイスティングとその説明、質疑応答というフローから成る。
このセミナーもだいたいそれに則っていたと思う。しかしテイスティングが違った。凄かった。
たしか「我々グレンファークラスがいかに素晴らしいシングルモルトを作っているかを今日ここにお集まりいただいたバーテンダーの皆さんに感じて欲しいと思い、ストックしている全てのビンテージを用意した。好きなものを好きなだけテイスティングしてファークラスを感じていただければと思う」と、1949あたりからほぼ各年、当時リリースできるビンテージが揃えて並べられていたはずだ。

場がザワついたかは記憶にないけど、僕は間違いなくザワついた。
どこから飲むか…考える必要があるか?
とにかく古いものから順に飲んでいく!と決めて各10mlに満たない程度でガマンして70'sのどこかまでは辿り着いた記憶がある。その先まで行けたのかどうか、今となっては記憶にない。
あの体験はとても貴重で素晴らしいものだった。
個人的好みは56か58だったように記憶している。
それ以前のものは差はあれどちょっと物足りなく、以降のものはバランスが好みではなかった(最古から69あたりまでの比較)。はず。

今にしてみれば石を投げられてもおかしく無いけど、「70'sはまあまあモルトに強いBARに行けば普通に-つまり、今から考えれば当時は信じられないくらい安価で-飲めるからいいや」で流し、「80'sなんて、言ったって80'sじゃんか」という思考で興味を抱かなかったように記憶している。
なんとも罰当たりというかふざけた話というか、振り返ればあの時の自分を全力で殴りたい気持ちになってくるところはある。
が、古いものがあるならそこから飲みたくなるのは職業病というか人情というもの。
なんならさもしく浅薄な欲求と言ってくれてもいいです。
おそらく(絶対に無いと言い切れるが)いま同じようなセミナーが開催されたって同じことをしでかすと思う。いや、誓っていいが確実にそうする。
人とは斯くも欲深くさもしく罪深い生き物也。

さて、我が家から「発掘」されたグリーティングカード。あれはやはりセミナーに出席したBAR全てへ送られたのだと思う。
ただし、各店舗につき1通だけ。たぶん。
なぜなら、勤務先に届いたのは1通だけだったから。
なぜ僕がもらえたのかはわからない。
「なんで店長宛で来ないんだよ…」って店長がボヤいていたのは憶えている。

日本のモルトブームに火を点けた、「あの朝ドラ」が放送される前。
シングルモルトが日本はもちろん、世界的にもこんなにもてはやされる前の、真冬と言っていい時代に体験した、とても貴重で数えられるほどしかない僕の自慢話。

あれから時が経ち、「閉鎖蒸留所だから」「手に入りにくいから」「YouTubeで誰それが美味いと言っていたから」云々の、体験だけにフォーカスした「ただ飲むだけ」の無思考なファッション的オーダーや変な価格の釣り上がり、訳のわからない企画リリース、出所がはっきりしない怪しげな商品リリースその他に辟易してモルトからは手を離した。
いま現在、illudのバックバーに並んでいるシングルモルトのほとんどは自分が好きな蒸留所のものだけ。
もちろん、その中にはグレンファークラスがある。

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