流刑囚の映画百物語~第84回『きみの色』(’24日)
私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『きみの色』。
本作の5点満点評価は…
コンセプト…2.5点
カメラワーク…4点
ビジュアル…3点
脚本…1.5点
総合評価…2.8点
良いところは良い。だが…。
本作の根本のコンセプトは「イメージとイメージ」あるいは「運動と音」とをモンタージュ(オーバーラップ)として重ね合わせる、あるいは連ねていくというところにあるのだろう。
「モンタージュ=異なる物事の重ね合わせ」というのはある種「共感覚」に近いところがあり、なので本作の主人公が「人のオーラを見る体質である」というのもそういうところから来ていると思われる。
モンタージュというのは映像理論の根本であり、それをアニメーションにという表現手段おいて思う存分実験したいという動機は理解できるし、またそれは成功してもいるだろう。とにかくアニメーション表現としてのレベルが非常に高い。
筆者はこれまで山田尚子監督の『たまこラブストーリー』と『リズと青い鳥』を「単なる小手先のお遊び」として酷評してきたが、この『きみの色』に関してはそこから一段ステップアップしているということは認めざるを得ない。これまでの作品に比べると格段にアニメーションの世界に引き込まれた。
劇伴や劇中で演奏される楽器の音、ライブシーンなどもかなり良い。特にライブの2曲目は個人的に好きになった。
本作は聞くところによると歴史的大コケをしているらしいが、「アニメーション」あるいは「音楽系フェイクドキュメンタリー」としては非情にクオリティが高いので、アニメや音楽に興味がある人は観ることをオススメしたい。
ただ一方で本作を「ドラマ」として見た場合、やはり過去の同監督作品と同じく「おままごとレベル」と言われても仕方ない面がある。
というかこの作品を共感、あるいはある種の目覚めや気付き、または問題提起として見れる人ってこの世の中にどれくらいいるんだろうか。筆者は「どうでもいい人たちのどうでもいい話」としか思えなかったし、多分世の中の8割かそれ以上の割合の人たちも同じような感想を抱くのではないか。
なんというか、特に両脇を固める男女二人の悩みが一切理解できない。まず周囲の大人たちの「聞き分け」が良すぎる。そして本人等の性格・能力などの素質、経済状況などにも問題が無さすぎる。こんな大人たちに囲まれて、こんな環境で育った子供たちが果たして一体何を悩むことがあるのだろうか?それが見ていてもさっぱり理解不能なのだ。
この「どうでもよさ」という点において本作はある意味ウィノナ・ライダーが主演、製作を務めた『17歳のカルテ』に近いところがある。あの作品を見たとき筆者は「ベトナム戦争を背景に単なるメンヘラ少女のイザコザを見せられても…」と思ったのが、はっきり言って本作に出てくる登場人物たちよりも今現実に生きているほとんどの人たちのほうが余程凄絶かつドラマチックに生きているだろう。そうした「どうでもよさ」をいくらでも糊塗できるのがアニメーションという表現手段の強みでもあるのだろうが。
また些末な点ではあるが、ギター担当の少女は高校を中退し、そのことを保護者である祖母に切り出せずにいるという設定なのだが、果たして「学校を辞める」ことを保護者の承諾無しで決めることが可能なんだろうか。
例えばスパイ映画で『007』や『ミッション・インポッシブル』を「リアルな諜報活動」として見る人はいないわけだが、本作は「青春映画というジャンルにおける007やミッション・インポッシブル」として見るべきなんだろうか?
もちろんそれでも良いのだが、それは同時に劇中で主人公が述べる「その人の一番綺麗なものが色として見える」というセリフが、「きれいなものしか描けない」という監督の作家性の限界にそのまま(劇中の演出よろしく)オーバーラップされている、その結果であるように思えてならない。
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