流刑囚の映画百物語~第85回『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(’24米、英)
私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。
本作の5点満点評価は…
コンセプト…4点
カメラワーク…4.5点
ビジュアル…4.5点
脚本…5点
総合評価…4.5点
「映画」である。
思えば自分が一番最初に映画を一本通して鑑賞したのは、ビデオで観た『ゴジラVSキングギドラ』であった。それ以来、自分の中で「映画らしさ」とは端的に言って「大量のエキストラ、名前も呼ばれぬモブ」であり「ロングショット」なのである。これらの要素により、「映画」は「テレビドラマ」では描き得ぬ全体性を獲得し「新しいメディア」に対して自らを差異化する。
本作では序盤においてスティーヴン・ヘンダーソン(『ボーはおそれている』で精神科医を演じた人)が大統領を「毛沢東」と罵るが、これは恐らく現在行われている大統領選においてカマラ・ハリスが「共産主義者」と揶揄されることを念頭に置いているのではないか。恐らく本作の大統領は元々はリベラル派の出身であり、そうした理念に基づいて国家統合を成し遂げようとしたというのが推測される。しかしその理念はどこかで暴走し、劇中で言及される「FBI解体」などの過激な政策へと転化され、結果として「本来のアメリカらしさ」を希求する「右派リベラル=テキサス・カリフォルニア連合」の台頭を引き起こした。
また「テキサス・カリフォルニア連合」という一見突飛でありかつ(それ故に)無難であるかのように見える設定も、本来共和党の地盤であったテキサスにおいてヒスパニック系が人口比率の大半を占めるようになり、また本来民主党の地盤であるカリフォルニアではカリフォルニアンイデオロギーが加速主義を媒介として保守的な思想に接近しつつあることからも、あながち絵空事とは言えなくなりつつある。
さて、ここまで長々と背景設定について述べてきたが、こうした複雑な設定を視覚的に描き出し、理解させるのに、現状「劇場映画」という媒体は他に比べて優位性を保っている。名前もなきモブたちのセリフが、言語以前の叫びが、群体としての運動が、観客に対し朧気ながらも情報に導線を与えていく。映画とは複雑に絡み合った諸要素を、複雑さを保ったままに「全体性」として観客に提示することができるのだ。
また本作においては前述したような「古いメディア=劇場映画VS新しいメディア=端末動画」の対比とは別の「映画VSより古いメディア=写真」との対比がより重要なウェイトを占めている。本作の女性主人公二人は「フォトジャーナリスト」である。特にケイリー・スピーニー(『エイリアン・ロムルス』にも出てた人)演じる若いジャーナリストなどは写真よりも動画に慣れ親しんだ世代であり、つまり設定的にビデオジャーナリストであっても良かったはずだが、何故あえて「写真」にこだわっていたのか?
これは恐らく「写真を撮る」という行為は被写体の運動(連続性)からその一瞬を切り取るということを意味し、それを「銃による殺害」に見立てているのだろう。銃器を持った人々が多数登場する本作において、一見丸腰のジャーナリストであるかのように見える主人公一行も「カメラ」を手にすることで武装し暴力性を有している。
これは劇中、服屋で試着したキルスティン・ダンスト(個人的には『メランコリア』と『スモール・ソルジャーズ』の人)が自身の姿を撮影されそうになり嫌悪感を示す場面にまず表れ、続いてスティーヴン・ヘンダーソン演じる師匠格のジャーナリストの死体写真を削除する場面においてはっきりと明示される。これ以後、キルスティン・ダンストは劇中において写真を撮るという行為ができなくなってしまうのだ。これは「撮影」という行為がある意味「殺害」に等しいということであり、最近の映画でいうと『NOPE』や(少し古いが)『タゲレオタイプの女』とも共通するモチーフである。もちろん彼女が「被写体」として最期を迎えるのも、そうしたことを反映しているのだろう。
と、ここまで色々と蘊蓄めいたことを書いてきたが本作はとにかく面白い。「アメリカ国内を舞台とした『地獄の黙示録』」であり「大規模な『悪魔のいけにえ』」でもある。クライマックスのホワイトハウスを迫撃砲で攻撃、破壊するシーンなどは現代劇(あるいは近未来劇)でありながらローマなど古代文明の崩壊をも彷彿とさせるものがあり、「文明の崩壊」「時代の終焉」の予知夢のようでもある。また、これまでどちらかというと「こじんまりとした良作」のイメージがあったA24の恐らく過去にないビッグバジェット作品としても、ある種の「転換点」なのかもしれない。
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