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『傲慢と善良』第一部
概要
『傲慢と善良』は、2019年3月5日に朝日新聞出版より出版された小説です。
著者は辻村深月さんで、2018年に『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞されるなど、日本を代表とする作家さんの一人です。
あらすじ
『傲慢と善良』の文庫本についてのあらすじは以下のとおりです。
婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。《解説・朝井リョウ》
私も第一部を読みましたが、これはもはやただの恋愛小説ではなく、20-30代を生きる人の悩みや不安、葛藤に寄り添ってくれる作品のように感じました。
第一部の概要
西澤架(にしざわかける)の婚約者である坂庭真実(さかにわまみ)が、突然姿を消すところから物語がスタートします。
姿を消す前、坂庭真実がストーカー被害にあっていた話を聞いていた架は、なにかの事件に巻き込まれたと予想し、警察に捜査を依頼することになりました。
しかし、警察からは事件性が薄いとの報告を告げられ、架自ら真実の居場所を探すことになります。
真実の知り合いの話を聞くうちに、架の知らない真実の過去を知ることとなります。
困惑しながらも真実が無事でいることを信じて疑わなかった架でしたが、ある日架の友人から、衝撃の事実を聞かされることになるのです。
第一部を読み終えての感想※ネタバレがあります
ミステリー小説にある大どんでん返し、のような展開ではないのですが、第一部の最後の展開は非常に引き込まれるでした。
私もおおかたの予想はついていたものの、
「そういうことだったのか。」
「ここまでするのか!」
という気持ちになりました。
というのも、真実のストーカーの話は、実は真実が作り上げた嘘だったのです。
その事に気づいた架の友人たちは、真実の失踪の前日、架のいない席で、直接真相に問いただしました。
すると真実は、肯定も否定もせず、架がその事に気づいていないことを確認するだけでした。
架は最初は友人の話を否定したものの、
警察から事件性が薄いと言われたこと、
真実の知り合いに怪しい人がいなかったこと、
真実のストーカーの情報が曖昧だったこと、
そもそもストーカーの姿を見たことがなかったこと、
架の友人と話した翌日に真実が失踪したこと、
これらの事実から、真実が架空のストーカーを作り上げて架を騙し続けていたことに、ようやく気づいたのです。
わたしは読みながら、架に「遅いよ」とツッコんでしまいました。真実のストーカーの話は、どう考えても違和感のあることだらけだったからです。
それでも、一人で全てを自作自演していたという展開には驚きました。
誰か協力者がいると思っていたのですが、一人でやってのけるとは。そしてまんまと騙せるとは…
また、真実のことを「いい子」と疑わなかった架に腹が立つことさえありました。架の男友達が真実を「いい子」といったり、婚活中に真実と出会った男性たちが皆口を揃えて「いい子」と言っている一方、女性たちは真実の本性にすぐに気づいていました。
架の幼なじみの女友だちは、真実のことをずっと「いい子ぶっている」とか、「無理していい子を演じている」なんて言っていたのです。
最初は友人を僻む存在としての女友だちの役割だと感じていたのですが、最後に嘘だと突き止めたことを受け、女心をよく理解する存在としての役割に見事に変化しました。特に、インスタグラムの文章から性格を暴き出すところは、読んでいてゾッとしました。
ただ、その女友達も、真実本人の前で言ってしまうなんて…趣味が悪い人たちだなぁと思いました。気づいてもほっておけばいいのに…
他人の恋愛に干渉したがる人の気持ちには全く共感できませんでした。
私もそんな人達とは友達になりたくないです。
ただ、確かに、女の世界で「いい子」とか、「主張がない」 というのは決して褒め言葉ではないような気がします。
むしろ世間から「いい子」や「主張がない子」と思われている人のほうが、実は裏の顔があったり、頑固だったりするのは経験からわかるものです。
なのに、言われている本人はそれに気づかず自分が純粋無垢な「いい子」だと思っている事が多いのも事実で、非常におめでたい話です。
それを一部の男は、自分がその子のことを「いい子」だと思いたいがゆえに色眼鏡で「いい子」として見てしまうきらいがあり、架もその一人として描かれていました。
そのいい子だと思っていた真実の嘘、
そしていい子に育てられ、いい子として育つしかなかった真実の人生を、
全て受け止めて生きていくことを選択するのか…
それとも次の恋に向かって歩き出すのか…
第二部も見逃せない展開となっています。
傲慢と善良とは何なのか※ネタバレがあります
架は真実を探している最中、真実が地元にいた頃に行っていた結婚相談所を尋ねることとなりました。
そこで出会った小野里という人がこんなセリフを言っていました。
現代の日本は目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど誰かに決めてもらうことが多すぎて、"自分がない"ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います。
この言葉を受け、スッと心に染みたと言うか、
自分の中で納得することが大きかったです。
誰しもが、誰かの役に立ったり誰かを悲しませたくないなどの善良な心をもち、善良に生きたいと願う一方で、
ついつい自分の価値観を最優先に考えてしまい、傲慢な部分を持っているように思います。
そして、この傲慢さ(価値観、欲しい物、目的、ビジョンなど)を理解した上で行動できる人が、結婚していく人なのだと架は解釈していました。
婚活の奥深さ、そして人間の真理というものを、小野里の言葉から多く学ぶことができました。
また、自分の中の傲慢さと善良さにも今後は敏感になって生きていきたいと思いました。
最後に
第一部は架の視点で描かれたストーリーでしたが、第二部からは真実の視点で描かれています。
真実はどんな覚悟を持って嘘をついていたのか、 架から離れたあと、どのような日々を過ごしていたのか、今後のストーリーから目が離せません。
次回は第二部をまとめますので、よろしければ読んでください。
読んでくださりありがとうございました🦉