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読書とは考えること!「読んだ、知った、考えた」

「読んだ、知った、考えた」河谷史夫著・弦書房2023年4月発行

著者は1945年生まれ、社会部デスク、朝日新聞論説委員を歴任し、2010年退社。会員制月刊雑誌「選択」に2000年より「本に遇う」の書評コラムを連載する。本書は2016年~2022年までの84稿の単行本化である。

著者はむのたけじの「たいまつ十六年」を読んで、むのに新聞記者になるなら朝日新聞と言われ、朝日新聞に入社した。また若い頃、中江兆民の息子で中国古代政治思想研究家・中江丑吉の自由主義を信奉した。

中江丑吉は「読むなら原書、付き合うなら本物」と言い、まやかし、へつらい、うそを嫌い、はったり、見栄を軽蔑した。「この世にはエリートと大衆が居るが、歴史を作っていくのは無名の大衆であり、自覚した大衆の道を憚らず進んで行くことが大事だ」と言って、若い友人に「そのための勉強を一生怠るな」と諭した。

同時に著者は東洋史学者・宮崎市定の中国歴史観にも心服している。宮崎によると、中国は秦、漢、随、唐と交代していく帝国の栄枯盛衰に一定のパターンがあると言う。

どの王朝も創成期には名君が生まれ、経済を興し、民生を安定させ、国運は上り坂。やがて皇帝は凡庸化し、暗君のもとで宦官が跋扈して、国内に反乱が起きるか、外からの圧力で崩壊に至る。文字通り歴史は繰り返す。

なかでも特に高度に安定した宋王朝は、財政国家として経済成長し、西洋のルネサンスに比される文化水準に達する。文官優位で軍人は冷遇された。西の遼に対しては金品で平和を買い、西の西夏にも金ずくで処理したと言う。

宋王朝は科挙制度で官僚を大量に輩出した官僚国家。しかし時代の激動に対応できず、事なかれ主義が蔓延、社会が歪み、階級的断絶拡大して滅亡の危機にあった。

そこへ11世紀の宋王朝に怪物政治家「王安石」が現れ、次々と新制度で改革を断行した。彼は弱者の利益を擁護する立場の改革者である。しかし彼の死去で既得権益の反対派が勢力を巻き返し、便宜主義者が国政を把握して、最終的に滅亡した。

「国が滅亡に至る時には、最も不適当な人間が国政の衝に当たるように出来ている」と宮崎市定は言う。何か他人事とは思えない言葉だ。今の岸田政権がそうならないことを祈るばかりである。

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