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十代最後の晩餐

 このあいだ、もうすぐ二十歳になっちゃうよー、大人になってしまうよー、いやだー、と駄々をこねていたら、「二十歳になったからといって、大人になれるわけではない」と言われた。なるほど、真理だ。しかし、年金の支払いは始まる。

 「十代とかいうたった二文字に未練を残さない、が今年の目標です」と、去年のわたし、元日に言っていた。

 9歳のとき、こどもでいることは特権なのだと気づいてしまった。こどもらしさは、愛される。こどもらしさは、無邪気だ。こどもらしさは、それを失った者から羨まれる。同じことをしたって、若いほうがなにかと注目される。だったらこどもでいるほうがいいじゃん!
 それからずっと、自分が年齢を重ね、おとなに近づくことが、恥ずかしいとすら思っていた。
 こどもからおとなになることはできても、おとなからこどもになることはできないから。

 さて、あんなに二十歳になりたくなかったのに、いざ目の前に迫ってくるとだんだん抵抗がなくなってきた 時間の流れというのはベルトコンベアのようなものなんだな

 十代のうちにやっといたほうがいいこと、というのはあるが、ほとんど、十代でなくてもできることだ。あるとしたら未成年飲酒の背徳感を味わうことくらい。わたしは18の頃オーストラリアで済ませてきた。大人になってから推奨すると捕まってしまうので今のうちに勧めておく。わたしが十代のうちは、"共犯者"になれるのだ。これも特権。
 でも、二十歳まで楽しみにとっておくのも素敵だとおもう。

 この歳まで生き延びてしまったからには、有る程度社会と付き合う覚悟は持たねばならないな。この一年、ちょんと足先だけつけてみた感じで言うと、クソッタレである。嫌味な大人も、腐ったシステムも、散々拝見した。反吐が出て、何度も何度もすべてを爆破させたくなったけど、最近になっては、それでいいと思ってきている。腹は立つけど。こんなふうに思っているのも、やっぱり、こどもごころを忘れかけているからだろうか。でも、最低最悪な世の中だから、こそ、キラッと光ったものを見逃さずにいられる。美しさが際立つ。逆に、最低最悪がそのまま最低最悪でよかった。つくりもののキラキラなんかにならなくてよかった。もしかしたらそう取り繕ってるのかもしれないが、今のところちゃんと見極める目をもつことができてよかった。十代までにやっておくべきことはやっぱりあるな。審美眼を養うこと。そして最低最悪に怒り狂う心は忘れてはならない。

 十代は、いろんなものを見た。極端に極端を重ねて、いろんな世界を見た。それは、旅に出た!海外に行った!とか、そういうのもあるけども、例えば、真面目な人の見る世界と、素行悪い人の見る世界の両方を見れた、とかそういうことだ。自分の理解し難い人間が現れたら、そちら側になってみるのも、おもしろいと思う。世界の見え方がまるで違う。自分のなかに二つの世界をもち併せること。これができなくなったら、凝りに凝り固まった価値観をもった大人の出来上がり。やわらかく強く生きたい。ところで、一つわかったことは、自分への厳しさと他人への寛容さを併せもつことは大変難しいということ。

 アリストテレスや儒教が言うには、中庸を行く、ということが、人間の徳らしい。さてわたしは、この中庸を、しばらく「極の端から端までの行き来を繰り返し、振り子の真ん中を通過する回数を増やすこと」だと思っていたが、最近は見解が変わってきた。筋の通った矛盾は美しい。中庸を行くとは、恐ろしいほどのバランス感で矛盾を抱え、生きていくことだと思う。何事も、貫くためには、矛盾が必要なのだ。という矛盾。それでもわたしは、ロックと反抗心に傾いて生きるぜ。

 2021年を迎えてから、どんなふうに自分の成人を迎えるか、考えあぐねて、やはり社会に出ることに決死の覚悟が必要だと思い、一人旅を企てたり、パリに行こうと本気で航空便とホテルを調べたこともある。けれども、覚悟を決めるのに、非日常はいらないなと思って、ぜんぶやめた。今日もわたしはいつも通り、文章を書いている。十代最後というのも、平成最後みたいでいや。わたしは一生すみあいかです。そのうち数字にとらわれずに生きれる人間になる。でもやっぱり、十代は素晴らしかったな。魔法がある気がする。でも、そうするとわたしはこれから年下にコンプレックスを抱いてしまうので、十代を上回る楽しさの二十代を送ろう、二十代を上回る楽しさの三十代、でもそれって極めると、「昨日を上回る今日を送ろう」という一言に尽きることになる。

 わたしのおじいちゃんは、明日わたしとお酒を飲めることを、たぶん二十年前からずっと心待ちにしている。おとうさんはさっき、あと一時間で大人だねとか言って、「最後のお小遣いだよ」とくれた。わたしは明日、朝早くに髪を切りに行く。

 お風呂を出る頃には二十歳だ。二十歳か。そんなふうに成人を迎える。どうぞこれからもよろしくお願いします。これからのわたしに約束したいこと、これまでのわたしのことを、若気の至りなんて言葉で絶対括るな。わたしが苦しみもがいて生きた跡を馬鹿にしないこと。それが将来、あなたが、自分より若い人と対面したとき、若者を馬鹿にする嫌な大人にならない秘訣です。丸くならずにやわらかくなりたい。お誕生日おめでとう。天国創設はこれからです。気を抜くな


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