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独白


 あなたに手紙を書けたらいいのに、と思う。

 わたしが時間をかけて書いた文章のほとんどは、誰でも見れる場所に投げ込んでばかりいる、だってこの言葉を、同じくらいの深度で受け止めてくれるひとが、いつ、どこにいるかわからない。たった一人のために丁寧に宛てた言葉をひとに贈っているうち、わたしの熱量を上回って受け取ってもらえることは自分が期待するほどあることではない、と感じることが増えた。だからやっぱり、わたしが文章を書くときはこんなような、誰か一人に宛てているわけではない文章なのです。そうしたら、たまに、見ず知らずの誰かがお返事をくれる。それがとっても嬉しいから、こうしてまた、誰が読んでくれるかもわからないのに知らないあなたに宛てて、手紙を書くような気持ちで文章を綴っている。
 わたしはあなたの目を覗き込むことはできない。あなたのことを知りながら文を認めることはできない。あなたと書いておきながら、今の自分が向き合っているのは無機質な電気信号と画面に若干反射している自分の顔である。わたしはあなたに話しかけているようで、ただ、誰もいない壁に向かって、もしくは鏡に向かって、自分の話をぽつぽつしているだけなのだ。ここで話をすることは、この話が 届くときには時間と空間の座標がずれていることが前提だから、あなたがこの文章を読んでいるときにはもう、そちらの世界の「今」 のわたしの考えは変わっているかもしれないし、わたしはおばあちゃんになっているかもしれないし、ひょっとしたら死んでいるかも しれない。でも、この文章を書いているわたしが存在するこちらの世界の「今」の点と、これを読んでいるあなたが存在する「今」は 違うものであるのに、二つの今が交差する場所があるということは、もしかしたらこれは一種のタイムスリップなのではないか、と思う。

 あなたがわたしの文章を読むとき、二つの「今」の点が重なり、ここには本来存在し得なかった時空が一時的に生まれている。時間も空間も超えた場所がここに確かにあるとしたら、そこは死後の世界に似ている気がする。それなら、墓場まで持っていくような話も、 わざわざひとに話すようなことでもない話も、この存在し得ない時空のなかに放り込んでしまってもいいかな、と思える。

 この封筒に入った言葉たちは、わたしがずっと下書きに溜め続けて、何度も書き直して、それでも誰でも見れる場所には放り込めなかった文章たちである。書いてから何年も経っている下書きもあるのに、久々に読み返してみたら、今の自分の悩みと大して変わっていなかった。それくらい、ながく眠らせていた想念たちなので、世界のどこからでも見れる場所ではなく、封筒の中なんてすこし見えにくいところに隠しておくことにした。

 きっと、こころの声は、生まれてきてからその主に存在を認識されるようになるまで、すごく時間の差がある。こころの声は、聴こえる前には色が無くて、よく近づいて目を凝らさないとそこに声が在ることすら気づけなくて、そして聴くときは、なんにもないように見える場所を、そっと指でなぞるようにして、確かにそこに存在していることを、再確認しながらすこしずつ色や形を宿していくものなのだと思う。そうやってこころの声が聴こえてはじめて、感情は、もやもやの向こう側からはっきりと姿を現してくれる。

 感情は、消える前に言葉にすると、思考に、思想になってくれる。わたしはそう思っている。だから、視界が靄がかってるみたいに覆われそうになったとき、どうにか頑張って文章を書いている。消えたあとにはもう掴めないので、わたあめをちぎるみたいに言葉にしている。

 作品を制作する、ということも同じかもしれない。一応は誰かに見せている体で書いてはいるけど、実際にはその誰かのことは見えない。自分がした話がまた違うところで話題に上がったり、返事が返ってくることは、きっとそうはない。一方通行の交換日記をみなさんの郵便受けに差し出している、誰もいない部屋でカメラを自分に向けて喋っている、圧し殺した自分の遺灰を世界に撒き散らして
供養している、そんな感じ。誰かの返事をずっと待っているような、受け身な姿勢に見えるし、誰も振り返ってくれないかもしれないのに自分の声を発し続けるなんて自発的なコミュニケーションにも思える。

 こんな文章を書くことも、写真を撮ることも、映像を撮ることも、ものをつくることも、誰かに届いてほしい、と思いながら誰の姿 も見えない部屋で自分の声の残響だけが聞こえてるみたいで、でもその部屋の外側からは、わたしには認識できない誰かが眺めている。

 それって、ぜんぶ、独白だと思うのです。

 あなたが今、なにに悩んでいて、最近どんなことを考えていて、どんないいことがあって悪いことがあったか、残念ながらわたしはなにひとつ知らない。なにひとつ知らないからあなただけに宛てた手紙は書けないけど、この手紙のような日記のような言葉は、あなたにも宛てているものだから、わたしの長い長い取り留めのない話を、ただの独り言を、どうかきいてほしい。

純靄禾

・独白
・少女性
・孤独と芸術26
・報われなさすぎる
・羨ましい?
・人見知り
・性的な話が苦手な方は読むのを飛ばしてください
・恋愛と依存
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・傍白

EYE'S Vol.0 「独白」
全16ページ
ポストカード3種入り

T3 photo festival1
printhousesessionにて販売

日時
・2023年10月8日(日) - 9日(月)
・11:00-17:00

会場 
・東京スクエアガーデン 1F 貫通路
  tokyo-sg.com
・〒104-0031 東京都中央区京橋3-1-1

アクセス
・tokyo-sg.com/access/

・地下鉄をご利用の場合

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