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書評 アウシュヴィッツの小さな厩番 分断が進む世界で

五十路のおじさん、ばっどです。

アウシュヴィッツの小さな厩番
ヘンリー・オースター
デクスター・フォード
大沢 章子 訳

少年時代に収監されたアウシュヴィッツから生還し、幸運にも米国の親族に引き取られ、検眼士としての職責も全うされこの世を去った、オースター氏。
彼の検眼店の顧客だったフォード氏が、あることに気づいたことで、この作品が世に出ることとなる。

簡潔に言ってしまえば、ユダヤ人種のドイツ国民だった著者の、物心ついてから大学に入るくらいまでの来歴、自伝である。
が、少年期を特定人種の絶滅を期した、非人道的収容所を過ごされているので、楽しい話ではない。
というか収容前から人生には暗雲が垂れ込め、解放されるまでは暗澹たるエピソードの連続である。

主たる内容は収容所の話ではあるが、ナチズムが台頭する1930年代後半の話もうすら寒い。
読んでいるとトランプさんの当選で分断が進む、今後のアメリカが心配になってくる。
昨日あたりから聞こえてくる、次期政権の主要ポスト人事を聞けばなおさらである。

ドイツがああなった大きな要因の一つは、WW1後に戦勝国から課された莫大な賠償金に起因する、国民生活の困窮である。
戦争をしていたわけでもないのに、あんなわけのわからん大統領が生まれてしまう今のアメリカというのは、経済的にも思想的にも相当にヤバいのかもしれん。
プロセスとしては民主的な選挙から生まれてしまうのだから、尚更のヤバさを禁じ得ないのである・・・

右傾化というのか保守化というのかよくわからんけど、それに引っ付いてくる排外主義、極端に言えばレイシズムみたいなもんのキケンさは、この本を読むことで改めてまずいものということがわかるはずである。
排しようとしている側、強い側にいるつもりが、一転排される側になることだって十分にありうるのだから・・・

本書の書評とは関係ないけど、イーロン・マスクって、どうしてああなっちゃったんだろうな・・・

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