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【昭和町風土伝承館杉浦醫院】(10)「現代アートLIVE×杉浦醫院 2nd」

はじめに

 昭和町風土伝承館杉浦醫院において、「第2回 現代アートLIVE×杉浦醫院」(2024.10.13~10.27)が始まりました。
 現代アート作家と杉浦醫院によるコラボレーション企画で、建物内や敷地を展示空間にするものです。昨年の成功と多くの方の期待により第2回が実現しました。地方病(日本住血吸虫症)で苦しむ患者たちが訪れたかつての醫院は、アート見物を楽しむ人たちの声が響いています。
 トップ画像は、志村陽子氏の作品で庭内の植物に銅メッキを施したエレクトロボタニカルです。

醫院棟の入り口扉

 昨年(第1回)の様子はこちらをご覧くださぃ。

「#イベントレポ」応募作の中で
先週特にスキを集めた記事に選出 2024.10.28

第2回 現代アートLIVE×杉浦醫院

 空間アート作家である志村陽子氏からの提案により実現した、昨年初めて行われた現代アートの展示です。志村氏が杉浦醫院を訪れたのはまだコロナ感染症に対する警戒の残る2022年でした。一方でかつて原因不明の病とされた地方病との闘いを伝える杉浦醫院の姿に共通点を見出したといいます。
 第1回の展示は好評を博し、再び6人の作家たちが集結し「第2回 現代アートLIVE×杉浦醫院」(2024.10.13~10.27)が実現しました。

第2回 現代アートLIVE×杉浦醫院
作家とスタンプラリーの紹介

 参加されている6人の作家さんたちです。
 空間芸術アート 志村陽子 (甲斐市)
 彫刻 斎藤翔 (甲府市)
 絵画 横井まい子 (甲府市)
 絵画 丸山真未 (昭和町)
 彫刻 佐藤正和重孝 (山梨市)
 彫刻 岡本直浩 (山梨市)

医院棟の落成時に建てられた碑の周りも
「地方病終息の碑」にも

 昨年の展示作品に佐藤正和重孝氏の彫刻作品《ホタルの光》がありました。かつてホタルの生息地として有名だった昭和町です。地方病対策が進みホタルの住めない環境となりましたが、杉浦醫院ではホタル池に幼虫を放流しホタルの住める環境づくりの取り組みを行っています。そんな醫院の雰囲気に合うということから彫刻作品を町で購入し、ホタル池のほとりに設置されました。

ホタル池に常設された作品
《ホタルの光》黒御影石、赤御影石、鶴瀬石(甲州鞍馬)

スタンプラリー

 作家さんたちそれぞれの展示場所は昨年と大きく異なっています。
 そして、新たな試みとして、展示をくまなく回れるようにスタンプラリーを設けています。各所に作家さんたち自らによる消しゴムハンコが置かれています。
 デザインは作家さんの作品に関するアイテムが中心ですが、中にはミヤイリガイのハンコもあります。コンプリート賞は特になかったです・・・

完成させた筆者のシート

 まず先に外を巡ります。源氏館というかつてのガレージが案内所になっていて交代で作家さんおられます。直接お話を聞いたり感想を語ることもできます。いつどなたと合えるかは時の運と偶然によります。

彫刻 岡本直浩

 案内所の源氏館に近いもみじ館に入ります。ここは木喰研究に没頭した丸山医療機器の社長丸山太一氏の資料が寄贈され保管展示されているところです。

もみじ館、中には木喰や郷土研究の寄贈書が

 ここには、山梨市在住の彫刻家岡本直浩氏の作品があります。
 昨年好評だった愛らしい鬼たちが再び登場します。さらに新たな鬼(新作)が加わりました。

岡本直浩メッセージパネル

鬼は古来より「悪いもの」「怖いもの」として描かれる一方で、鬼瓦などで見られる「厄除け」として使われる側面もあります。
この杉浦醫院は地方病終息の象徴のような建物です。
時代は流れても、杉浦健造・三郎先生がいらした当時のままの空気を感じました。
歴史ある建物で、鬼さえ呑気に遊べる世界を表現することで、平穏な日々の有り難さを認識を出来るのではと制作しました。

出典 : 岡本直浩メッセージパネル

 木喰仏の写真もあるもみじ館で鬼がブランコして遊んでいます。

丸山太一氏の寄贈資料の上で
「鬼(ふらここ)」クヌギ

 ところで、昨年も触れましたが、筆者は山梨県立美術館や木喰の里・微笑館にて展示されている作品で岡本氏を知りました。
 今回初めて岡本氏にお会いすることができお話を伺うことが出来ました。率直な疑問として、各所で見かけた作品はどれも作風が異なっていました。どれが自信の作風なのか不躾も伺ったところ、山梨県立美術館の作品とお答えをいただきました。
 また、以前失われた木喰仏の再現をしていますが、元となる写真に写っていない部分は木喰の作風より検討して想像で作ってあることも教えていただきました。

 さて、他に鬼の出る場所を見てみます。土蔵「ギャラリー四方山」の階段下です。かくれんぼうをして、様子を伺う鬼です。

「鬼(隠れん坊)」クヌギ

 そして、新たな「鬼」は醫院の渡り廊下で寝ていました。布団替わりの本はなんと「ももたろう」です。「杉浦出版」とあります。ところで鬼は指が3本だったのですね。意外な発見をしました。

「鬼(おねんね)」クヌギ

彫刻 佐藤正和重孝

 続いて、杉浦家のお宝が展示されている土蔵「ギャラリー四方山」です。こちらには山梨市在住の彫刻家の佐藤正和重孝氏の作品があります。

ギャラリー四方山

 なんとも穏やかでやさししい雰囲気を持った佐藤氏です。作品のほうはパワフルで力強いです。もちろん化石のような甲虫たちの世界です。

佐藤正和重孝メッセージパネル

「甲虫彫刻夢想」
今から一億年の時が経ち、その時に地上を支配している生命が海の底からこの作品を引き上げたとする。
バラバラになった部分をつないで修復し、博物館に収められ、何らかのタイトルをつけて展示される。
また三億年後には、土中から掘り出した破片が珍しいものとして店頭に並べられ、コレクターが買取り、他社の目に触れることなく暗い一室に転がっている・・・
そういう想像をしながら作品をつくる贅沢。

出典 : 佐藤正和重孝メッセージパネル

 まず蔵の1階の床の間に「兜」があります。

床の間には、兜が・・・いやカブトムシが・・・
《アクタエオンの黒い兜》御影石、ブロンズ、枕木

 続いて、かくれんぼうをする鬼のいた急な階段を上り2階へと進みます。クワガタが「納められた」部屋です。

2階にはクワガタ
《蒼い双刀のクワガタ》樟(クス)、アクリル彩色
《ルカヌスのトルソーアクベシアヌスー》黒御影石、モルタル
奥はさらに太古を感じさせるクワガタ
《フェモラリスのトルソ》
黒御影石、赤御影石、黄色大理石、ライムストーン、ブロンズ、モルタル

 土蔵の前にはスカラベ(フンコロガシ)がいます。

《太陽を運ぶスカラベ》黒御影石、ブロンズ、白御影石

 さらに醫院内のトイレ前には、夫婦のスカラベ(フンコロガシ)です。

《夫婦で太陽を運ぶスカラベ》黄色大理石、ブロンズ、白御影石

空間芸術アート 志村陽子

 続いて、進むと民具などが納められた納屋があります。こちらは納屋は、志村陽子氏の空間展示の作品になっています。
 お話を伺うと館内は、すべての部屋に作品が置かれるよう配置を検討しているといいます。昨年の終了時から第2回への展望があり、開催が正式決定すると打合せを重ね、展示後も作家さん同士で調整するなどして全体を作り上げて公開を迎えたといいます。

志村陽子メッセージパネル

「昔日の幻影」
 この納屋で昔の農具を目にしたとき、幼少期に見た昭和町の田んぼの風景が目の前に広がりました。
畦道いっぱいに咲いた白い花が風に揺れる姿はとても美しく、子どもながら見とれてしまった記憶があります。
 今回、この経験を基にインスタレーションを制作しました。
失われた風景や思い出を蘇らせ、過去と現在を繋げることを目指しています。
天井から吊られた試験管には、敷地内の薬草に銅メッキを施したエレクトロボタニカル作品を挿し、病気治療法の研究を重ねてきた杉浦醫院を象徴しました。
 この作品は、過去の記憶と対話し、儚い記憶の価値を再評価する試みです。過去と現在が交差する瞬間を捉え、新たな視点で時間の流れを感じ取っていただければ幸いです。

出典 : 志村陽子メッセージパネル

 「昔日の幻影」と題された室内は、民具とともに田んぼの風景を再現しています。この納屋には水の流れる音が響いています。また、エレクトロボタニカル作品の入った試験管が多数天井から吊られ浮いています。

《昔日の幻影》ミクストメディア

 さら、光に照らされて花の影が映る演出も。

納屋の壁に花の影

 こちらは、天井から吊られた試験管ですが、こちらも光に照らされて影を楽しむ演出です。

天井から吊るされた試験管と植物

 試験管には、銅メッキを施したエレクトロボタニカル作品が入っています。電気鋳造という方法で植物にメッキを施します。植物の形や大きさに合わせて電流値を細かく調整するのだといいます。

銅メッキされたナズナ

 エレクトロボタニカル作品は醫院内の処置室にもあります。机の上には、顕微鏡や黒電話とともに真空管ラジオがあり、その上に試験管がさりげなく置かれています。

処置室の机

「植物が銅に包まれるとき」
昔、漢方医だった杉浦醫院の庭園には、多くの薬草や薬木が育っています。その広大な敷地で見つけた本物の植物に、特殊な技法で銅メッキを施し、試験管におさめた作品です。

出典 : 志村陽子キャプション
《植物が銅に包まれるとき》エロクトロボタニカル
《植物が銅に包まれるとき》エロクトロボタニカル

 廊下の書棚の上にも見つけました。

《植物が銅に包まれるとき》エロクトロボタニカル

昨年の模様を上映

 さらに隣の納屋では昨年の模様をプロジェクターで投影中です。

足元に気を付けて

 暗い納屋には農具が置かれています。白い壁に昨年の模様がプロジェクタで投影されています。

昨年の様子を紹介
(ギャラリー四方山、横井まい子氏の絵画)

彫刻 斎藤翔

 甲府市在住の彫刻家斎藤翔氏の「在」シリーズの猫ちゃんは今回はさらに難易度が上がっています。
 まずは、庭にある作品を探します。好評だった石灯籠からひょっこりもいました。

《在-穴からひょっこり-》ミクストメディア

 母屋の隅でひなたぼっこ。

《在》ミクストメディア

 母屋の玄関で伸びをしています。

《在》ミクストメディア

 醫院内に入り探します。玄関を入ってすぐの調剤室に斎藤翔氏の紹介があります。

「猫が入りますので、戸は閉めてあります」
斎藤翔メッセージパネル
《在》ミクストメディア

ざい【在】
そこにある。いる。
その場所にいること。
そこにいること。

杉浦醫院それぞれの場所で
「たしかに」存在しています。
いつもの目の高さではなくふりかえってみたり見上げてみたり・・・
さがしてみてください。

そこに「たしかに」存在していることを
実感してもらえたらと思っています。

出典 : 斎藤翔メッセージパネル

 残りの猫ちゃんたちです。診察室の隅で身長測定中。

《在》ミクストメディア

 応接室ではピアノの上に。

《在》ミクストメディア

 研究室で、後ろにはカワニナの水槽とミヤイリガイ入ったケースが。

《在》ミクストメディア

 階段を上るとお出迎え。

《在》ミクストメディア

 資料室の中でくつろぐ。

《在》ミクストメディア
後ろでは映像上映中

絵画 横井まい子

 胸像とピアノの置かれた応接室には、横井まい子氏の絵画作品が並びます。この応接室に展示することから、昭和町在住時代に製作したものを雰囲気に合わせて選んだと伺いました。

応接室は杉浦健造博士の胸像とともに
皇太子(現上皇)の誕生を祝い制作されたのピアノ
横井まい子メッセージパネル

5年前間まで杉浦医院からも近い昭和町で10年間制作をしていました。近くをぶらぶらと散歩をしながら、目に入ったり頭を巡ったことが作品の題材のきっかけとなっていました。そのような当時に描いた作品たちです。毎日同じ窓から見る風景に日々うつろう雲、貯水池の木の幹に物語を見たり、やってきては去ってゆく鳥たち。それは毎日飽きることなく。しかし、ぼんやりと捉えどころなく過ごした時間から作られたものたちです。

出典 : 横井まい子メッセージパネル
《雨雲》油彩

雨雲
面白い形の雲はただ眺めても面白くて好きです。
雨の後に草花が芽吹き、色とりどりの花びらを風で抜けてゆく。
この絵の雨雲の纏うローブはうつろう季節でできています。

出典 : 横井まい子メッセージパネル
《森への帰り道》油彩

森への帰り道
初夏から秋にかけて貯水池の周辺を夕方歩くのが好きでした。
シラサギの群れが寝床にしていたからです。
早朝の薄青い空を目覚めたシラサギたちの飛び立つ様子も現実とは思えない美しいものでした。
そんな彼らの寝床の森からイメージした作品です。

出典 : 横井まい子メッセージパネル
《落ちる音》油彩

落ちる音
何かが落ちるとだいたい音がします。
五線譜をイメージした少年達がさまざまな落ちる音を奏でます。

出典 : 横井まい子メッセージパネル

 部屋の高いところにも作品があります。

扉の上にも

 さらに廊下の大型作品が新作です。カメラに入り切りませんでした。

応接室の廊下にも
時間と空間を馬が駆けていくように見えます

絵画 丸山真未

 醫院と母屋の間にある渡り廊下には、昭和町在術の画家丸山真未氏の作品があります。

この先で鬼が寝ています・・・
丸山真未メッセージパネル

「層流」
画家として活動し始めたのは2010年甲府市での個展です。それまでは、絵を描くことの楽しみ方や面白さを子どもたちと一緒に深掘りしていきたい。そんな「楽しい時間」を学校で作っていきたいと考えていたので、学校の先生になるのが夢でした。

現場は違いますが、活動を通して私は大人にも子どもにも「豊かな心でいてほしい」と、願いを作品に込めていることに気付きました。

絵を描くことで自分の気持ちをもっと知ることができたり、今まで気付かなかった内面が現れたりして自分自身と向き合うきっかけになった人はたくさんいると思います。また、心の中にある言葉にならない「・・・・・・」を、作品には込めることができます。思いを伝える手段として、自分を見つめる機会として、表現することを身近なことして感じてもらえたらいいなと思います。

そして、他の人が表現したものを観た時に、心がスッと寄っていったり揺さぶられたりします。

「あれ・・・なんか気になる作品・なんでだろう?」と気付いたら、新たな自分と出会える入口なのかもしれません。

ぜひ、ここでも色々な表現を心の赴くまま楽しんで観てください。

ここ杉浦醫院での展覧会にむけて制作するにあたり、地方病の原因解明を追求し続けた杉浦医師の想いを想像する時間は、当然毎日のようにありました。

それは、今回の製作にかかせない熱意となりました。

出典 : 丸山真未メッセージパネル

 渡り廊下に面して、杉浦三郎先生が使っていたが机があります。

《層流》

 小学生向けに行っている地方病の出前授業の写真の隣に並んだ作品。

《層流》

 流れるように鳥や植物が描かれています。

《層流》

 たいへんに細かい線で描かれています。

《層流》

 この先は母屋へと続きます。母屋は非公開ですが、何かつながって続いていくように感じる作品が置かれています。

《層流》

おわりに

 杉浦醫院でふたたび現代アートの作品と出合うことが出来ました。
 館内はいつもとは違う賑わいがありました。アート作品とスタンプを探す子どもたち、作家さんと会話するお客様、アートとのコラボレーションを機会に、集い、発見、出会いが生まれています。
 この先も恒例行事としてアート展示が続くことを念願しています。

芸術に触れた秋の一日


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