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世一の勉強部屋

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noteは本当に勉強になる。 こんな勉強部屋を少し前までわたしは知らなかった。 少しずつ増やしてゆきます。スキしてくれた人は覚悟して。 本当はキチンとお知らせとお礼をすべきところ…
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2022年8月の記事一覧

【サスペンス】盗作

盗作  その男は小説家で、とても気が弱かった。  ある小説が話題となり、投稿サイトでかなりの読者を得たこともあった。しかし、その後が続かず、人気は日に日に落ちていた。現状を挽回すべく、彼は新作を投稿しようとしたが、いつまで経っても良いアイデアは生まれず、そうなると気弱な彼はますますナイーブになっていくのだった。 「僕には才能がないんだ」 彼はこんな言葉を繰り返した。  その時、うつろな彼の目に、本棚の隅でほこりをかぶっている、一冊の本が目に入った。それは彼が学生のころ古

¥300

【詩】しんたい

すっかり通り過ぎてから 嗚呼あの電車に乗っておけばよかったと 思う人生かもしれない ひょっとして僕の人生は 披露する予定もない Smells Like Teen Spiritを口ずさんでる そういう人生かもしれない 30、30、30代の身体が 昼に夜にカサカサと音をたてる こんなに生きてたら ウンザリしてきやしないか ここにこうしていることが お前はどこにいきたいんだ 身体よ 思考は 孤独な最期を想像して 寝汗をかいて飛び起きる 溶けた体に桃を這わせるように 抱きしめる

【私論】未来のためにできること

若かりし頃、アジアの最貧国に長期間滞在し、日本のそれとは性質の異なる貧困を目の当たりにした。 人懐っこい現地の女の子たちを写真に撮っていた時、怪しげな大男が近寄って来て、いわゆる児童買春の誘いを受けた。白昼堂々、「small girl」と強調して何度も言った。私は弱々しく「no」と答え、媚びるように笑った。逃げるように立ち去った。殴れなかった拳を震わせながら。 そのことを帰国後に打ち明けると、異口同音に私の腰抜けぶりは正しいとされた。せめて怒りを露わにするべきであったなど

あなたも誰かのご先祖様

「僕に子孫はいないんだけど。」 「あなたの前世の話ですよ。生まれ変わる前の。」 緑色の馬に乗った人が、急にそんなことを言ってくる。 こちとら、孫も子供もいないってのに。 お盆といえば、ご先祖様をお迎えする行事。 ということは、 ご先祖様にしてみれば、子孫のところへ行く行事。 そういうことだ。 「あなたも誰かのご先祖様なんですよ。」 「なんにも覚えてないんだけどな。」 「まあまあ、来るだけ来てください。」 キュウリの身体をしている馬が、 僕を乗せて、急ぎ足で、走り出した

掌編「草摘み」

 女郎花が朝露を被り、こちらへちょんと首擡げている。指先で触れると、吸い寄せられるように冷たい雫が指の腹に纏わりついた。暑さの盛りを越えて、朝晩に少しずつ涼が戻って来た。夕暮れの蜩が聞こえると、これと云って特筆すべき思い出も無いのだけれど、神妙が胸へ寄せて、まるで去り行く季節を名残り惜しむかの様だった。  両親が購入したこの家には庭が在る。快活な女子高生が大股でいち、にと歩いて五歩かける三歩の広さで、引越した当時植えた桜の木は随分立派に育ち、敷地の外からでも花を愛でる事が出