【書評】『1/2の騎士 harujion』 初野晴
茫然自失の五つ星。朝の五時に読み終えて、とても眠ることができず、ただ呆然としている。こんなすごいものを書ける人がいるなんて。それぐらいセンスが並外れている。
乱暴にくくるなら、主人公の美少女マドカは、
アメリア・サックスか!
※J・ディーヴァーのリンカーンライムシリーズの
ヒロインで、正義感強い万年巡査の娘です。
もっともアメリア自身は昇進してしまうけど。
くッ。この本、誰にも教えたくない!
どうりで、この本、しつこく私を呼ぶはずだ。
※読んでほしいって思ってる本は
かならず何らかのサインを送ってくる
という私の妄想。
金はないってのに、
買え、買えっと異色なカバーが呼びかけてきたし、
買ったら買ったで、
今「ホームズ月間」だってのに、
いつも部屋の平積み本摩天楼から
チラチラこっちをうかがって
呼びかけてくるんだもの。
ホームズの「帰還」がぱっとしなかったのを
いいことに、軽く手にとってみたら、
止まらないったらありゃしない。
運命だったのだな。これは。
ああ、今は、これ以上軽々しくは書きたくない。
そして、早急に「退室ゲーム」を手に入れたい!
でも、どうせ眠れんから
ちょっとだけほざいとこ(苦笑)
喘息もちのアーチェリー部主将で、
レズ嗜好を持つ美少女マドカと、
可憐に美しい女装趣味のオカマ幽霊サファイアが、
東北の小さな町を守るために織り成す
異常犯罪者たちとの知恵比べの死闘録!
なんだ、オバケなんか出てくるんなら、
「なんでもありじゃん」、という御仁、
どうぞ、そのまま通り過ぎていってくださいまし。
ていうか、レズ? オカマ?
それってゲテモノっしょ?
という殿方、どうぞすみやかに
ご退室あそばせ。
「1/2騎士」というタイトルにも、
オバケということにも、
すべて意味があり、緻密かつ、
笑いも泣きもすべってない!
抜群の会話センスで綴られた
この稀代の青春ミステリをどうか読まないまま
終生安泰に、まっとうしてくださいまし。
笑いあり、泣きあり、“変愛”ありの友情と、
軽はずみに使いたくない言葉だけど、
「現代の光と闇」としかいいようのないものが、
渾然一体となったこの物語世界!
私は今、果てしなく独り占めしたい!
本当に、読み終わりたくなかった。
離れたくなかった。
最初から最後まで、つかまれっぱなしだった。
初野さん、あんたって人は
なんてものを作り上げちまったんだい・・・。
このハートフルな衝撃、ほかの現代の作家では
どんな人が拮抗したものをだしてるのかな。
ぜひ、読み比べてみたい。
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追記
・「ディープポップ」というベクトル?
⇒軽妙な筆致で、現代をオシャレに呼吸し、
広く大衆に受け入れられ易い作りだが、えぐってるところは浅くない。
序盤戦で対決するのは、目の見えない主人を牽引している盲導犬を、
主人の目の前で殺す犯罪者だ。
言葉を発せない聾唖者や知的障害者を強姦する連中が、
実際にいるとの噂も聞いたことがあるが…天は病んでいる…。
・「弱者、少数派」がひとつのテーマになっている。
⇒その扱われ方に感心。欺瞞も説教臭さもない。
明らかに人の助けがいる人々を、平等に、対等に、
実際に一般人と同じく扱おうとすれば無理がでる。
かといって、同情しながら手を貸すのであれば、
そこには上下の溝ができる。
戸惑いながらも、あるがままの相手と向かい合い、
友達として、誠実に、正直に
恐れも弱さも含め、自分を出し合ってつきあうだけ。
この眼差しが通ってるから、実に気持ちが良い。
※「差別とは何か」という問題を乱暴にくくらず、
真摯に見つめているのでなければ、
このステージには立ててないはず。
この作家やるぞ。
・「1/2騎士」を読んでて浮かんだ小説
⇒リンカーンライムシリーズ。
万年巡査の娘ではなく、万年警部補の娘が主人公で、
体が不自由(幽霊)なブレインがおり、さらに
周りに個性的な助っ人が揃っている。
ただし、こっちの警部補は現役で生きている。
⇒「永遠の仔」天童荒太
児童養護施設がでてくるのと、作中、
動物の名前を冠したキャラが活躍するためと思われる。
⇒「微睡みのセフィロト」冲方丁
ライトなのに深さも感じさせる質感とか。
「ドッグキラー」「インベイジョン」「ラフレシア」「灰男」など、
次々と現れる特異な犯罪者との対決が、
近未来で謎の四次元殺人を起こす四次元能力者たちとの対決を思い浮かばせた。
⇒セフィロトは完全に架空未来で、現代に根ざしてる感はあまりないが、
「1/2騎士」は、ファンタジックなネタでくるみつつ、
現代の問題と向き合った作品。
そのスタンスがどうも初野さんのスタイルっぽい。
※ちなみに、これらを↑全部足して割ったら、
「1/2騎士」になるということではない(^^;