【書評】『雨にぬれても』上原隆
「DV」や「セックスレス」の章も他人の生活の断面をみているようで興味深く読めるが、個人的に助けられたのは「夢の行方」「シナリオライター」だった。
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アルコール依存症で兄を亡くした弟、
二人で頑張っていたが社長に自殺された女性、
戦争中、学校に行けず夜間中学で字を学びなおす
六十九歳の老人、家族を捨てホームレス生活をしながら
夢を追い続ける四十二歳のお笑い芸人。
人々の「生きる」姿にきっとあなたも励まされる。
思わず涙が出て心がスッと軽くなる
コラム・ノンフィクション待望の第三弾。
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「DV」や「セックスレス」の章も
他人の生活の断面をみているようで興味深く読めるが、
個人的に助けられたのは「夢の行方」「シナリオライター」
だった。
「夢の行方」の方は、とある夫婦の奥さんの話で、
彼女は昔、演劇だかなにか夢をおっていて
同じく演劇の道を進んでる彼とつきあっていた。
しかし親から、「現実を知らない」「まだまだ子供だ」と
言われ、それをきっかけに別れている。
ところがその彼が最近脚光をあびて
あの雑誌「ぴあ」にでているのだ。
なんだか心が激しくうずく。
自分も夢を追っていたはずなのに。
彼に電話してみようか…
本屋で演劇コーナーにたち、彼の本を探して手に取る。
魔が差しそうになったとき、夫から
「レストラン予約したよー!」と電話がくる。
彼女はそっと、彼の本を棚にもどす…。
それだけの話なんだけど、僕も舞台人であったので
なんだかドキドキしたのだ。
「シナリオライター」は売れっ子脚本が、日々、
ピリピリしながら静かに戦ってる姿をルポしてくれてた。
ちょうどスランプになってて、抜け出したかったので
これ読んだら、ああ、そうだよなぁ、みんなやっぱり
苦しみながら書いてるんだよなぁと安心し、助けられた。
「リクルート・スーツの孤独」もよかった。
新宿でよくリクルート・スーツのういういしい女性を
みかけるが、その内側が少しわかった気がする。
就職がんばってね。いや、あんまり頑張って
自分をつぶさなようにね。君には君だけの
よさがあって、君にしかできないことが必ずある。
大丈夫です!(って誰にいってるんだろオレ(^_^;))
最後に、「テレビドキュメンタリーのその後」
という章をちょろっと紹介。
著者が、数年前のドキュメンタリー番組をみて
その後どうなったのか知りたくて追っているルポだ。
経営者が投げ出した会社を、従業員たちが自分たちで
管理するという番組だったらしい。
その店はカメラのニシダという。
赤羽の店を訪ねると、閉店の張り紙。
自主経営は厳しかったのか?
店長になった男に電話してみると、
店は移転していて、さらにこじんまりとした店には
なっているが存在していた。
倒産して31人が15人に、赤羽にうつって7人に、
そして今は2人になったという。
収入が少なくてやめていったり、いろいろ事情が
あるらしい。
彼は二人になって、こんな楽しいことはないという。
「こういうポップつくりたいとか、
こういう店作りしたいとか、今は自由にできますからね。
まぁ、24時間中10時間以上は働いてるわけですから
ある程度楽しくやらないと」
と彼は明るく生き生きと話す。
141P
人生上の苦難は人を鍛えるという。
突然の倒産と自主管理の経験は彼をどんなふうに
鍛えたのだろう。著者はきく。
「倒産してから学んだことは、そうね……」
彼は6年間の越し方を思い返すように少し沈黙する。
「あまりふてないっていうことかな。つまり、
これじゃダメだ、ダメだ、ダメだっていってると、
本当にダメになっちゃう。
だから、すぐに次のことを考えるっていう姿勢が
身についたね」
うーん、なるほど。
確かにダメだダメだっていってると
本当にダメになる「流れ」ってある。
話はちょっとそれるが、斉藤一人という
銀座日本漢方研究所の創設者をご存知の方は
いらっしゃるだろうか。
常に全国高額納税者番付に高順位に入ってる成功者だ。
彼は常になにがあっても「ついてるついてる!」
と言っていると本当についてくると言っている。
車にぶつかっても、「わぁ、助かった! 生きてる!
ついてるついてる!」と喜べと。
そうすると福が逃げていかない。
逆に「ダメだダメだ!」では福は逃げていって
成功するのは難しい、と。
自分の心が今どういう状態なのか、
それが人生の流れを決めている、というのは
確かにあるだと思う。
っと話がずれたが、店長の話は続く。
小さくなったカメラのニシダの近くに
なんとビックカメラが近々できるという。大変だ。
著者はどうするのか気になる。
「みんな大変だと思う。楽な人はいないと思うよ。
それを克服するっていうプロセスが楽しいんじゃない」
「ね?」という顔で彼が著者を見る。
そして大きな声で笑う。その笑い声に著者は包まれる。
3秒ほど沈黙して、彼はこう付け加えた。
「希望をもってやっていくよりほかにないんだよ」