【書評】『復活』谷川浩司
人生にスランプの人とかいたらおススメです! この本の行間深く貫いて流れている奔流を自分の血肉にできたら、何があっても振り回されない、確固不動たる自分になれそうな気がする。
王将位だけを残して、あとはすべて奪われた谷川名人。
羽生名人がすごい勢いでタイトルを奪ってゆく。
そしてついに、王将位以外の六冠すべてをひっさげて
王将谷川の前に現れる。
最後のとりでである自分。
結果は負け。無冠の王となる。
もともとあった羽生への苦手意識。
「誰かあの快進撃を止めてくれないかなぁ」
そう思いながらタイトル戦をみていたら
いつのまに最後は自分だけになっていて
そして、ついには自分も敗戦。
「志の低いことを考えていたように思う」
「不調のときは自分が見えない。
自分が見えないから不調なのである」
自分の将棋を取り戻さねば道はない。
どうする谷川。
「羽生にやられたことで、ゼロになれた実感を持った。
それがスタート」
なるほど。
「0と1の間には、ただ数字の1つぶんの差があるのではなく、
計ることのできない距離、底知れない深い空間が
広がっているような気がする」
王将谷川から、普通の谷川九段に転落。ゼロ。
そのせつなさ、やるせなさの中をどう生きていく?
「不調の始まりは迷い」
羽生が強いのは、一切の迷いがないからだ。
谷川は羽生を意識しすぎて、自分を見失いはじめていた。
相手に取り囲まれ、迷っているうちに、
自分のよい部分がどんどん萎縮してゆく。
相手の手の内ばかり考えて、自分の指し方をしないでいると
迷いが生まれ、迷いは敗北へとつながる。
羽生との竜王奪取戦を前に山形県天童市の将棋祭に参加。
小学生相手にプロの谷川が将棋を指す。
子供たちが次の手を考えるキラキラした目、
それを見たとき、谷川は自分の小さい頃を思い出す。
兄が帰ってくるのが待ち遠しくて仕方がない。
3戦やって2度は負ける。負けると悔しくてたまらない。
とにかくいつも将棋がやりたい。
勝ち負けも大切だったが、その前に純粋に将棋が
好きだった。
将棋のシステムと、そのスリルが好きでたまらなかった。
無心で打っていたあの頃を思い出した谷川は
将棋を楽しむこを忘れていたことに気がつく。
「自分の将棋がどれぐらい通用するか試したい」
「羽生さんとの将棋を楽しみたい」
そんなキラキラした目で望んだ竜王戦、
思い切りのいい将棋ができ、谷川はめでたく竜王になる。
実に4年ぶりのタイトル奪取であった。
「飛翔」
谷川のキーワードの「飛翔」という文字が本当に
中身をともなったのは、どん底の時だったかもしれない。
落ちるだけ落ちて、何もかも失って、
本当に羽ばたける地盤が整った気がする、と。
追記:新年早々スランプの話からスタートかよ、って思わずにw
飛翔の話としてあれしてください。書いたのも十年以上前だと思うので;
あと、羽生さんが実は今27年ぶりに無冠だから、彼こそ「復活」と「飛翔」の年としたいんじゃないかなと思う。僕も先行き不安もたくさんあるけれど、希望もいっぱいで、よりいいものを創れるように心機一転爆走精進して更に上の表現を目指したろかなと思います。