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【書評】時間跳躍式完全無劣化転送装置/山素
これまた、読みきりらしい、小粒だけど、どこかノスタルジックで
爽やかかつ、小粋な一品に仕上がってる。
少し大人になった少女たちの、ささやかな友情の一滴が心に優しい波紋を響かせる。
時間跳躍式完全無劣化転送装置というガジェットをいかしたガジェット小説ともいえる。
この転送装置はある種のタイムマシンには違いなく、とても高度なテクノロジーを用いているのだが、タイムマシンとしてはひとつ重大な欠陥があり、「未来には飛ばせるけど、けして過去には飛ばせない」というシロモノ。
高度な科学文明を用いた装置でありながら、使い道としてはまだまだヘッポコ(保存庫としては画期的で完璧だが)の域をでず、それが作品に小気味いい滑稽さを与えていて楽しく読み進められる。
――が、その実、一方通行という欠陥機能が人生のメタファーとしてメインストリームに有機的にからんでくるため終盤でのサビの説得力が骨太で力強い。
その道具立てのうまさのせいか、小品ながら、すがすがしくも、どこか懐かしい、しみじみとした友情の余韻を読後にたちのぼらせることに成功してる。
古い友人が訪ねてくる日、困惑を隠せない主人公ーー
※絵的には裏世界ピクニックの地味で都市伝説オタクな主人公と重なる主人公像。キャッチーで自然とはまるキャラ絵なのもメリットといえばメリット
※また引っ込み思案で自分の殻に閉じこもりがちな少女読者たちはこの主人公に感情移入しやすいかもしれない。
あまりにも久しぶりに会う二人。
面倒くさい、こういうの苦手、と思っていた主人公だが、
実際会ってみると、離れ離れになっていた時間の存在すら
一瞬でスキップしたような昔ながらの居心地のよさがそこに。
昔も今も、実は主人公に話しかけるの、けっこう緊張していたんだという友人。一見、クールで緊張したことなんか無さそうな友人の隠された
けして大きくもないが小さくもない勇気の告白。
このどこにでもありがちな、誰もが一度は経験してそうな静かなカミングアウトエピソードが、さりげなく普遍的なスパイスとしてピリっと効き、
瞬間、友人の人物像が立体化してくる。
(キャラが身近な人間としてリアルに立ち上がってくる瞬間だ)
よくある、手垢のついた「過去は変えられないけど未来は変えられる」という話ではないのもいい。
二人はひょんなことから、装置で未来に送ったはずのサンマと
ケーキがフィラ(時間軸的に溶けて融合)った事故に遭遇し、
そこで新たな味覚の発見に驚きつつ、実験にのめり込んでいく。
やがてやってくる別れの予感。
次にいつ会えるのか。
わからないけど、それはきっとそんなに遠い未来じゃない
二人の久々の出会いは、二人自身にかすかに、
しかし確実に変化をもたらした。
いつのまにか遠ざかり、できていた過去の隙間が一瞬でうまった瞬間、
フィラっていたのは、実はこの二人自身だったのかもしれない。
人間は、表題の「時間跳躍式完全無劣化転送装置」のように未来にすか進めない。少なくとも現段階ではどうしようもなく一方通行だ。
だから過去には消して戻れない。
しかし、過去を振り返り、たぐりよせ
そこにあった、絆を握りしめ直して生きることはできる。
どんなに時が流れても、そこに変わらないものはあるはず
そう信じたくなる、少女たちの絆を描くショートストーリーだ。
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