ムケッ脚氣で誤った森林太郎
しんりんたろうではなく、もり、りんたろうです。
魚介やトマト等をココナッツミルクで煮たブラジル料理がムケッカ。
ムケッカを作りながら、二つの顔を持つ人物について妄想した記録。
ココナッツミルク 1缶
唐辛子粉 大匙1
大蒜 1欠け
玉葱 半分
シーフードミックス 好きなだけ
塩 小匙1
胡椒 少々
ピーマン 2,3個
トマト 2個
ローレル 1枚
文久二年(1862)という幕末に石見国(島根県)津和野に誕生した林太郎、幼い頃から神童と呼ばれる頭の良さ。何しろ医学という理系ばかりか文学者という文系の才能もある。
現代でも医師でありながら作家でもある渡辺淳一とか知念実希人等がいますが、そのハシリ?
森林太郎の作家としての筆名は森鴎外。この名前の方が有名。
しかし本人は林太郎と鴎外は別人格とでも考えていたのか、医師として立っている時に文学関係の知人に声を掛けられると怒鳴りつけた。
「今の私は鴎外ではない。弁えろ」とでも言った?
今回は森鴎外ではなく、森林太郎としての顔を妄想。
津和野藩医を務める森家に生まれた林太郎、幼い頃から優秀で年齢を二歳サバ読んで東大入学。
当時は14歳から入学可能でしたが、林太郎は11歳10ヶ月でした。
卒業後、陸軍省に入り、軍医の道。
ドイツ留学。この時に細菌学を学ぶが、薬が効き過ぎたというべきか、細菌の恐ろしさが身に沁みたように潔癖症に。
決して生水は飲まないし、野菜や果物を生で食べることは以ての外。果物もどろどろになるまで煮てから食べるように。
ついでに言うと、彼の好物は饅頭茶漬け。文字通り、ご飯に饅頭を乗せてお茶漬けにしたもの。いくら私が料理好きでもこれは再現したくないですな。
話題が急に変わるようですが、日本独自と言ってもいい病氣が脚氣。
末梢神経が痺れるようになっていき、歩行が困難になり、最終的には脚氣衝心という症状が起こり、心臓停止で死に至る病。
身分が高い人が罹患することが多く、江戸時代になると江戸市中で流行したことから江戸患いとも呼ばれた。
陸軍軍医として総監にまで昇りつめた林太郎は、この病氣は脚氣菌という細菌によって起こる伝染病と考えた。
ところで当時、陸軍では日に六合の白米が糧食として支給。
家を継げない次男とか三男が腹一杯、白い飯が食べられるということから志願兵に。
海軍では軍医、高木兼寛の指示で糧食に麦飯や洋食を取り入れていた。
日清戦争では400人以上、日露戦争では27000人以上の陸軍兵が脚氣で死亡。
海軍兵は日清戦争では0。日露戦争では僅かに3人。
ロシアの士官は日本兵は戦闘前に酒を飲んでいるのか?と言ったとか。つまり足がもつれるような走り方。脚氣の症状です。203高地で戦死者が多く出た一因は脚氣ではないのか?
脚氣というのはビタミンB1欠乏により発症するということが現代ではわかっている。
精米する時に除かれる胚芽や皮にそれが含まれているので、白米を食べる上流階級が発症。平和で豊かになった江戸でも流行ったということ。
農村では玄米のまま食べたり、精米しても副産物である糠で漬け物を作って食べていたのでビタミンB1が不足することはなかったということ。
白米だけでは栄養バランスが悪い。高木はそれに氣づいて麦を混ぜ、肉食を勧めることでビタミン不足を防いだ。
こうして見れば、脚氣は食事で予防出来るのが明白なのに林太郎始め、東大医学部は脚氣細菌説に固執。頑なに陸軍の食事を白米から変えなかった。
日露戦争を描いた映画やドラマで、脚氣で苦しむ兵士や足が縺れる兵は描かれない。司馬遼太郎の『坂の上の雲』でもそんな描写はない。
田山花袋が『一兵卒』という小説で脚氣に苦しむ兵士を描いた。
田山自身が日露戦争に従軍。自身の体験を基にした自然主義文学。
司馬により戦後に書かれた小説と実際に日露戦争に従軍した人物の小説。どちらが真相に近いかは考えるまでもない。
まして司馬が書いたのはフィクションだが、田山は自然主義といって自身の体験を基にした写実的な小説。
林太郎のもう一つの顔、文学者の森鴎外はこんなことを書く筈がない。
明白な結果が出ても、脚氣は細菌によって起こる。我々はまだ菌を発見出来ていないだけだと支離滅裂とも取れる論文を林太郎は書く。
間接的に何万という兵士を死に追いやったとも言える。
白米だけではなく、副菜等を工夫して付ければよかったのかもしれないが、兵士自身が白い飯を腹一杯食べたいと望んでいたのかもしれないので一概に森林太郎だけが悪いとも言えない。
一般的に頭のよい人や偉い人はなかなか自分の過ちを認めたがらない。
自分の説が間違っている筈がないという自信や、自分より立場が下の者に頭など下げられないという矜持がそうさせるのでしょう。
人間はなかなか進歩しないようで、現代の政治家でもそんな人。何とか太郎は「全責任は私が取る」と豪語して国民にワクワクさせておいて、ワクワク関連死が問題になってくると、自分は運び屋に過ぎないなどと言い逃れ。
不要なマイナーなカードをごり押し。偽造が問題になってくると、目視すればわかると責任転嫁。
先日、ついに輪苦珍訴訟が新聞に載った。
今まで推していた議員とか医師でも逃げを打ち始めた。
間違ったら謝りましょうと学校で教わりませんでしたか?
自分より立場が下の人間は虫けらだから頭下げる必要などないと学んだのか?
政治家や医師等でなくても、あなたの職場にもそういう人がいるのではないか?
明らかに自分の誤りでも部下になど頭は下げられないと考える上司。そのくせ顧客や世間という利害関係が絡むと、取り合えず頭を下げておけとばかりに米つきバッタ。
昭和の頃にはよく聞いた話だが、令和の現在でも絶滅はしていないのではないか。
魚介の出汁をトマトの酸味とココナッツミルクのまろやかさが包み込む。
ちょっと高級なシーフードミックスなのでイカや帆立の弾力も素晴らしい。
玉葱のアリシンで食欲倍増で匙が止まらない。大蒜の風味も興を添える。
ピーマンには水溶性、不水溶性どちらの食物繊維も含まれる。カリウムやビタミンCも頂ける。
「舞姫」とか「山椒大夫」等の現代でも読み継がれる作品を遺した文豪、森鴎外ですが、軍医、森林太郎としては人を救うべき医師なのに自説に固執したあまりに間接的に多くの兵士を戦う以前に死に追いやったとも言える。
当時はビタミンの存在は知られていなかったので仕方ない面もあったかもしれませんが、森林太郎が自説はもしかしたら間違っているかもしれないという柔軟な考えが出来たら、何か変わっていたかもしれない。そんな妄想をしながら、ムケッ脚氣で誤った森林太郎をご馳走様でした。