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"DIVIN" Vol.19
『DIVIN』(ダイヴィン)は、国内外の様々な記事や読んだ本、面白いinstagramアカウントなど、生活している中で得た「誰かに教えたい情報」をお伝えするニュースレターです。
RUN+COMMUTEというアイデアと世界観の作り方
2014年にアメリカ・ボストンでスタートしたTracksmith。
落ち着いたカラートーンやメリノウールを採用したランニングウェアを提供し、それまで原色や大きなロゴで溢れていたスポーツウェアマーケットに鮮烈な印象を与えた。
NIKEを始めとするブランドが、黄色や赤色の派手なカラーリングのウェアを発売し、運動することや走ることを非日常的なエンタメのようにデザインし発信した。
可愛く派手な服を着て、運動することを楽しい、ポジティブなものにする。そのブランディングは確かにランナーの裾野を広げ、フィットネス愛好者を増やした。
一方、自分は大きなスウォッシュが入ったロゴでもなく、原色のウェアもあまり着ない。
”一番過ごしやすい服”である、スポーツウェアを普段着のようにできれば着たいので、黒やカーキなどのウェアを買うことが増え、ロゴも小さいかもしくは無いくらいのものが好きになった。
そんな中で知ったTracksmithというブランド。ウェアのカラーリングやロゴの置き方がまさに好みで、そしてInstagramで投稿されている写真がなんともクール。日本では見掛けないブランドだが、お気に入りのブランドとなった。
そこに登場するランナーはただスリムな写真映えするカッコいい、可愛いモデルではなく、地元で有名なアマチュアのランナーたちだ。彼らの走る姿はやはり自然体で、切り取られるシーンはどれも素晴らしい。走るコースも美しいロケ地ではなく、いつも走っている彼らのお気に入りのコースだったりする。
他のブランドたちが運動することを特別な、非日常的なエンタメの要素として売り出す一方で、本当にユーザーたちが運動すること、走ることを愛していることが分かる日常の一コマとして表現する。
Tracksmithが拠点を置くボストンは、伝統的にランニングと所縁のある土地。1897年に始まったボストンマラソンは、毎年開催のマラソンイベントとして世界最古のものとして有名だ。
Tracksmithが表現する世界観や、モデルとして出演する人々がどれも等身大で日常生活の中に自然と入り込んでいるのは、まさに見た目だけではなく、ランニングにまつわる”物語”の発信を行っているからだ。その物語を通じて、走ることを人々に喚起している。
素晴らしい写真たちの撮影はEMILY MAYEが担当。RaphaやTREKなども担当してるカメラマンだ。
そんなTracksmithの新しいコレクション。
テーマは「通勤ラン」だ。
ある地点からある地点に移動すること。
”レース”や”運動”の概念が存在するずっと前から行動として存在する概念。
ランニングは当たり前にウォーキングよりも速くAからBの地点に移動するために存在していた。
21世紀の今、ジムで”走る”ために、車で移動してトレッドミルを走ったり、世界中を飛行機で移動してレースに参加したりすることは珍しくなくなった。
そんな新しい当たり前の中で、最もシンプルなことをテーマにした。目的地を選んで、ひもを締めて走ること。
一般ランナーにフォーカスする彼らが選ぶテーマは、毎日行う移動である通勤をランにしようというもの。
今回のコレクションでは、落ち着いたトーンとシルエットのジャケットとパンツを中心に、ラップトップも快適に運べるバックパックなどだ。
ロンドンに住むレオンはストアマネージャーとして働き、自宅から職場への45分間の通勤ランを続けている。
マジーはニューヨークにある広告会社でストラテジストとして働く。
アイデアに煮詰まったとき、お気に入りの秘密の場所を走るのがお気に入りだ。
「公園にはいつものランナーがいます。私たちは完全に見知らぬ人ですが、頻繁に顔を合わせています。『おはようございます』と軽く挨拶したり、もの静かなランナーには軽く会釈をするくらい。
仕事場に着くまでに、私の心はクリアになり、これから取り組むことに対して準備ができているの。」
と語るニコル。彼らの言葉は美しい写真と相まって、リズムよく、そしてリアルに聞こえてくる。
快適さや利便性を求めるのであれば、公共交通機関や車を使って通勤したほうがいいのかもしれない。
Uberを使えば、リビングから数クリックで家の前まで車を呼べて、会話なんて一切ナシで目的地まで連れてってくれる。支払いのコミュニケーションもない。その間に本を読んだり、好きなドラマをNetflixで観れる。
それでも彼らが敢えて通勤ランをする理由。それは利便性だけでは説明できない”なにか”があるから。やり甲斐は時に不便な中で、トライする中で獲得できるのだ。
”自由な場所”で働くこととイノベーション
不動産はご存知の通り、「場所」に依存しているビジネスモデルだ。
アメリカのハイテク企業の従業員たちは、サンフランシスコなどの高コストの地域から逃れ、リモート作業を行っている。
ただし、イノベーションが起こるかという点で、このリモートワークは課題が残るとされている。
イノベーションのブレークスルーは、ダラス、サンディエゴ、サンアントニオ、フェニックス、ヒューストンなど人口が100万人以上の都市で最も促進される、というものが最近の研究で発表された。
現在、アイダホ州ボイシ(人口22万人)やテネシー州のナッシュビル(人口66万人)といった中小規模の都市が不動産投資先として人気を集めている。
しかしこの研究結果では、やはり大都市に拠点を置くべきとしている。家賃や人件費などの面でトレードオフがあるとはいえ、それらのコストはより大きなイノベーションで相殺することができるとしている。
Amazonは第二のヘッドクオーターとして中都市を選択した。Amazonのような、ロジスティクスにとっては完全に理にかなった判断だ。つまり、スペースと手頃な労働力。シアトルにあるAmazonの本部(人口75万人)も同様だ。
ただし他のスタートアップやテック企業は大都市にいるべきであると、この研究者は論じている。それは、人口統計だけでなくアイデアの面で、より広く、より多様なコミュニティの一部に存在する必要があると言う。
都市が大きくなればなるほど、文化や時代背景、思考スタイル、経験、視点で利用できる人材が多様になる可能性が高くなる。
大都市にはその分、カルチャー施設や研究が行われる大学、複数の産業やビジネスセクターがあるためだ。そして、その結果、人々は定期的にクリエイティブなアイデアにさらされる機会があるとしている。
コロナにより、特に人が密集している大都市では、人と人との対話は制限されている。その結果、都市から離れ生活し、アプリやビジネス・コミュニケーションツールを使って仕事をしている。
ただし、これは長期的には可能なのか、というのが論点だ。
リモート作業は生産性を”維持”できることを示しているが、イノベーションと呼べるアイデアやコンセプトが本当に最先端である場合、それらを表現するための語彙がなく、共通の”言語”がなければ、人々はアイデアや概念を表現して体験するために物理的なコミュニケーションを必要とする。
チームメンバー、グループメンバー間でのこのような非言語的なコミュニケーションは、突発的に発生するリモートコミュニケーションで達成することは非常に困難であるのだ。
ZOOMのような、スクリーン越しのコミュニケーションは、新しいアイデアをブレインストーミングするのには適さず、人々が直接対話するのには敵わないとする。
上記のロジックから、やはりオフィスというスペースが必要であるとし、また、その場所は大都市のほうがいいと主張している。
一方で、移動などの時間がなくなり快適な生活をもたらしたともされるリモート生活。
皆さんはどのような考えを持っているだろうか。
レコードの復興
アメリカでのレコードの売上がCDを越えたという記事。それは1980年代以降で初めてだったという。
CDの登場はそれまでのカセットのようなデバイスから大きく進化したものだった。容量は大きくなり、サイズはコンパクトになり、好きな音楽を好きなだけ聞くということを可能にした。
しかし、Spotifyやapple musicなどのストリーミング市場が伸びてくると、CDは中途半端な存在となった。
その反面、レコードは不便さ、不完全さでストリーミングの逆に位置するものとなり、リバイバルとなった。
ディクスに入っている曲は数曲に限られ、一々ターンテーブルに載っけて、終わったら裏返し、そしてまた元のジャケットにしまう。
ターンテーブルもレコードも手入れが必要だ。ストリーミングに慣れてしまった人には想像できない不便さ。
しかし、その手間こそが新鮮に写っている。レコードショップに行き、ディグってお気に入りの一枚を探す。そこには便利なアルゴリズムによって導き出されたレコメンド機能は無い。
1曲目から順に聞いていき、アーティストたちのそのアルバムの流れを意識し、音を楽しむ。
従来、レコードは早送りや、ある曲だけ流すということができないため、曲順や構成がとても考えられていると聞いた。勿論、今のアルバムやプレイリストもそうだけれども、Spotifyで聞いている自分はシャッフル機能をONにしているし、1曲目からお行儀よく聞くということはしなくなっていた。
今年に入った頃、ふとレコードというものが気になり、ターンテーブルを買い、代々木上原や幡ヶ谷のレコードショップを回って何枚かのレコードを購入した。
朝起きてから、夜寝る前に、お酒を飲みながら。その時々にレコードを選び、少しの手間を楽しんで音楽を聴く。
そんな時間が実に好きだ。
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。今回は”利便性”をテーマにトピックスを選んでみました。
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edited by Ayumu Kurashima
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