2021 荒ぶった作品6選
①橘小夢「高野聖(日本挿画選集)」(1930) 弥生美術館
今年衝撃的なインパクトを残し、虜にならざるをえなかったのが橘小夢!!!!小夢の絵に合間見えてしまった日の夜は悪夢にうなされるがごとく、異世界との境目に誘う系画家。
この「高野聖」は泉鏡花の小説の挿絵として描かれたものです。「あやしい絵展」で見たのですが、わたしゃもうこの絵が忘れられないよ!!泉鏡花といえば鏑木清方が仲良しなのでもちろん彼が描いた口絵や芝居の絵看板もあるし、他にも梶田半古や川端龍子もこの作品をテーマに絵を描いているのですが、比べて見てよりわかる小夢の圧倒的悪魔表現。この裸の男性、僧やで。煩悩と対峙してるとか以前に、僧の存在自身に背徳感がありすぎるし、明らかに狙いを定めている女性の生ぬるい視線と香り立ちすぎている色気よ。彼女の美貌に騙されて魔法をかけられて動物になってしまった男たち(猿とカエルと蝙蝠)の品のないざわめきもたまらないポイント。このねっとりとした湿度の高さ、くらくらします。
この絵を見て、急いで「高野聖」を読んだのもとてもいい経験でした。文学をテーマにした絵画がやっぱり好き。
②北野恒富「いとさんこいさん」(1936) 京都市京セラ美術館
常設展の方でたまたま偶然、会いたかったこの絵に会えて大歓喜でした。
スペインのプラド美術館にあるマリアノ・フォルトゥニの「日本式広間にいる画家の子供たち」という絵が大大大好きなのですが、その構図とおんなじや!!!!と今年の初夏ごろにこの絵を知った時に衝撃を受けたのですが、まさかこんなにもすぐに本物が見られるとは。私はラッキーの持ち主なのできっと絵の方から呼んでくれたんだと思います。嬉しい。
庭先の床几に腰掛ける笑うお姉さんとむすっとした表情で寝転ぶ妹。一見会話が弾んでるようには見えないし、仲悪いんやろか?とも見えてしまうのですが、こんなに気心の知れた絶妙な関係性を描き出した恒富の観察力には唸りました。私にもお姉ちゃんがいますが、気を使わなさ過ぎて表情は無、相槌すら打たない時があります。夏の夕暮れ時に緩やかに流れる時間の美しさといい、親近感と愛着の湧く愛おしい作品でした。
また、二曲一双の屏風絵なので平面ではなくギザギザと奥行きがあるのですが、空間を仕切るという屏風本来のインテリアとしての役割に絵がのることで、目の前にその空間が実際に浮かび上がるような効果もあって、姉妹の会話に自分も参加しているかのような感覚になりながら鑑賞できたのが至高の体験でした。
https://kyotocity-kyocera.museum/100_selections/032
③川合玉堂「行く春」(1916)東京国立近代美術館
気づけばろくにお花見もせずに慌ただしく過ぎてしまった春ですが、心から美しいと涙が出そうになるほどの春の絶景をこの絵で見ることができて感無量でした。ダイナミックな激しい川の流れと盛大に舞い散る桜、そしてそこで働く人の力強い息吹。自然の圧倒的な偉大さに改めて畏怖の念を感じると共に、人の命の輝きの美しさも感じられてとても励まされた作品でした。
鑑賞者も少なくて、ゆっくり座って思う存分堪能できたのですが、あまりにも贅沢で実りある時間でした。
「四季にふさわしい作品を見る」という乙なことをするのが遠藤の目下の楽しみの1つですが、今年は冬に長谷川等伯の「松林図屏風」、そして春にこの「行く春」、それから秋に横山大観の「紅葉」と川端龍子の「愛染」を見ることができて、今年も美しい日本の四季を愛でることができました。はぁ、大満足。
ちなみにこの「行く春」は秩父の長瀞の渓谷が描かれていますが、推しの東京事変の「緑酒」のMVも長瀞で撮影されてて、この絵を彷彿させるような桜が舞い散る美しいシーンがあります!!紅白もこの曲を披露してくださるので、皆さんぜひ刮目してください!!!(誰)
④オディロン・ルドン「キュクロプス」(1914)クレラー・ミュラー美術館
まさかこの絵が今年、日本で見れるなんて誰も想像してなかったと思うのですが、もう本当に超最高マジでありがとう大好き案件でした!!!「ゴッホ展」に来てたのですが、この絵だけで展覧会開けるくらいの作品なのにさらっと飾ってあって、興奮し過ぎて過呼吸鼻血吐血蕁麻疹心肺停止しました(嘘つけ)。
全然来るの知らなかった時に、たまたまアトリエ遠藤の「荒ぶる芸術愛」で探求したのですが、その時にルドンの生い立ちやこの絵を描いた時の環境、この絵の題材になっているギリシャ神話(ホメロスの「オデュッセイア」にだけ書かれてる話)のキュクロプス(ポリュペーモス)について知れば知るほど心がかき乱されて感情が爆発してしまい、この絵にというかポリュに(馴れ馴れしい)会いたい!!!とずっと思っていました。
なので実際に会えた時、ポリュのナイーブで不器用な性格とルドンの閉ざされた心の扉を如実に感じると同時にその想像もしていなかった美しい色彩に(画像と全然色違った)、全遠藤がお叫びをあげました(うるさい)。本当に素晴らしかった。私的な魂というか念を感じるこの世ならざる者が描いたような神話画だった。
⑤青木繁「わだつみのいろこの宮」(1907)アーティゾン美術館
「あやしい絵展」で\大フィーバー/してしまった遠藤ですが、そこで青木繁が『古事記』を元に神話画をたくさん描いている画家だということを初めて知って、俄然興味が湧いたところでアーティゾン美術館の「STEP AHEAD展」でこの絵に出会いました。
山の幸彦がお兄ちゃんから借りた大事な釣り針無くしてしまって海の底に探しにいくんやけど、そこで豊玉姫と出会うんです。そう、浦島太郎と乙姫様の元ネタになってる話を描いた絵なのですが、まず一目見て心ときめいたのが泡の表現です。木が描かれているので一見地上のように思えますが、下からぶくぶくと泡が水面に向かって描かれているのを見て、あ!海の中なのか!と気づくのですが、そのセンスよ。おしゃれすぎるやろ繁。
そして豊玉姫と侍女のヌーディーな体に貼り付くスケスケ衣服と、やけに色っぽい山の幸彦がこの絵に妙なドキドキさを与えてて、遠藤は(くそうっ…!やられた…!)とまんまと繁の罠にはまってしまいました(別に罠じゃない)。
遠藤が宇宙一愛するラファエル前派が好きだったそうで、きっと仲良くなれる…!と思いきや、離別した妻に対してロセッティに触発されたのかひどすぎる言葉(みだらな~的な)を残して悪女に仕立てあげるというとても良くないこともしていて(あやしい絵展の図録に「実生活と虚構を分けることに失敗していたようである」って書いてあった)、世紀末の時代の風潮しかり、そういう点も含めて知らなければいけない画家の一人だなと気づいたきっかけになりました。
⑥横尾忠則「解かれた第七の封印ー画家の誕生」(1991)セゾン現代美術館
「横尾忠則展」、600点!!の信じられない数の作品すべてから放たれるパワーが凄まじくてあまりにもヘトヘトになり過ぎて感想を書けなかったのですが、様々な作品に心撃ち抜かれまくった上に、何より横尾先生の燃えたぎるようなエネルギーと、無くなることのない「見たことのないものを見てみたい」という強い好奇心が眩しすぎて感!服!しました。
横尾先生がグラフィックデザイナーの後、45歳にして画家になってからの作品にはピカソを脅かすほどの信じられないくらい多くの画風の変遷があるのですが、この絵が描かれた頃の作品群はその密度と色の洪水と縦横無尽に組み合わされるコラージュのような構図によって脳みそが全然追いつかなくて何が何だかわからなくてパニック状態になる上に、彗星爆発のような突如得体の知れないものによる凄まじい衝撃が襲いかかってくる感じで、逆に思考が停止して深く考えられなくなるという初めての体験をしました。
謎解き大好き名探偵コナン遠藤はついつい正解を探して満足してしまうのですが、横尾先生の作品は私の五感に「感じる」爆弾を投下し続けてこられるので本当に疲れました(失礼)
ちなみに後から調べてみたら、これはヨハネの黙示録の「7つの封印」が解かれたこの世の終末の時に横尾先生自身が誕生されているシーンが描かれてるそうで、同時に大天使ガブリエルが救世主が宿ったことをマリアに告げに来たことと呼応させて芸術(作品)の誕生も表しているそうです。
「もう絵を描くの飽きたんですけど飽きた自分が描く絵を見てみたいんです」という旨のことを最近のインタビューでおっしゃってて、神・自然・宇宙などの大いなるものと横尾先生は同様の存在なのだ…と改めて感じました。
https://artsandculture.google.com/asset/the-breaking-of-the-seventh-seal-birth-of-artist-tadanori-yokoo/TQENRvjjf46iww