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朝のストレス
今週末は金曜日も含めた三連休だった。11月1日金曜日はToussaintという、殉教者をはじめとした死者たちを祀る日ということになっていて、ハロウィンはその前夜祭という意味があるらしい。ここに来るまでその由来を全く知らなかった。ハロウィンは日本でも知られているが、11月1日の祝日のことはほとんど知られていない。
休日の朝ごはんはみんなで一緒に食べる。何時かは決まっていない。一応、私の時間割のうえでは8時となっているが、休日はゆっくり眠りたいであろうジャックとイザベルのために、階下には降りず、部屋の中で音を立てないでできる他の予定を前倒ししている。二人はだいたい8時半くらいに起きることが多いが、ときには10時近い時もある。「あなたにとっては遅いでしょう、先に降りて食べていていいのよ」と言われたこともあったけれど、むしろそれで起こしてしまう方がストレスになる。
それに、みんなで食べるときの方がパンに塗るものを心置きなく使える。この家に来て初めのうちは出してくれていたチョコレートペーストは、ある日から平日の朝には出されなくなった。イザベルに「使ってもいい?」と聞いたところ「いいよ」と出してくれたが、「なぜ食べたいの?」と聞かれもした。こちらこそ、なんで「なぜ?」と聞かれなくちゃならないのか尋ねたくなったが、その時は適当な理由をつけてやり過ごした。休日みんなで食べているときに使うのは何も言われないし、平日でもジャックに聞いたときには「もちろんいいよ」と簡単に出してくれたから、使ってはいけないというわけではないだろうけれど、毎回尋ねるのは億劫だし、勝手に棚から出すのもなんだか悪いことをしているようで気が引ける。
この週末はイザベルの大の親友だというマリーさんが泊まりに来ていた。とても優しい人で、一昨日の晩はケーキとリンゴのお菓子を分けてくれた。食べものに釣られる自分を少し滑稽に思うが、嬉しいものは嬉しい。お菓子は私からすればとても高いです、と言ったら、フランスには砂糖に課税されていて、それが原因だろうと教えてくれた。
4人で朝ごはんを食べていると、フランソワとエマニュエルが朝早くに出かけて行ったときの音が聞こえたか、という話になった。私は全く気づかなかったが、他の3人はみんな聞こえたという。みんな音に敏感なんだな、と思っていたらイザベルが「たしか昨日、大きい音で目が覚めたのよ。たぶんあなたの部屋だと思うけど」と、いきなりこちらに矢が飛んできた。だが思い当たる節はない。どんな音かと聞いたら服がずり落ちるような音だったと言う。やはり覚えがないが、それにしたって、「大きな音」とは言い過ぎだろう。服がずり落ちる音なんてたかが知れている。それくらい許してくれ…と気持ちのうえではかなりぐったりしたし、真っ先にこちらを疑うの、なんなの?、とも思ったが、わかんないなぁ、という顔をするのにとどめておいた。
イザベルはよく私に「フランソワが夜遅くに帰ってくる時の音、聞こえた?」と、音のことをよく話題にするし、今回もそんなに糾弾するつもりもなく話題に出したのかもしれない。もっと静かにしてほしいならはっきりそう言うはずだし、私も自分でないのだから堂々としてればいいのだが、朝の物音を話題にされることには、正直、まいっている。
下手な勘ぐりをしなければいいのだろうが、話題にされること自体の意味を考えてしまう。相手の行動を自分の基準や解釈でとらえないほうがいいと頭ではわかっていても、気持ちや考えは勝手に浮かんでしまう。
関係が悪いわけではない。昼間に歌う分には何も言われないし、会話も普通にするし、一緒にゲームをしたりご飯を食べたり、互いに洗い物をしあったり、意味もなく目があって笑いあったりもする。ただ、少し難点があるだけだ。その齟齬を相手全体に広げないこと。全てがピタリと一致してうまくいくなんてことは、たぶんない。それが他人と生活するということなのだろう。これも経験だ。
木曜に追加で払う必要があると言われたホストファミリーの滞在費は、結局のところ問題なかった。これで一月のはじめまでイザベルとジャックのところにいることが確定したが、その先はおそらくホストファミリーが変わる。受付のリザには一月になったらまた残りたいか変えたいか希望を聞くね、と言われたが、イザベルには一月のはじめまでね、と言われた。一月以降も変えたくないといえばこのまま残れるのかよくわからないのだが、年の変わり目だし、私にとっても他のフランス人の家庭の暮らしを観察したいから、ちょうどいい。
それに、学校のスタッフの一人、ソフィアは、前もって言えば滞在する都市を変更することもできると言っていた。交通定期券はボルドーで一年分で買ってしまったし、なによりサンドラさんのレッスンもあるから、あまり長くボルドーを離れたくはないが、せっかくだから1か月だけとか、短期で他の都市にも行ってみたい。