シェア
綾夏
2020年12月20日 23:25
サー。という継続的な音と共に目が覚めた。カーテンを開けると、いつものような真っ白な光線が瞳孔に差し込んでくることはなく、重苦しい灰色の景色が上空にあった。久しぶりの雨だった。何となくテレビをつけると、たまたま気象予報士の落ち着いた機械的な声がした。今日の担当は男か。「この地方では、現在弱い雨が降っている模様ですが、雨雲は今後東へと抜け、昼頃には晴れるでしょう。雨上がりは気温湿度ともに非常に高く
2020年12月13日 18:37
大学の窓口でコンクールのことを聞いて、その場で勢いで書類を書いて、速攻で応募した。大学側が絵を出品してくれるそうだから、少し助かった。無事に絵を提出して、少し一息つきたくなって、私は、学生の共同スペースに来た。いつもは素通りしているところだけれど、よくよく見ると、席が沢山あるし、色んなサークルのポスターが掲示板にびっしり貼ってあるし、英検とか漢検とかTOEICとかの応募用紙などもちゃんと置いて
2020年12月12日 22:10
息を切らしながら玄関のドアを勢いよく閉める。郵便物がなにか入っていたみたいだったけど、今すぐじゃなくていいやって、放っておいた。リュックサックを投げ捨て、腕をまくって、遅刻ギリギリで着席する生徒のような勢いで、サッと椅子を引いてドスッと腰を下ろした。緑色のダッカールで、少し伸びてきて鬱陶しい前髪を、頭のてっぺんで留めた。鉛筆、鉛筆…。消しゴム、練り消しゴム…。しばらく触っていなかったから、ど
2020年12月11日 10:01
つまらない講義を聴きながら、講義中に落書きをしながら、なんとなく過ごす毎日。いつの間にか桜は散って、キャンパス内は新緑の柔らかな葉で包まれていた。あの日以来、あの子のことはあまり見かけなくなっていた。席については落書きし、落書きしては授業が終わり、みんなが騒ぎだしたのを合図に講堂を出る。特別なことが何も無い毎日を繰り返していた。家に帰れば、作成途中の絵が、机の上に放り出されている。構図が決まって
2020年11月28日 20:22
「残念ながら、不合格です。」これで4度目だった。絵を描きたくて、私だけの絵を作りたくて、美大を目指して、必死に絵を描いてきたのに。美術部の活動時間の他にも、朝学校が開く時間と同じ時刻に登校し、ホームルームが始まるギリギリまで美術室に立てこもって、キャンバスにむかっていた。各休み時間に早弁までして、昼休みもずっと絵を描いた。美術部の活動が終わったら、入試の時に持っていって試験官に見せるためのスケッ