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綾夏
2020年12月22日 19:44
このお話のタイトルを募集していたところ、とある方からタイトルの案をいただきまして。その案が個人的にすごく好きで、もうこれにしようと決めました。さてさて。今回のお話は、マガジンの説明にも書いてあるとおりの、絵が上手くいかなくて仕方なく文学部に入学した女の子と、本が好きという理由だけで、なんとなく文学部に入学した男の子のお話でした。2人の共通点は、お互いに、入学したところに対して、納得がいっていな
2020年12月22日 18:44
桜叶くんが作品を出品してから数ヶ月後のある日だった。いつもならトントンと一定のリズムで聞こえてくる足音が、今日はなんか違かった。「深咲!深咲っ!」リビングのドアを思い切り開けたかと思えば、息を切らした桜叶くんの声が部屋中に響いた。ただ事ではない雰囲気が部屋の中を取り囲む。何があったのか分からなくて、私はとても不安な気持ちに包まれて、無意識に眉をひそめていた。「深咲。聞いてくれ。俺、やっ
2020年12月21日 15:34
大学で私は、絵の上手い文学生として人気者になり、友達が徐々に出来始め、一人では行かないような店に友達と放課後に行ったり、新しい服を買ってみたり、色々なことをして、充実した学生生活を送った。相変わらずサークルには入らなかったけれど、絵だけは描き続けた。文化祭の時は、実行委員の人からポスター制作や内装のデザイン案を任されたり、文芸サークルが毎年出している文集の表紙を描かせてもらったり、色々絵を描く機
2020年12月20日 23:25
サー。という継続的な音と共に目が覚めた。カーテンを開けると、いつものような真っ白な光線が瞳孔に差し込んでくることはなく、重苦しい灰色の景色が上空にあった。久しぶりの雨だった。何となくテレビをつけると、たまたま気象予報士の落ち着いた機械的な声がした。今日の担当は男か。「この地方では、現在弱い雨が降っている模様ですが、雨雲は今後東へと抜け、昼頃には晴れるでしょう。雨上がりは気温湿度ともに非常に高く
2020年12月13日 18:37
大学の窓口でコンクールのことを聞いて、その場で勢いで書類を書いて、速攻で応募した。大学側が絵を出品してくれるそうだから、少し助かった。無事に絵を提出して、少し一息つきたくなって、私は、学生の共同スペースに来た。いつもは素通りしているところだけれど、よくよく見ると、席が沢山あるし、色んなサークルのポスターが掲示板にびっしり貼ってあるし、英検とか漢検とかTOEICとかの応募用紙などもちゃんと置いて
2020年12月12日 22:10
息を切らしながら玄関のドアを勢いよく閉める。郵便物がなにか入っていたみたいだったけど、今すぐじゃなくていいやって、放っておいた。リュックサックを投げ捨て、腕をまくって、遅刻ギリギリで着席する生徒のような勢いで、サッと椅子を引いてドスッと腰を下ろした。緑色のダッカールで、少し伸びてきて鬱陶しい前髪を、頭のてっぺんで留めた。鉛筆、鉛筆…。消しゴム、練り消しゴム…。しばらく触っていなかったから、ど
2020年12月11日 10:01
つまらない講義を聴きながら、講義中に落書きをしながら、なんとなく過ごす毎日。いつの間にか桜は散って、キャンパス内は新緑の柔らかな葉で包まれていた。あの日以来、あの子のことはあまり見かけなくなっていた。席については落書きし、落書きしては授業が終わり、みんなが騒ぎだしたのを合図に講堂を出る。特別なことが何も無い毎日を繰り返していた。家に帰れば、作成途中の絵が、机の上に放り出されている。構図が決まって
2020年12月10日 13:28
あの日から、私は毎日、画用紙とにらめっこして、鉛筆で線を加えては消して、消しては加えてを繰り返していた。大学の授業も本格的に始まり、毎日朝から桜のトンネルをくぐるようになった。初めてトンネルをくぐった日に出会ったあのひとには、もう会えていなかった。毎日校舎に入る前に、あの桜の木の下を確認するのだけれど、誰もいない。正直、髪の毛と日陰で顔がよく見えなくて、顔がわからなかったから、探そうにも探せない