見出し画像

勝ち組とも負け組とも言えぬ自称・中流階級が読む「私に似た人」【名言で語る読書#05】

素敵な作品に揺さぶられた感情を忘れないように読書歴1年弱の若輩者のアヤセがお送りします。
この記事が新しい本を知る機会だけでなく、すでに読んだ人が「ああ、こんなのあったなぁ」と思っていただけると筆者冥利に尽きます。


1.雑すぎる作品紹介


小口テロと呼ばれる小規模なテロが頻発するようになった日本が舞台。
一つ一つの無差別殺人事件はどれも無関係のように思われたがある一点でのみつながっている。

それは、事件の首謀者はみな、自らを「レジスタント」と称し、社会に対して抗議の姿勢を取っていること。

貧困層と呼ばれる、社会的に恵まれない人々が起こす計画性のない小さな規模の犯行である「小口テロ」を中心に物語が進む。

テロを実行する者、テロリストを追う者、テロを傍観する者、テロを扇動する者、テロリストを憎悪する者……

あなたは一体誰に似ているのか。

様々な視点から描かれた社会派小説



2.激熱フレーズ・ポイント(ネタバレ注意)

2-1.テロを傍観するもの

「──社会への不満?それがなんですか。不満なんて、誰だって持ってますよ。完全に自分の人生に満足して生きている人が、世の中に何人いるんですか?私だって不満はあります。でも、みんながちょっとずつ我慢しているから社会が成立しているんでしょ。我慢をせず、不満を暴力で訴えるなんて、どんな事情があるか知りませんが、それは間違いなく"悪"ですよ。」

──私に似た人(総理大臣のセリフより)p.35


まずは、総理大臣のセリフを紹介。

作中では、さほど核となる登場人物ではないものの、歯切れのよい物言いが受けたこれまでにない型破りな総理大臣として紹介されていた。

私見だが、このフレーズは共感できる人が8割くらいいるだろうと予想している。

社会に対して、あるいは自分の人生に対して不満のある人が世の中の大多数を占めているという前提で、「我慢」をしているから社会が成り立っているのだという主張。
暴力という行為に及んだ時点でどのような背景があろうがそれは”悪”とみなすという考え方。

総理大臣がこれを言うから「歯切れのよい…」と言われるだけで、共感するというか内心そう思っている人がかなりいるのではないかと思う。

つまるところ、テロに対して傍観者としての立ち位置を取るような人の大半の思考回路だろう私は思う。



2-2.テロを実行するもの

憎悪は、半紙に垂らした墨汁の一滴のようだった。もう二度と心は白い状態に戻らず、黒い一点がじわじわと広がっていく。

──私に似た人p.53


次はテロを起こす側の視点からフレーズを紹介。

先ほどのフレーズに共感した人であっても、実はこのフレーズも割と理解できるのではないかと思う。

一度、憎んだり嫌いになったりするとその対象に対しての不満はとどまることを知らず膨張し続ける。

そういう感情を墨汁と半紙に例えて表現していてすてきだなと思ったので紹介。

言ってること自体はかなりドス黒いのに、文学的で個人的にお気に入り。



2-3.テロを扇動するもの

〈でも君は、負け犬の状況から脱する努力をすべきなんだ。(中略)君の生は、君自身が意味づけしてやらなければならないんだ。それを忘れないことだ〉

──私に似た人p.110


次はテロを扇動する者の視点からフレーズを紹介。

ここで注目すべきは、何かを実行させようとするものは往々にして、実行者とは一定の距離を取って、どこか見下しているという点魅力的な言葉を使って相手を乗せるというのがとても上手いというところ。

何かについて負い目を感じていることを的確に指摘し、「それではいけない」と明確に言葉にすることで相手を奮い立たせる。

三流は手を動かし、二流は口を動かし、一流は人を動かす」という我が人生から得た教訓が非常に表れているなと感じた一節。

方向性がテロじゃなかったら……と思わざるを得ない。



2-4.テロを達観するもの

「情けは人のためならず、という言葉はまさに日本人の気質をよく表しています。日本人は他人のためを思って親切にするのではありません。自分が物をなくしたときにも返ってきて欲しいから、他人に情けをかけるのです。しかもそれは、経済力があるからこそできることでしかありません。本当に困窮していたら、拾った財布を交番に届けたりはできないでしょう。(後略)」

──私に似た人p.491

最後は達観している者の視点からフレーズを紹介。

日本人の気質を表してるかどうかに関しては個人的には賛否だが、わりかし的を射た発言だとは思う。

余裕があるからほかの人を気にかける余裕があるし、だれかを救いたいと考える人が大半だろう。
本当は損得勘定抜きに目の前の人間に手を差し伸べられる人間でありたいと思う一方で、実際にはそうはいかない葛藤をこの文章から抱かされた。

貫井氏は本当に人間の痛い部分というか隙間をつくのが上手だなあと感心。


3.まとめ

様々な立場の人間が登場するので、「自分ってこういうところあるよな~」とか「この考え方めっちゃわかる……」みたいなのが見つかる一冊だと思う。

そして内容自体に割とリアリティがあって数十年後の日本はもしかしたらこうなっているのでは……という考えが頭をよぎる瞬間が何度もあるので、物語に現実味を求める人にこそおすすめ。

あなたは一体、誰に似ているだろうか。


本日もお読みいただきありがとう。

読んでくれた方々にも幸あれ。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集