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『翻訳できない世界のことば』を読んで|感覚や感情に輪郭を与える言葉
すこし前に、味わいや香りといった身体的感覚をどう翻訳するかという話を、ある翻訳者さんのインタビューで読みました。言葉と文化は密接につながっているから、その文化を持つ国や地域にしか存在しない言葉を知ると、彼ら・彼女らの暮らしを垣間見せてもらった気持ちになります。
今日、『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース/著、 前田 まゆみ/翻訳)を読みました。この本は、他の言語に訳すときに一言では言い表せないような各国固有の言葉を世界中から集め、瀟洒なイラストを添えたユニークな単語集です。
私が気に入ったユニークな単語たちをいくつか紹介します。
mångata/モーンガータ
水面にうつった道のように見える月明かり
(スウェーデン語 名詞)
pisang zapra/ピサンザプラ
バナナを食べるときの所要時間
(マレー語 名詞)
fika/フィーカ
日々の仕事の手を休め、おしゃべりしたり休憩したりするために集うこと
(スウェーデン語 動詞)
feuillemort/フイユモール
枯葉のように色が薄れてゆく
(フランス語 形容詞)
Drachenfutter/ドラッヘンフター
夫が悪い振る舞いを許してもらうために妻に贈るプレゼント
(ドイツ語 名詞)
複数の言葉を組み合わせれば違う言語でも意味を伝えることはできますが、ひとことで表し、伝えることができる言葉が存在するのはとてもおもしろいなあと思います。
本書にはひとことで外国語に訳せない日本語として、「木漏れ日」「ボケっと」「わびさび」「積ん読」もが紹介されていました。
「木漏れ日」って、すごく美しいな日本語ですよね。外国語で表そうとすると「木々の葉の間から射す日の光」みたいに長くなるのに、それをひとことで伝えられるのがすてきだなあと思います。
逆に、日本語には、スウェーデン語の「mångata/モーンガータ」のように、水面にうつった道のように見える月明かりをひとことで表せる名詞はないのだな、ということにも気づけました。
これは日本語でも言えることですが、言葉にすることで感覚や感情に輪郭を与えられるのと同時に、言葉にすることで何かは零れ落ちてしまう(損なわれてしまう)気がします。
それでもなお、私は言葉を使って誰かとわかりあえるとき喜びを感じるし、誰かの言葉を通じてその人が見ている世界を知り、想像することで、自分の世界もすこし広がっていくのではないかな、と思うのです。
とても素敵な本だったので、言葉、感覚、感情、翻訳などに興味があれば、手に取ってみてください。イラストもよくて、「ギフトとしてよく贈られている商品」ランキングに入っているらしく、贈り物にもよさそうです。
感覚を翻訳するという営みにに興味がある方は、以下のnoteもぜひどうぞ。冒頭で紹介した、翻訳者さんのインタビュー記事です。