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感想を伝えるのが苦手でもいい――思考を形にするブレインダンプのすすめ

「どうして自分の思いをうまく言葉にできないんだろう?」

私は、本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりした後、感想を口にしたり、文章に残すのが本当に苦手です。

タイトルにもしている通り、本を読んで考えたことや、映画を観てやたら印象に残っていること、音楽を聴いて湧いた感情……

どれもいざ自分が口にしたり、文章に残した途端、その思考は形が崩れてしまって全くの別物になっている。特に、自分の考えや感情を誰かに伝えたいと思ったとき、その思いが強ければ強いほど、言葉にできなくなってしまいます。

また、そのアウトプットを受け取った人のフィードバックを聞いたときに、自分が伝えたと思ったものと全く違った受け取り方をしていたりすることも。そういった経験も相まって、「どうして自分の思いをうまく言葉にできないんだろう?」と言う気持ちは強くなる一方で、いつしか感想をアウトプットすることに躊躇うようになっていました。

アウトプットすることの難しさ

私自身、論理的に物事を整理して表現するのが得意ではなく、どちらかというと感覚や直感に頼ることが多いと感じます。その感覚を言葉にしようとすると、突然その幅が狭まってしまうように思うのです。

私たちの思考や感情には、言葉という一般化されて固定された表現枠に当てはめられない、自由で広がりを持ったものなのだと思います。

自分の考えを言葉にすると、話しているうちになんだか本質が少しずつずれてしまう経験を持っている方も少なくないのではないでしょうか?

なので「感想を言うのが難しい」と感じる人が、口下手だったり、何も感じなかったり、考えていないと言うわけではないと思っています。

ショーペンハウアーの「読書について」を読んで得た気づき

そんな思いを大学生の頃から持っていたのですが、最近、「Kindle Unlimited」でショーペンハウアーの『読書について』(光文社古典新訳文庫)を読んで、この思いは自然なことだったのではないかと気づきました。

思想本来の息吹は、言葉になるぎりぎりの点までしか続かない。その時点で思想は石化し、あとは死んでしまう。だが太古の化石化した動植物と同じように、末永く保たれる。思想本来のつかのまの生命は、水晶が結晶化する一瞬にも比せられる。

ショーペンハウアー/ 鈴木芳子 訳 『読書について』光文社古典新訳文庫 2013年

私が長年感じていた「言葉にすることで本質が変わってしまう」という感覚が、とても美しく表現されていたことに感動しました。

言葉というフィルターが、本質をぼんやりとさせる

また、このエッセイでショーペンハウアーは、本質的な思考や知識は必ずオリジナルの文献にあることを強く訴えています。

彼は、他者の考えを受け取るだけではなく、自分自身の体験や直感から得られるものこそが、本物の知識であると述べています。この考えは、私自身の「思考が論理よりも直感に基づいている」と感じる部分と深く結びついているように思います。

自分の考えですら、言葉にしようとした瞬間に別のものに変わってしまっているかもしれないのに、他人の言葉のフィルターを通すとどうなるのかは、簡単に想像できます。

私自身、哲学やその他の学術的な資料については理解が難しく、基本的に翻訳されたものを読まなければいけませんし、まとめや解説本を先に読んでしまうこともあります。しかし、それらは他人のフィルターを通して再構築された情報であり、オリジナルの本質とは微妙に異なることになるんですよね。

自分も他人のフィルターを通した解釈ではなく、自分の直感や体験に基づいた理解を重視したいという気持ちがあるため、ショーペンハウアーがオリジナルにこだわる理由が自然に理解できました。

「純粋な思考」をアウトプットするために私がしていること

しかし、映画を観たり本を読んだりした後、心の中に強く残る感覚があります。しかし、頭の中でこねくり回している間にどんどん時間が経ってその鮮明な感覚が薄れていってしまうこともよくあります。その結果、思考の輪郭がぼんやりとしてしまい、言語化するのがますます難しくなっているのです。

誰かが読む形で整理してアウトプットをすると、なんだか違った形になってしまうので、私は「ブレインダンプ」という方法でできるだけ早く、言語やイメージで残しています。

ブレインダンプは、頭の中に浮かんでいることをすべてフィルターをかけずに書き出す方法です。文法や構成を気にせず、浮かんだ思考をそのまま外に出すことが大切です。

私はブレインダンプ用にA5のノートを使っています。ブレインダンプのメモは、時系列もめちゃくちゃですし、「あのシーンは黄色くてまる!」みたいなかなり抽象的なイメージだったり、作品とは全く関係のない「何も思いつかないー」などの思考もとりあえず書き出しています。

何を書くかを判断する思考を挟んでしまうと、その時点で思考がまた別のものになってしまうので、とにかく浮かんだ思考にさまざまな判断などを加えずに頭に浮かんだことを書くのがコツです。

時間が経つと、忘れてしまう感覚を、ブレインダンプで残すことができるように感じています。実際に誰かに読んでもらうような感想を書こうとするときには、ブレインダンプのメモをもとに、整理するようにしています。

感想を書くのが苦手、という方もぜひこの方法を活用してみてください。もしかしたら、自分の考えをうまくまとめられるかもしれません。

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