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キリング・ミー・ソフトリー【小説】07_友にしてくれ


終演後、余韻に浸る間もなく熱気溢れた会場から冷え切った外へ。
汗でびしょ濡れのTシャツを風に煽られ、無理やり上着を羽織って寒さに震えつつ駅を目指す。
一晩の夢が覚める、解釈次第ではこれもライブの醍醐味。


「リリさん、そういえば帰りどうすんの?」
「東京まで戻れる訳なくない?泊まりがけ。朝、鈍行乗り継いで旅しちゃうんだ。遅番だもん。」
「夜行バスならもしや、って思って……は、明日、仕事?すげえ!」
リリさんは改札内のロッカーから自慢げにリュックサックを持ち出した。
中身より装飾の方が重たいのではないかと疑う勢いでバンドのラバーバンドやらキーホルダーが並ぶ、いわば戦利品コレクションだろう。
「こいつが相棒なの。どこ行く時も。」
彼女の宿泊先は同じ方面らしく、上り下りたった1つしかないホームの椅子に腰掛ける。


「私、ライブで遠征って初めてかも。だって関東圏内で大体遊べちゃうし。でも、今日はホンッッットに良かった。」
「泣いてたよね。」
「そりゃ、あんなん反則だよ。ずる過ぎる。」
話し足りないうちに電車が来て、僅か一駅で降りてしまう彼女につられ自分も下車した。
「あれ?アキくんのお家、もうちょい先じゃ…?」
「あのさ。」
不思議そうに振り返るリリさんに対し、一生分の勇気を絞ってずっと考えていたことを告げる。


「俺と、友達になってくんないかな。」
奇しくもかつての知成を彷彿とさせる言い回しになった。
周りの冷たい視線と彼女の妙な沈黙が怖い。
「何かと思った!待って、とっくに友達じゃないの、え?私だけ?」
「マジで?」
背後を電車が通り過ぎ、リリさんは呆れて笑い歳上の余裕を見せつける。
「ほら、スマホ出しな。連絡先交換しよ。」
「ありがと、今度は絶対そっちに行くから。」
「約束ね。」
決して会いたいなどと漏らさないつもりがまんまと罠にハマった。
因みに自宅では鬼の形相をした母に子供が出歩く時間帯じゃない、補導ものだとこっ酷く叱られるもさっぱり耳には入らず。


2018年、終わりかけの高校3年生。
ひとりの女性に恋をする。


以降はメッセージアプリ経由で連絡を取った。
そこで彼女が名乗るのはLily、即ち百合、花言葉は〈純粋〉。麗しさに見合った名前だ。
友達一覧から分かり易いよう広瀬千暁と登録していたせいで、こちらの個人情報はバレバレ。引き換えにリリさんはどうやら本名が〈莉里〉であるというちっぽけな事実を得る。更には、
変わらずアキって呼んでくれたらありがたい
……この期に及んで悪足掻きをした。


チアキ?
可愛いね、なんて表立って莉里さんは馬鹿にしない部類の人間だと分かっている。
が、少しでも格好付けたいのが男心。我ながら面倒臭いプライドだった。
そんな性格がより一層幼く映るのかも知れない。