鑑賞力をバクアゲ! ~美術を見る力をつけるためのガイド~ 第一回!
☆美術が好きで、何度か美術館に足を運んだことがある方向け
☆☆「ちょっとずつ勉強しているけど、まだ見方がよくわからない!」という方はぜひ読んでね
☆☆☆詳しい方にとってはつまらないかもしれません。
☆☆☆☆ちょっとだけ独自解釈含みます…あしからず!
こんにちは。
今回はひとつの名画をもとに、絵を鑑賞するときの(私なりの!)ヒントをお教えしたいと思います。
言わずと知れた、室町時代の画僧、雪舟の秋冬山水図です。
上図は2幅のうちの冬図です。
美術の本などではよく、「雪舟は中国北宗画*¹の流れを汲む…」という説明を目にすると思います。
それはどんなところから言えるのか?
(*¹ざぁっくりいうと、中国の院体画(画院画、つまり中央に雇われたプロによる絵画)の系譜です。詳しくはそのうち!)
実はこの作品ひとつを見るだけでも、そうであるということがわかります。
山水の中景部分を見るとわかりやすいですが、
山の上から斜め左下に向かって、薄墨で払った線いくつも走っていますね。
このような線を“斧劈皴”(ふへきしゅん)と言います。
中国山水画では、山や岩の質感や陰影を表すための“皺法”(しゅんぽう)という筆法を使います。
(逆に言うと、山々の描写法がある程度決まっている、とも言えます)
斧劈皴は、まず筆を(主に斜めに)置いた後、筆先と筆の腹を結ぶ線とは反対側にサッと払うように書く皺法で、華北*²の厳しい自然を描くのに適しています。
(YouTubeなどで検索すると、実演が見られます(^^))
(*²ざっくりいうと中国の北側の地域。詳しくはリンク先)
この技法をよくしたと言われているのが、
・李唐(北宋~南宋時代の画院画家)
・戴進(明初期の画家。浙江杭州出身。宮廷入りするが、帝の怒りに触れ帰郷。南宋画他、各時代の院体画をよく学んだという)
・浙派(戴進を祖とする画派。粗放、豪放な筆致が特徴)
この三者です。
※すごーく平たい説明で恐縮です。
雪舟が明に渡った1467年は、戴進が亡くなって数年後。戴進の影響を受けた画派が隆盛し始めた時期といえるでしょう。
※ただし浙派が浙派と呼ばれるようになったのは、後の世の事です。
雪舟が明にて師事したと言われる李在も、戴進と同じく斧劈皴を駆使しています。
(↑画像の山の部分を拡大してみてください。一部が斧劈皴で描かれているのがわかります)
つまり、秋冬山水図の山岳の質感表現は、直接的には同時代の中国の画派の影響、
間接的にはそれより遥か以前の南宋の画院画まで遡れると言うわけです。
もちろん見るべきところは山岳だけにあらず、樹木の表現や、構図についても語るとするならば、南宋の馬遠・夏圭に…
…等々、すべて挙げていくとキリがありません。
ただ、ちょっと気になることが。
浙派の影響…と言っても、あまりにも筆遣いが粗放すぎやしないか?ということ。
まさしく雪舟が雪舟たる所以…と片づけたいところですが、がんばって(無理にでも!)絵画の歴史の流れに紐づけたい。
ところで、雪舟が渡明した時代より前の、宋と元の時代、
それは中国絵画においては、文人画*³が勃興し、隆盛した時代でした。
*³またまたざっくりと、中国の知識人。詩や書、絵画などをよくする。
アマチュア画家である文人らは詩をつくるのと同じように絵を描き、時には絵を描くことで自らの胸の内を吐露しました。
それは画院画家のように技巧によらない、時に直情的とも言える絵でした。
宋代の文人墨戯画の創始者である蘇軾による作品と言われる、『枯木竹石図』(『枯木怪石図』とも)。
(掲載できる画像が見つからなかった為…リンク先で画像をご覧下さい!)
非常に奇怪な形の石から、これまた奇妙にねじれた木が生えてきていますね。
荒々しさ、力強さと文人としての鬱屈した気持ちの両方が伝わってくる、西洋の表現主義に近いと言ってもよいような作品です。
元時代になると文人画は、絵に跋文をつけるなどしてさらに詩や寓意と直結するようになります。
張彦輔 『棘竹幽禽图』
また、元々中国絵画においては写実より写意、技巧より詩情を重んじ、“気韻生動*⁴”している事を求める傾向があります。
*⁴南斉の謝赫による『古画品録』で挙げられた“画の六法”のうちの最初のひとつ
そのためか、より少ない筆数で的確に形と心情をあらわす“減筆体”(減筆画)が登場します。
南宋時代の梁楷の作品は、多くが日本にもたらされ、珍重されました。
荒々しさ、少ない筆数…
なんとなく、つながっているような気がしてきませんか?
もちろんこうした作品を、雪舟が実際に見た、というわけではないでしょう。
しかし少なくともこのような下地がまずあって、
この上に雪舟のオリジナリティが乗っかった。
アートはアーティスト一人にて成り立つものにあらず。
歴史はつながっている。美術の歴史もそうです。
ちょっと無理やりかもしれませんが。
ところで、
浙派や雪舟の豪放な作風は、本場中国ではその後粗放が行き過ぎて粗雑とみなされ、呉派にとって変わられてしまいますが、
日本では後の世まで大きな影響を及ぼしました。
鋭い山岳表現や点の打ち方などに、共通点が見られます。
室町時代に雪舟と、日明貿易によってもたらされ紹介された中国絵画の様式は、漢画と呼ばれ、
さらには狩野元信によって和と融合し、狩野派の画風として別の形で花開きます。
それは江戸時代、幕末、明治初期まで続いてゆくのです。
おさらい!
◎斧劈皴!雪舟のよく使う皴法
◎皴法を見ると時代性がわかる!
明の浙派→南宋まで遡れる!!
◎そもそもの中国絵画の、写実<写意重視傾向が、雪舟の作風にも影響?
◎雪舟の画風は狩野派が吸収! 明治初期まで影響大!!!
《参考文献》
任道斌・関乃平 著|中国絵画の流れ-上古から現代まで-|有限会社露満堂|1997.12.5
前田耕作(監修・執筆)_他|増補新装カラー版 東洋美術史|株式会社美術出版社|2000.2.10(2012.3.30 増補新装初版)
辻惟雄(監修)_他|増補新装カラー版 日本美術史|1991.10.15(2003.1.10 増補新装初版)
東京国立博物館 、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社|特別展 やまと絵展ー受け継がれる王朝の美|NHK、NHKプロモーション、読売新聞社|2023.10.11
根津美術館|特別展 北宋書画精華|根津美術館|2023.11.3
公益財団法人 三井文庫 三井記念美術館|三井家 伝世の至宝|公益財団法人 三井文庫 三井記念美術館|2015.11.
新蔵品選編集委員会(根津美術館学芸部)|根津美術館 新蔵品選 国宝・重要文化財|新蔵品選編集委員会(根津美術館学芸部)|2020.11.13
静嘉堂文庫美術館(公益財団法人静嘉堂)|静嘉堂創設一三〇周年・新美術館開館記念展Ⅰ 響きあう名宝ー曜変・琳派の輝きー|静嘉堂文庫美術館(公益財団法人静嘉堂)|2022.10.1
東京国立博物館、毎日新聞社|東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展 国宝 東京国立博物館のすべて|東京国立博物館、毎日新聞社|2022.10.18
《参考ウェブサイト》
雪舟 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.15.)
浙派 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.8.)
皴法 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.13.)
科学技術振興機構(JST)中国の科学術の今を伝えるSciencePersonalCHINA|文化の交差点【19-06】雪舟入明と「浙派」美術の東伝 (最終閲覧日2024.9.13.)
中国の絵画 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.15.)
李在 | 日本大百科全書 (japanknowledge.com)(最終閲覧日2024.9.15.)
e国宝 - 山水図 (nich.go.jp)(最終閲覧日2024.9.15.)
秋冬山水図 文化遺産オンライン (nii.ac.jp)(最終閲覧日2024.9.15.)
東京国立博物館 研究情報アーカイブズ (tnm.jp)(最終閲覧日2024.9.15.)
董其昌 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.15.)
李唐 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.15.)
梁楷 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.15.)
芸阿弥 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.15.)
謝赫 - Wikipedia(最終閲覧日2024.9.15.)