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日本酒週間@フランス全国 フランスの週刊フードニュース 2024.02.29


今週のひとこと

今週末日曜日、3月25日発刊の日経新聞の日曜版NIKKEI The STYLEのグルメ欄で「『Miso』発酵のおいしさ広げる」というタイトルの記事を企画担当させていただきました。WEBでも掲載されています。

この近年のフランスにおける日本の発酵食品に対する興味はいっそうに強まっており、独自に味噌や米麹を作るレストランのシェフたちに出会うことも少なくありません。乳酸発酵の漬物(ピクルス)を、エコを謳って余った食材で作るシェフたちが増えてきたのに驚いていましたが、今度は味噌にまでも、その興味を広げています。

パリ3区でオリジナリティ溢れる味噌を造るラボ「My Fermentation」を構えるユーゴ・シェーズさんの取材から、日本人の発想からは思い及ばない、独創性あふれる味噌の魅力の発見があったのを紹介しました。

本来なら味噌といえば大豆を使うのが基本ですが、シェーズさんは、大豆だけでなく、ルピナス豆、トウモロコシ、菊芋、かぼちゃ、バターナッツなどをベースに、米麹で味噌を作っています。栄養三大要素である、炭水化物、タンパク質、脂質を大豆のようにバランスよく含む食材であれば、同じように味噌ができる。

「My Fermentation」に並ぶ味噌は、まるで熟成した野菜ペーストのようで、バターを乗ったトーストパンに塗っていただくと、アペリティフにぴったりのおつまみにもなる。クリエーターであれば、想像力を刺激されるような味わいですので、是非機会があれば試していただきたいと思います。

シェーズさんは、もともとガストロノミー出身の料理人。日本で数ヶ月働いた時に得た経験から、味噌の魅力に導かれたそう。その後、あの世界の「ノマ」の発酵ラボのメンバーとしても抜擢されて、型にはまらない味噌造りを実践することになります。その時に覚えた、残ったライ麦パンで作る味噌は、パリでも作っています。

日本でも知られているパリのパン屋「ポワラーヌ」の3区にある支店の裏を間借りしているのが彼のラボ。ポワラーヌのライ麦パンを使った味噌は、絶品で、アンヌ・ソフィ・ピックやパスカル・バルボーなど、ミシュラン3つ星クラスのシェフが使用しています。

ライ麦パン由来の独特の酸味がもたらしてくれるうま味が、フランス料理にもぴったりで、野菜や魚・肉料理のソースなどの隠し味となっているのは驚きです。

こうした日本的な調味料が料理に取り込まれるようになったフランスのガストロノミーレストランの食卓では、ドリンクである、日本酒の需要も高まっていると感じます。

2月中にJFOODO主催で開催された、今年3回目となる「日本酒週間/Les semaines du Saké」も、挑戦的なイベントでした。

「日本酒と魚介類のパーフェクトペアリング」をテーマとして、パリを中心にフランス全国の選ばれし20軒のガストロノミーレストランが参加。各店舗、6店の卸業者が提案する全30種の日本酒から自分たちの既存の魚料理にあう日本酒を選んで、お客様に提案するというものでした。

今年参加するレストランは、ロワール地方ブロワにある2つ星レストラン「クリストフ・エ」やパリの2つ星レストランでティエリー・マルクスシェフによる「シュール・ムジュール」、また彼が牽引する「オノール」、3つ星シェフ、アンヌ・ソフィ・ピックがパリに展開する「ダーム・ド・ピック」など、錚々たるメンバーでした。

このイベントに賛同し、来年にも期待をしていますが、その理由にはいくつかあります。

国主導のイベントの場合、現地のシェフやレストランが参加をする見返りにお礼をお支払いするのが通例ですが、この「Les Semaines du Saké」の場合は、各レストランが自らイベントに参加し、日本酒を購入し、責任を持って「日本酒と魚介類のマリアージュ」をお客様に提案するということ。

レストランの経営において、ドリンクは大切な位置にあります。原価率が抑えられ、オペレーションコストも低いため、利益に直結する。さらに大切なのは体験価値の創出でもある。特に近年のパンデミック以降は、お客の嗜好が体験型に移行しており、ドリンクにもサプライズを求めるようになりました。

フランスでも、日本酒もお客の体験価値を高める素材として、非常に注目されていることは確かで、レストラン経営において、魅力的な素材であることは間違い無いでしょう。

「Kura Master」は「フランスで開催される、フランス人による、フランス人のための日本酒コンクール」と銘打って、2017年にはじまりましたが、今や審査員は名だたるソムリエたちをはじめ200名ほども参加。その知名度はフランス全国に広がっています。「Kura Master」の組織員たち、その活動によって、日本酒への希求はうなぎ上りとなっているといっても過言ではありません。

ただ、「Kura Master」に興味はあるけれど、人脈などのアクセスがない、つまり、マーケットはあるけれど、プロの中でポテンシャルとしての日本酒難民が増えている。

「Les Semaines du Saké」では、それこそ「Kura Master」の委員長でソムリエMOF所持者のグザヴィエ・チュイザ氏がマスタークラスを行ったり、「Kura Master」発起人で、運営委員長の宮川圭一郎氏がスタッフのトレーニングに関わったりなど、日本酒と太いパイプのなかったレストランにチャンスをもたらしたのではないかと思います。

「日本酒と魚介類のペアリング」に着眼したのも「Les Semaines du Saké」の今後のポテンシャルにもつながるのではないかと感じています。日本酒は、白ワインに対してグルタミン酸含有量が数倍多い。魚介類がもとももつグルタミン酸と生成するイノシン酸との相乗効果で「うま味」が倍増するのです。

味噌に話を戻すと、味噌にもグルタミン酸が多い理由は、大豆たんぱく質が発酵工程でグルタミン酸などのアミノ酸に分解されるから。日本酒の場合は麹のもつ酵素が米のタンパク質を分解する過程でアミノ酸が生成されています。

「Les Semaines du Saké」に参加をした店の「日本酒と魚介類」のペアリングを何店舗かで試しましたが、いくつかの発見がありました。

パリ17区の高級魚介専門レストラン「エレーヌ」では、醸し人九平次「 EAU DU DESIR」(愛知県萬乗醸造)をサービスするのに、提供する直前に、あらかじめ体温ほどに温めたピッチャーに入れて、グラスに添えて出してくれたのが印象的でした。また、パリ9区の魚介専門のビストロ「ベル・メゾン」でも、瑞穂黒松剣菱(兵庫県剣菱酒造)を常温においたコップグラスで提供してくれました。そのようにした理由を聞くと、うま味が立つから、と。うま味は30度から肌の温度で強く感じられるというデリケートな感覚をソムリエさんが見抜かれた上でのサービスでした。

帆立貝とのマリアージュは季節柄、また日本酒にも合わせやすいので頻発しましたが、川スズキのカルパッチョやターボット、からすみ、もちろん生牡蠣など、さまざまな魚介類と個性的な日本酒とのマリアージュに、日本人としてもあらゆる発見がありました。改めて別媒体でも紹介する予定です。

Belle Maisonにて。皿の上のコップに入っているのが日本酒
Restaurant Helenにて


今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。【A】第7回フランス寿司選手権開催。【B】ランスのガストロノミーレストラン界に新風。【C】セドリック・グロレのカフェ誕生。【D】コンテンポラリーホテルが企画する、ファッショニスタを巻き込んだパリ初のファッション・プライズ。

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