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北緯17度線を越境する、ベトナム映画の優雅な誘惑 『漂うがごとく』に寄せて
無知を承知で告白するが、ベトナム映画はどうやらニューウェーブ期を迎えているらしい。既存の体制を解体し、新たなる運動のもとに先鋭的な映画をつくる流れは、先進国を顕著にはるか昔からあるわけだが、それが近年ベトナムでも起きているのだという。では、その新しき潮流とは何か。
STAFF
監督:ブイ・タク・チュエン
脚本:ファン・ダン・ジー
撮影:リー・タイ・ズン
音楽:ホアン・ゴク・ダイ
CAST
ド
過食と痛風、愛玩と淫行 | 映画『女王陛下のお気に入り』に寄せて
まずは予告編をご覧くださいませ。
STAFF監督:ヨルゴス・ランティモス脚本:デボラ・デイヴィス、トニー・マクナマラ製作:セシ・デンプシー他撮影:ロビー・ライアン衣装:サンディ・パウエル美術:フィオナ・クロムビー編集:ヨルゴス・モヴロブサリディス音楽:オスカー・スクライバーン
CASTオリヴィア・コールマンエマ・ストーンレイチェル・ワイズニコラス・ホルトジョー・アルウィンジェームズ・ス
いずれ心が晴れるまで。 映画『夜明け』に寄せて
人は誰かを「助ける」ことはできても、果たして「救う」ことはできるのだろうか。誰かを助けようとして、自分の心中に、その人を助けることで満たされる自身のエゴを見ることはないだろうか。人を救うことで逆に救われるという共依存の関係は、一見豊かなものとして見えるが、両者を支えているその関係性の差異を読み違えると、現代を取り巻く人間関係の不毛なコミュニケーションの様相が浮かび上がってくるだろう。
この『夜明
目に染みる青と、眩い陽光 『きみの鳥はうたえる』 短評
映画は主人公の「僕」と同居人の静雄、そして、彼らの前に現れる佐知子というヒロインを軸に、揺らいでいく人間関係の模様を、ひと夏の出来事のなかで丹念に描き出していく。しかし、物語のなかで、その関係性を歪めさせるような劇的な事件やトラブルが起こるわけではない。彼らは函館のクラブで気ままに踊り、夜通し飲み明かし、夜明け前の青みがかった通りを歩き、三人でビリヤードを楽しみながら、ただひたすらに笑いあう。
LA地下世界へと潜水する6日間 - 映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』に寄せて
物語の舞台がハリウッドであり、その粗筋が失踪した美女の行方を追う探偵ものであり、さらに奇妙でオカルティックな陰謀論めいた事象が重なり合うということで、先行作品の筆頭に掲げられていたのが『マルホランド・ドライブ』だ。デヴィット・リンチが作りあげたこの傑作には、まさしくハリウッドという都市が抱え込んだ人間の欲望や羨望や嫉妬、憎悪のかたまりが、ものの見事にハリウッド・ロマンスの輝きのなかに包み込まれて
もっとみる奇妙に循環するフォックストロット 映画『運命は踊る』に寄せて
「人生は不条理だ」という、そんな圧倒的な現実が目の前に立ち現れたときこそ、人間は皮肉にも運命というものを実感するのかもしれない。特に現代はそうだ。幸福なときに感じる運命よりも、悲劇に見舞われたときに感じる運命の方が、人生のなんたるかを言い当て、妙な説得力を感じさせる。これも現代の皮肉だ。この映画の原題であるフォックストロットが、動き出したら必ず元の位置に戻ってきてしまうダンスのステップであるよう
もっとみるその悲鳴だけが、沈黙を突き破る - 映画『クワイエット・プレイス』 短評
ホラー映画の歴史は、映画という表現方法そのものの、発展と革新の歴史でもある。近年の傾向でいえばファウンド・フッテージものの映画などは、ビデオならではの映像表現を、演出としてのテクニックに応用した見事な例だ。撮影技術の進歩と、その技術を応用して斬新な演出方法を編み出してきた歴史は、古くは『カリガリ博士』(1920)などの古典的傑作からも読み取れる。俳優であるジョン・クラシンスキーが監督も兼任した『
もっとみる耳を澄まして - 映画『寝ても覚めても』短評
ヒロインの朝子は、どちらかといえば内向的で、口数も多くはない女性である。しかし、彼女は常に周囲の空気を感じ取り、周りの人々の話す言葉にも耳を澄ましている。監督である濱口竜介は、撮影が始まる前の段階で、俳優同士が役になりきった状態でお互いにインタビューをし合うというワークショップを行っている。これは前作の『ハッピーアワー』の制作時にも同様に、人に話を聞きに行くというワークショップを行っているが、こ
もっとみる母と娘の、母性をめぐる生存競争 - 映画「母という名の女」
ミシェル・フランコの映画は、大それた事件や直接的な暴力が描かれるわけでもないのに、心をひやりとさせ、一瞬呼吸を止めさせられるような恐ろしさを秘めている。長編二作目である『父の秘密』(2012)でカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でグランプリに輝き、それ以降カンヌの常連として非常に特異な作品を発表し続けている。
彼の新作『母という名の女』は、メキシコを舞台に二人の姉妹の生活を描きながら、若