喪失の予兆 映画『ジュリアン』によせて
先進国のなかでも、人権や性のあり方といった問題を考える上で、常にそのモデルとして参照されてきたフランスですら、現実ではいまだ家父長制という伝統的な価値観が大きく、男性の支配力は女性に比べて圧倒的に強いということを『ジュリアン』という映画は示してみせた。しかも、子どもの親権をめぐる離婚訴訟や、夫からの家庭内暴力という陰湿にならざるをえない題材にもかかわらず、全編を通して緊迫感を保ったサスペンス調の演出が冴え渡り、決して退屈させず観客の内心へと突き刺さる刺激的な作品へと仕上がって