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「女の幸せ」は時代によって変わるよ ―清水ちなみ『女のしあわせどっちでショー』―

 清水ちなみ氏の『女の幸せどっちでショー』(幻冬舎文庫)には、女性たち相手の様々なアンケート調査がある。それらの調査には様々なテーマがあるが、清水氏は「全世界に男三人女百人かいたらどれほどカップルが出来るか?」という仮定を持ち出している。そして、「この場合、女百人は全員男No.1を狙いにいくだろうって気がしませんか?」としている。
 これは傲慢極まりない。まずは、「女百人」全員を異性愛者だと決めつけるのは良くない。さらに、清水氏は「究極の選択」の一つとして「①容姿、才能、性格、財産すべて兼ね備えた女だが、死ぬまで『彼氏』がいない」「②すべて最悪な女だが、すべて兼ね備えた男が(自分が)死ぬまで『彼氏』」と設問している。この「彼氏」が問題だ。前述の「この場合、女百人は全員男No.1を狙いにいくだろうって気がしませんか?」といい、この「彼氏の有無」といい、「女は全員異性愛者」を大前提としているのは、実に傲慢極まりない。
 問題の「究極の選択」のうち、58%(約6割)が前者(彼氏抜きパーフェクトウーマン)を選び、42%(約4割)が後者(彼氏がパーフェクトマンであるだけのゴミ女)を選んでいたが、2000年に原本が出版されたこの本は、まだまだ「強制的異性愛主義ヘテロセクシズム」が健在だった時代のアンケート調査だったのだ。しかし、それから20年以上たった今なら、彼氏抜きパーフェクトウーマンになりたがる女性の割合はさらに増えるだろう。そもそも、この質問が問題にしているのはあくまでも「彼氏」であり、「彼女」ではない。つまりは、異性愛者ではない女性にとっては愚問そのものである。「恋人」を「彼氏」に限定している時点で、この質問は「究極の選択」ではない。レズビアンや両性愛者バイセクシュアル全性愛者パンセクシュアルの女性にとっては、選択肢が一つ減るだけの事でしかないし、ましてや、無性愛者の女性が後者の選択肢を選ぶ必要はないのだ。

 いや、たとえ全員異性愛者の女性だとしても、「蓼食う虫も好き好き」である。女百人は全員男No.1を狙いにいくとは限らない。それはさておき、恋愛や性愛や結婚などについて「蓼食う虫も好き好き」という場合、男性と女性とではそれぞれ理由が違うだろう。男性の場合は「俺でも行けそう」と、手っ取り早く男尊女卑欲求を満たしたがるのだろうが、女性は実利主義で男性を選ぶ傾向が強いだろう。それゆえに「美女と野獣」カップルはさほど珍しくない(もちろん、性差以前の問題として個人差はある)。正々堂々と「面食い」を公言する中村うさぎ氏のような女性はむしろ、少数派なのだ。

 さて、清水ちなみ氏の『女の幸せどっちでショー』は、原本が発行された時期からして、90年代を生きていた女性たちが当時どのような価値観で生きていたかを記録している。もちろん、アンケート調査の対象になった女性たちの世代や境遇はまちまちだが、田舎の高卒低職歴の団塊ジュニア女性の私にとっては、彼女たちから「バブルの香り」を感じる。実際、バブル世代の回答者は少なくなかったのだ。
 この本では「男女間の友情の有無」についてのアンケート調査があるが、ある女性は「恋愛は瞬間的なもので、友情は永続的なものだと思います。友情がなければ夫婦だって恋人だって長続きしないんじゃないかなぁ…」とコメントしている。さらに、あるQ&Aサイトで、ある男性回答者さんが「仲の良いベテラン夫婦は最終的には親友同士になる」と言っていた。そう、夫婦円満の秘訣は恋愛感情や性欲ではなく「友情」なのである。だから、男女間の友情を真っ向から否定する人は、何だか同性の友人も平気で裏切りそうで信用出来ないのだ。

【椎名林檎 - Can't Take My Eyes Off Of You】



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