性格とは何かーーより良く生きるための心理学
2020年8月20日に『性格とは何か』が発売になりました。今回はこの本の紹介と,執筆の裏話を書いてみたいと思います。
内容
本書の内容ですが,全体的には性格を巡るよくある疑問に対して,「こんな研究がある」と紹介しながら答えていく内容となっています。たとえば……
◎赤ちゃんに性格はあるのか
◎性格は何歳で完成するのか
◎大人になっても性格は変わるのか
◎国によって性格は違うのか
◎県民性のような国内の性格の差はあるのか
◎性格は時代で変わるのか
◎社会の変化に合わせて性格も変わるのか
◎男女で性格に違いはあるのか
◎恋愛や結婚に関連する性格はあるのか
◎普段の行動に性格は表れるのか
◎成功につながる性格はあるのか
◎性格を変えることはできるのか
こういった疑問です。多くの人が素朴に考えそうな疑問,そして授業をしている中でもよく出てくる疑問なのですが,これらに答えることを試みています。
ただし,こういった疑問に答えるためには,前提となる知識が必要です。そうしないと,そもそもこれらの疑問について考えることすらできないのです。たとえば,性格は類型なのか特性なのか,性格はどんな構造をしているのか,「性格が完成」とはどのような現象を指すのか,「変化」とは何を指すのか,「差がある」とは何を意味するのか,差を見る時にどれくらいを「差がある」と見なすことができるのか,などなどです。こういったことを踏まえておかないと,疑問に回答してもよくわからないままになってしまいそうです。ですので,今回の本でも最初に基本を押さえておいて,さらに至るところでこれらのような前提となる説明をするように心がけています。
主張
本書の最後には,
◎性格は変えるべきなのか
◎性格を知って何になるのか,どう役立てるのか
について考えています。
往々にして,性格の話は「自分はこういう性格なのだからこれに向いている」「あの人とこの人はこういう性格だから相性が合っている」といった話になりやすいものです。おそらく,多くの人が性格を知りたいという理由もそこにあるのではないでしょうか。
しかし,それは裏を返すと「それ以外は向いていない」「他の人とは合わない」という人生の経路を排除することにつながる思想でもあります。それはこの話の本意ではない,ということがいちばん言いたいところです。
この主張が伝わるのかどうかはわからないのですが……多くの人に手に取ってもらえればありがたく思います。
では,以下ではいくつか裏話を書いてみたいと思います。
執筆期間
「書いてみませんか」というお話をいただいたのはずいぶん前のことで,実際に執筆を始めたのは2020年の2月終わりくらいからです。論文のメモやネタはこのnoteにも書きためていますし,授業の資料にも溜まっていますので,あとはもう一度論文に目を通しつつ,整理しつつまとめていくという作業が中心です。
他にもお話をいただいているものはあって,ずいぶん待っていただいているものもあります。それもタイミング次第で執筆に取り掛からなくてはいけません。そういう依頼は期限が特に決まっていないものが多くて,本1冊となると書き始めるまでに時間がかかります。もちろん,期限が決まっている短い原稿については,締め切りに間に合うように書いていきますけれども。
原稿ファイルの日付記録によると,ファイル作成日が2月26日,最初の原稿の最終変更日が5月5日です。それを修正したものの原稿修正版が5月11日になっていて,それを出版社で検討してもらったようです(もう忘れている……)。文字数は,引用文献も含めて全体で12万文字程度でした。
ふだん書いている文章のことを考えると,論文1本が1万文字から2万文字くらい,本の1章が1万文字前後から2万文字くらい,一般向け記事が2千文字から4千文字くらい,毎日書いているnoteの記事が1本1500文字〜3000文字くらいです。それを考えれば12万文字くらいは……とは思うものの,「さて書き始めるか」と思い始めるまでに時間がかかってしまうものです。
今回は,コロナウィルス感染症の自粛期間が良いきっかけになりました。先行きが不安ですし,子どもたちの学校も休みになってしまいました。もしかしたら収入が途絶えてしまうかもしれませんし,国からの保証が出るのかどうかもわかりません。その一方で私学に通う子どもたちの学費は必要です……などなど,本の中にも書きましたが神経症傾向の高さからくる衝動に突き動かされて執筆をはじめたのではないかという……。
編集チェックに校正チェック
noteの記事は私が書いて「えいやっ」と公開してしまえば,そのまま人目に触れるわけですが,書籍の場合はまず編集者の原稿チェックが入ります。
一般向けの書籍の場合,ここで相当なレベルのチェックが入ります。以前の新書『性格がいい人、悪い人の科学』でも,編集さんの校正段階で章全体の移動や節構造の組み直しなどを行った記憶があります。
今回の場合,大きな構造の組換えの提案はなかったのですが(正直,文章を大きく書き直すのは大変なのでホッとしました),見出しの修正やセクションの切り分け,それから文章の書き方について大きく手が入りました。
それから今回,本当に感心したのが,専門の校正者の手が細かく入った点です。
文章の言い回しや矛盾点の指摘,訳語のチェック,文章の提案はもちろんのこと,ひとつひとつもとの論文まで確認して文献リストの著者名や文献名のチェック,論文を参照した上で研究結果の確認もしてもらっています。アメリカの州の地図が本の中に出てくるのですが,今回は論文に基づいて出版社で作成してもらっています。東海岸の州境は細かいですよね。その細かい間違いにも気づいて指摘してもらっています。
もちろん,作業のレベルは出版社によっても変わってきます。今回はしっかりやっていただいていて,さすがだと思いました。「情報はネットにあるから本を読む必要はない」と言われることはよくありますが,こういった作業を経ているだけでも,本を買う価値はあるというものだということをあらためて実感しました。
文章の癖
毎回,一般向けの本を書くたびに思い知らされるのが,自分自身の文章の癖についてです。自分でも本当に気づかないのですよね。原稿に赤ペンで修正されたものを見て,はじめて気づくことばかりです。
今回あらためて気づいたことのひとつは,自分の文章の中に指示語が多いことです。一応,それで(これもそうですね)文意を明確にしているつもりなのです。論文を書く時にはできるだけクリアな文章を書くように心がけるのですが,一般向けの場合には目的が変わりますので,その違いにも気づかされます。
最終的にはずいぶん修正されて,全体が読みやすくなりました。やはり,こういった指摘は定期的にしてもらわないといけません。
タイトル
今回も,原稿ができてしまって修正しながらタイトルが一番最後に決まるというパターンです。心理学のテキストや専門書だと最初に決まっていることが多いのですが,一般向けの本は「最後にタイトル」が多いですね。そして,編集者の方につけてもらうことがほとんどです。
原稿執筆段階では仮のタイトルがついていまして,ファイルには『性格の心理学—年齢・地域・時代の影響から日本人の特徴まで』と書かれています。最終的には原稿の内容を汲んでいただいて,『性格とは何か—より良く生きるための心理学』となりました。良いタイトルをつけていただいて感謝しています。
ぜひ
というわけで,普段あれこれと考えていることが反映した本でもあります。ぜひ手に取ってもらえれば,そして,この研究分野に興味を持ってもらえれば嬉しく思います。そして,ぜひ一緒に研究しましょう!
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