
食欲はどこから来るのか
「食べ過ぎてはいけない」と頭ではわかってるのに,つい食べ過ぎてしまう……私はいつもそうなのですが,みなさんはいかがでしょうか。
そんな私自身のことを理解しようと手に取った本が,今回紹介する本です。タイトルは『科学者たちが語る食欲』(デイヴィッド・ローベンハイマー, スティーヴン・J・シンプソン著)です。タイトルからして,日々の生活に欠かせない食欲について,何か秘密がわかるかもしれませんよね。
高タンパク食
「低糖質,高タンパク食」がよく話題になります。コンビニの中の食品棚を眺めても,某フィットネス会社の名前がついた食品は基本的に低糖質で高タンパクが謳われています。
しかしこの本の最後のほうに,次のような一節がありました。タンパク質そのものにメリットがあるのではなくて,タンパク質をとることで全体的なカロリーが抑えられる,ということなのだそうです。
初心者にありがちな間違いは,高タンパク質食のメリットが,タンパク質そのものから来ていると思い込むことだ。「高タンパク質食で体重が減った。体重が減って健康状態がよくなった。だから,タンパク質は健康によい」という,誤った三段論法がまかり通っている。
だがタンパク質は,糖尿病や心臓病などの肥満の合併症を改善する特効薬ではない。もうおわかりだと思うが,高タンパク質は,ただ総摂取カロリーを抑えるだけだ。それ以外のメリットはすべて,カロリーを減らしたことからやってくる。(p.322)
どういうことなのでしょうか。
タンパク質
この本の中でのポイントは,タンパク質の摂取にあります。
私たちには,最低でも5つくらいの成分に対する食欲があれば,健康に生きることができるようです。
おそらく,こう問い直したほうがいいだろう。人間が生存し健康でいるためには,最低でいくつの食欲があればいいのか?
答えは,5つのようだ。5つの食欲があればいい。それは,次の栄養素を摂取するよう駆り立てる食欲だ。
・タンパク質
・炭水化物
・脂肪
・ナトリウム(塩)
・カルシウム
(p.65)
この中でも,タンパク質に対する食欲と,炭水化物に対する食欲が,私たちを大きく駆り立てていきます。そして私たちは,知らないうちにそのバランスをとるように食べていくようなのです。
低タンパク質で太っていく
そして,私たちは一定の量のタンパク質を摂取すると,食欲が収まっていくようなのです。裏を返せば,そこまではいろいろな物を食べようと思ってしまうのです。ですから,次のような現象が生じてきます。
国連食糧農業機関(FAO)の栄養素利用可能性(栄養摂取と同義ではないが,十分近い)に関するデータベースによれば,1961年から2000年にかけて,アメリカの平均的な食餌組成は重要な変化を遂げ,タンパク質比率は14%から12.5%に低下した。
その分上昇したのはもちろん,脂肪と炭水化物だ。
アメリカ人は,このタンパク質比率の低下した食事でタンパク質の摂取ターゲットを達成するには,総摂取カロリーを13%増やすしかなかった。そしてその結果が,エネルギー(カロリー)余剰と,ひいては体重増加である。
誰も注意を払っていなかったが,ここ数十年間の動きをひとことでいえばそうなる。(p.110)
たしかに,菓子類もレトルト食品もインスタント食品も,基本的にタンパク質の量は少なくできています。そして,炭水化物が足りないために,それを補おうとつい炭水化物と脂質を取り過ぎて,結果的に太っていってしまう……そんなからくりがありそうです。
タンパク質中毒
ちなみに,じゃあタンパク質ばかり食べればいいじゃないかと思うかもしれませんが,そうはいきません。タンパク質の摂取比率が高くなりすぎると,タンパク質中毒が起きてしまいます。
ウサギ肉は脂肪分が極端に少なく,羊肉の28%,牛肉と豚肉の32%に対し,わずか8%ほどだ。残りはタンパク質で,炭水化物はほとんど含まない。毎日ウサギ肉だけを食べていると,脂肪と炭水化物に対するタンパク質の比率が非常に高いせいで,たちまちタンパク質中毒に陥る。これはほかの2つの主要栄養素の摂取に比べてタンパク質の摂取が極端に多いときに起こる,まれな栄養障害である。
北極探検家のヴィルヤマー・ステファンソンもタンパク質中毒を経験し,次のように書いている。「ウサギを食べる者は,ビーバーやヘラジカ,魚などほかの食糧源から脂肪を得ていない場合,約1週間で下痢を起こし,頭痛,倦怠感,不快感を生じる」(p.120)
うーん,なにごともバランスが大切ですね。
ここから先は

日々是好日・心理学ノート
【最初の月は無料です】毎日更新予定の有料記事を全て読むことができます。このマガジン購入者を対象に順次,過去の有料記事を読むことができるよう…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?