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個性的な施主による個性的な家の話
どうも。
アトリエタカキです。
建築で稼ぐのがヘタなので
建築で食べていくのをやめて
建築家を続けようとしている建築家夫婦です。
「建築家」と聞くと
オシャレな建築をデザインする。
奇抜な建築をデザインする。
そんなイメージを少なからず持たれているように思います。
ところがそれは
核心をついた表現とは言えません。
もちろん奇抜な建築ばかりつくる建築家も中にはいます。
しかし同じ建築家という立場だからこそ
皆が皆そうではないと言い切ります。
いわゆる”普通の家”が
すべての人や家族のライフスタイルや
価値観に適うわけではありません。
個性的な人ってけっこうたくんさんいるんです。
建築の書籍や雑誌を読んでいても
建築家が何を考え何を意図して設計したか
に言及されるばかりで
建築家から見た施主の話というものが
語られることも少ないように思います。
そこで今回はそんな
わたしたちから見ても
ぶっ飛んだ施主
の話を記事にしてみたいと思いました。
※脚色せずに記憶の限り事実に基づいて書きます。
これは現在進行中の住宅プロジェクトなのですが
施主は夫婦と子ども2人の4人家族。
市街化調整区域という市街化を抑制したい地域なので
該当する土地の所有者に近しい親族でないと
原則、住宅は新築できません。
そういった地域に位置する
1万㎡超の広大な土地に奥さんの実家が建っています。
現在はその実家に4人家族が2間を間借りしていて
そろそろ自分たちの家を持ちたいということで
この敷地の中から場所を選んで新築したい
と設計の相談を受けました。
初めて敷地を見に行ったとき驚愕しました。
もはや、ひとつの公園です。
実家、元祖父母の家、叔母の家が建っていて
畑、ビニールハウス、作業小屋なども点在しますが
まだほとんどが余白です。
まだ井戸水を使っているそうです。
実家には5匹の猫ちゃんが棲んでいるので
外と自由に出入りできるよう、玄関が常に開いている。
敷地には薪ストーブを備えた
巨大なサーカステントが常設されていて
ここに友人家族が集まったり
クリスマス会を開いたり
毎週末のようにバーベキューをするそうです。
奥さんの同窓会をしたこともあるらしく。
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アクティブすぎる。
そして多趣味すぎる。
キャンプ、スキーなどのレジャーに加え
車やバイクいじり、DIY
キャンピングカーも所有しています。
雑誌に取り上げられるほどのキャンプ上級者。
もはや旦那さんはほぼ外にいるようなもの。
それだけでなく実は奥さんのほうが
型にとらわれない発想の持ち主という…
やばい。
すっごいのきた。
それが第一印象でした。
そんな彼らがなぜかわたしちに白羽の矢を立て
手掛けた住宅の内覧会を訪ねてくれました。
実はここ何年か他に住宅の相談をしていたけど
何度提案されても変わり映えしない
よくある”普通”の家に辟易していた様子でした。
何度かお話をする機会を設けて
カウンセリングシートも書いてもらいました。
内容はというと
30~35坪くらいが希望。
できれば平屋。
軒の深い家が好き。
かわいい仕上げを使いたい。
ガルバリウム鋼板を使いたい。
無垢フローリングに憧れる。
犬と猫を飼いたい。
防犯性を気にしている。
片付けが苦手。
パントリー欲しい。
ルンバ走らせたい。
できれば駐車場に屋根が欲しい。
まぁ文字に起こしてみると
一見は普通の要望ですよね。
そう。
しかしそれだけでは推し量れないのです。
いかにもありきたりな要望を書き連ねていて
彼らは自分のことを普通だと思っているようですが
話していると
明らかにぶっ飛んでるのです。
言葉に出している要望を満たすだけでは
とうてい満足できるとは思えない。
だからこそ
普通の家を提案されても満足できていなかった。
わたしたちは
何度も重ねた対話と要望、受けた印象をもとに
この家族だったらこんな家なら
のびのびと豊かに暮らせるんじゃないか
と想像していきます。
そして初回プレゼンの日。
彼らが一番喜んでくれそうな案を選んだつもりです。
少し丘のような形状になった敷地に
大きな屋根を架けます。
その屋根の下に
コンパクトな居住空間と
アウトドアでの活動を好む家族や
将来仲間となるであろう動物たちのために
簡素だけど囲われた
半外部のような土間空間を設える。
さらに
大きな屋根の下には余白がうまれ
子どもたちが雨の日でも遊べたり
車いじりができるガレージでもあり
友だちを呼んでバーベキューをしたり
暮らしが屋内にとどまらない
のびのびと暮らす家
といったプレゼンをしました。
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その反応はというと…
すっごい素敵!
てか、もうこれでいい!
ものすっごい喜んでくれた。
安堵。
そこから話は盛り上がり
打合せは4時間超。
何より驚いたのは
初回プレゼンというのもあったので
これでも一応様子見を兼ねて
安パイと呼べる提案にとどめたのですが
施主のほうからこんなことを言いだす始末。
居住スペースはもっとちいさくできます。
土間はもっと広いほうがいいかもしれない。
冷蔵庫、土間でもいいんじゃない?
ソファも土間でいい気がしてきた。
ピアノも土間でいいな。
屋根の下を車が通り抜けれたらいい。
キャンピングカーが壊れたら
屋根の下置いとけばもう一部屋できるじゃん。
夫は厳しい気候の日以外、土間で寝てるかも。
ポリカーボネート憧れる!
わたしたちも一緒になって
ニワトリ飼う?
草刈り面倒だからヤギも飼う?
ムツゴロウ王国じゃん!
外に薪ストーブ付ける?
もうほとんど外になっちゃうんじゃない?
アハハハ!!
なんて盛り上がりました。
次はさらに
施主の個性を反映した提案ができそうです。
冗談みたいな話ですが、事実なんです。
わたしたちの設計事務所史上
もっとも奇妙な住宅になるかもしれません。
世の中にはこれほどまでに
固定概念に囚われない人が存在します。
こういった人たちが
普通ではない建築を創造できる発想と熱量に期待を込めて
わたしたち建築家のところを訪れる。
そこで普通の家を提案なんてしたら
逆に断られてしまうでしょう。
私たち建築家は
ときどき奇抜な(普通ではない)建物を造るときがあります。
そういったアイデンティティを狙っている建築家もいますが
おそらく多くの場合が
施主の欲求に最大限応えようとした結果でもあるのです。
少なくともわたしは
奇抜ではない家を建てたいと思っている人に
奇抜な家を提案する気はありません。
HSP気質のせいか人の感情や心の機微には敏感なので
それを無視してまで自分の独創性を押し付けるなんて
とてもじゃないけどできないです。
わたしたちは
一貫したデザイン性や建築スタイルをあえて持たず
施主と向き合ってみて
そこから湧いてくる創造を大切にしています。
普通の間取りだけど素材にこだわった家
普通の間取りではない家
一見、奇抜な形に見える家
だから結果として
いろいろなものでできあがります。
ライフスタイルや価値観が”普通”でなければ
結果として”普通”に見える家にはならないのです。
ひとそれぞれに千差万別の個性があるように
建築のかたちにも千差万別の個性が出るほうが
わたしは普通だと思うのです。
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