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作家紹介 Maurizio Cattelan「comedian」

artist : Maurizio Cattelan
「comedian」

バナナをダクトテープで壁に貼り付けた作品。
日本円換算で約1300万円の価値がある。

昨年の12月上旬、David Datunaというアーティストが、パフォーマンスでこの作品を食べてしまうという珍事件(?)が起きた。

同氏に悪びれる様子はなく、そこら辺からバナナを持ってきて、15分後には元通りになったという。
この件で展示は中止となったが、作品の知名度が上がったために、「comedian」の値打ちは約1600万円へと跳ね上がったという。

さて、この作品は元々、バナナの交換を想定している。
バナナを交換しないと、展示期間中に腐りおちてしまうからだ。

とすると、作品を構成するバナナが、特定のバナナである必要がない。もちろんダクトテープも。

では、約1600万円という価値は、何につけられているのか。
この作品には、作家の名前を刻む(ブランド名のような)ところはない。所有者も、どのように特定するのか不明である(おそらく証明書を発行するのだろうが)。

この作品のシニカルなところはここで、作品に価値がついていること自体が、経済の仕組みを皮肉っている。

筆者はこういう作品をひとまず「経済アート」と呼んでいる。
バンクシーが「愛はごみ箱の中に」で、自由主義経済とオークションを批判したように、経済のあり方へ問いかける作品をこう呼んでいる。

comedianは、作品を構成する素材に依らない価値を提供していると言える。作家はその価値を付与したのだと。
しかし、こうも言える。「中身は何でもいい」と。

1600万円の価値は、誰にとって重要なものなのだろうか。
もちろん、作家にとってはある程度重要かもしれない。それを差し引いた場合の話だ。

おそらく作品の価値は、売り手と買い手にとって重要なものなのだ。
彼のアート作品は、丁寧な保管や修繕を必要とせず、″そこら辺にあるバナナとダクトテープを組み合わせるだけ″で、1600万円の価値を引き出せる。

逆に言えば、″それだけ″で1600万円の価値を付与できるのが、自由主義経済である。
これが皮肉でなければ何だろうか。ユーモラスなオブラートに包んでいるものの、そこには、日々何かしらの価値を高めようと奮闘する資本主義の人々を、どこかあざ笑うかのような意図が透けて見える。

Maurizio Cattelanのインスタを見てみると、comedianの次の投稿は、男性器の模型(たぶん医療用ではなくアダルトグッズ)をダクトテープで壁に貼り付けた作品が取り上げられている。来場者はこれをじっくりと見るわけだ。
この下品さも、作家の作風なのだろう。
(あ、comedianのバナナってそういう…)

実際のところ、中身は何でもよく、″売り手と買い手が高値で取り引きできる「何か(記号)」があればいい″…それが自由主義経済の仕組みである。

ただ、これは資産として、実利的な価値も持っている。

1600万円に換金できるものを保持しようとすれば、それなりに厳重に保管しなければならない。普通の作品なら野晒しにはできないし、どこかに預けるか、専用の倉庫も用意する必要があるだろう。
これは1600万円を現金で保持せず、銀行に預けることと同様のことだ。盗まれるリスクを下げるために、それなりのコストを払う必要がある。

しかし、comedianは物理的に盗み出すことができない。この作品は、″存在の仕方″がコンセプチュアル・アートだからである。

comedianは物理的に価値はなく、売り手と買い手にとって、売買する際の記号として機能する装置である。
逆に言えば、comedianは売買が成立しなければ、ただのバナナとダクトテープであり、単に奇妙なインスタレーションに過ぎない。

この作品をタイトル通りの「comedian」にしているのは、値段であり、その値段を機能させる仕組みである経済だ。
経済はまるで、自分たちの舞台に都合の良い喜劇俳優を仕立て上げるように、作品を持ち上げている。人気アイドルや声優で消費者を沸かせようとするのと同じことだ。

comedianの体裁はアートであり、アートの世界にいる人でなければ、気づきにくい仕組みなのかもしれない。
だが、何てことはない。テレビやそこらの売店でもやっているように、資本主義の仕組みに則った「商品」を売り出しているのである。

Maurizio Cattelanは立派なコメディアンだろう。
もちろん、経済に則った″喜劇作家″としての意味で。

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