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私のハイライトは私が決める
電子書籍を読んでいる。
これまでタブレットでサンプル版を読んだことはあったけれど、アプリを入れたわけではないのでさほど特別な機能は見当たらなかった。
今回、自分へのクリスマスプレゼントとして手に入れたkindle。
初めて購入した電子書籍は、期待通りの満足度で私の時間を満たしてくれている。
ところが昨日、ある個所で突然「傍線」が表示されていた。
横書きならアンダーラインというもので、数行にわたって文字の右側に引かれている。
それだけならまだしも、小さな文字で「〇〇人の人がハイライトをしました」みたいな文章がくっついている。
は?
で?
それがどうした?
10人だろうが100人だろうが、たとえば私を除いた1億2000万人の人がそこに傍線を引こうと、私には関係ない。
知りたくないだけでなく、ひたすら邪魔である。
緊張し高揚した心に水を差すどころか、バケツでぶっかけるに等しい。
検索して、設定のところでポピュラーハイライトをオフにすることができたので、いまも読書は継続中である。
あれがあのままなら、我慢できずに読むのをやめて、紙版を買い直していたかもしれない。
アンダーライン(ハイライト)の機能があることは知っていた。
だがそれは、自分が引いたところだけが表示されるのかと思っていた。
びっくりである。
自分用にカスタマイズする前に、読みたい本に飛びついてしまったのだが、初期設定の段階で「オン」になっているということは、一般的にほかの人がどこにアンダーラインを引いたかを知りたいものなのか。
そして、3人よりは10人、10人よりは100人というように、より多くの人が「ハイライトしました」と書かれてあるのを見て、安心するのだろうか。
感想や感動にまで、答え合わせを求めているのか。
みんなと同じでないと嫌なのか。
よしんばそうだとしても、みんなも感動しているだろうなと想像するだけでは足らなくて、わざわざ数字や文字で確認しないと安心できないのか。
というふうにAmazonは考えて、気を利かせたつもりなのか。
気持ち悪いったらない。
神保町の古書店をめぐって歩くのは好きだ。
でも、めったに買わない。
どうしても古本でしか手に入らないもの(希少性というより価格的に大差がある)なら一瞬は考えるが、そうでないなら、別の何かを我慢して新本を買うか、あるいは手に入れること自体を諦める。
古書店の 中也の本の書き込みに あなたかと思う 秋の夕暮れ
というのは、拙作の短歌だけれど、昔、ドラマで古本に挟まれた栞のような手紙で前の持ち主と時空を超えて恋をする話があった。
書き込みやアンダーラインに、前の持ち主の感性や人生を想像するのは悪くない。
でも、それはあくまでもその人と私の個人的な関わりである。
類型変更される前のコロナ期、初めはニュースが伝える感染者〇〇人、死者〇〇人という数字に怯えた。
しかし、慣れていくにつれ、だんだん減少や増加の傾向としてしかその数字をとらえなくなる。
死者10人には、10人それぞれのかけがえのない人生があって、それが奪われてしまったことは変わりないのに、データの持つ客観性が人間として寄り添う心を麻痺させてしまう。
私は「〇〇人の人がハイライトしました」に、それと似たような感覚をおぼえてしまった。
私のハイライトは私が決める。
そこにデータや客観性は求めていない。
仕事や自分が学ぶためだけのテキスト以外に、線を引いたり、マーカーしたり、注釈をメモしたり、付箋をつけたり、犬耳(端を折る)などを私はしない。
私しか見ない、人に貸すとかブックオフに持っていくことは絶対ないと断言できるようなものでも、初めてそのページを開いたときと同じような仕様を保ちたい。
気に入ったものは、何度でも読む。
昔の自分がつけた印を見て、自分で自分に先入観を与えたくない。
目を引くことは、なにひとつしたくない。
感動したり覚えておきたいことは、心に留めるか、別のところに写したりすればいい。
そもそも学習以外で「この箇所を覚えておきたい」と思ったのに、そこに書き入れないと忘れてしまうのであれば、それ自体がさほど心を動かしていないのだと思う。
本業、副業と人さまの文章をいじる仕事をしている。(いまは休み)
人さまが書いた文章に、容赦なく朱を入れる。
校正ではなく校閲なので、誤字脱字だけでなく、文章そのものを修正する。
バッサリ削除も結構ある。
そういうとき、校正記号だけでなく、傍線やアンダーラインをつけて余白まで引っ張り、内容を書き入れる。
Wordでも、直したところがそういうふうに表示される。
毎度、自分がされたら凹むよなぁと想像する。
元の文章を書いてくださったかたに申し訳ない。
その人の世界に土足で踏み込んで壊しているような。
仕事だから仕方がない。
ゆえに、線や記号の挿入は、私にはいいイメージがない。
仕事でも学習でもなく、100%楽しみのために購入した小説なのに、まるで作家が作り上げた世界(しかも共感し浸っている世界)を凌辱している感覚。
機能をオフにしてからは快適。
フォントをすこし上げて読みやすくなったけれど、ページとして見たときに余白が味わえないのはすこし淋しい。
なかなか、中身の感想まで行かない。
自分の経験や人生と重ね合わせて、心の寄り道が多い。
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