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【読書感想】汝、星のごとく  叶

友人が貸してくれた一冊。
まずタイトルが素敵『汝、星のごとく』。
あなたは星のように、の続きが気になる。
星のように美しいのかしら、星のように輝いているのかしら、
もしくは星のように届かないのかしら。
 
タイトルからこのような印象を持ち、
ページを開き、一行目。

「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく。」
 
胃もたれがしました。
わたしの記憶が正しければ、
歌野晶午の『葉桜の季節に君を想うということ』以来の書き出し即胃もたれコース。
なんてこったい。星の話はどうした。

だけど、書き出しがこの文章のおかげでわたしはスッと物語の世界に入っていくことができました。
続きも気になるしね。
そういう意味で完璧な一行目。実に巧い。
  
プロローグでは物語をとことん情緒的に見せたそうな少し酔った書き方、というイメージを持ったけれども、
読み進めると飾らず平たく読みやすい文章。
そうよね、最初から平たくしてしまうと初デートにジャージで行くみたいになってしまうものね。
メリハリが見事。
 
内容は少し変わった家庭環境で育っている高校生の暁海(あきみ)と櫂(かい)の初恋物語、といったところでしょうか。
 
印象的だったのは作中で暁海、櫂、それぞれの恋愛パターン・思考が親への接し方と似ていたこと。
特に櫂に関しては本来母親に求めたかったけど叶わなかったことまで暁海に求めている傾向にあった気がします。
「きっと俺を理解してくれる」「きっと俺を許してくれる」こんな感じ。
そこに若さで浮かれてしまったら、あんな風になってしまうわよね。
 
この作品はおそらく感動作なんだと思います。
ですが、わたしにはあまり刺さりませんでした。
刺さらないというか、自分の感情が大きく揺さぶられたり、考え方が劇的に変わったり、
そういった風にはなりませんでした。
むしろこの作品を読んでもわたしの考え方はブレないという事実の方にハッとしました。
この作品の中で『大切』とされていることは、
わたしが『大切』にしていることと非常に似ています。
ただし『現在に影響を及ぼすほど思い出に価値を見出す』点を除いて。

少し話は逸れますが、
わたしは現在の思考に侵食してくるような思い出が怖いです。

忘れられないくらい大切な思い出ならわたしにもあります。
きっとみなさんにもあるのではないかと思います。
ですが、あれらの思い出はおそらく今後の人生で更新されません。
いつでも眺められる状態で、
綺麗なまま永久に保存されているんです。
だからこそ暴力的と思えるくらい美しいまま変わらず誰の心にもあり続ける、
そういうものだと考えています。
ただでさえ美しいものに価値まで与えてしまったらわたしのような人間の場合、
あっという間に思考が『タラレバ』に飲み込まれてしまいます。
今の環境や今周りにいてくれる人、
それらをおざなりにしてまで優先させてしまうような思い出なら、それはもう、わたしにとっては今を侵食してくるただの呪いです。
大切な思い出を呪いにしないために、
わたしは思い出に教訓以上の価値を見出したくありません。

 
話を戻します。
さて、読み終わってから改めてプロローグを読み返すと最初読んだときと印象ががらりと変わります。
天晴。作者にしてやられました。
 
読む前も読んだ後も自分から率先して手に取らないであろうジャンルの作品でしたが、
読めてよかったと思う素敵な作品でした。
自分の中で『思い出論』が構築されていて、
想像以上に譲れないものとして自分が意識していることにも気がつきました。
 
続編の星を編むも読んでいますが、
こちらは出だしからなかなか好みの味。
読み終わるのが楽しみです。
 
作中唯一の真人間、結ちゃん。きみはしあわせになってくれ。
 
それではまた。
 


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