いけばな日記 〜 ためる、ということ
もうすぐ3月です。
日も長くなり、少しずつ春の気配が感じられるようになりました。
私が以前習っていた生け花は、この季節はよく桃を用いていました。
前にも書いたことがありますが、池坊には生花正風体という生け方があります。その型で生けた桃はとても風情があって好きでした。
池坊に限らず生け花では、光が射す方を陽方、その反対を陰方とし、それをふまえた上で花を生けます。
生花には3つの役枝があります。
上の絵の
①が真
②が副
③が体
となります。
それぞれにあしらいを添え、正面から見たらあたかも1本の植物のように水際をまとめて生けます。
真は陽方に少し曲がったように生けるのですが、最初からきれいにカーブした花材がないこともあります。
その時はどうするか。
ためるのです。
漢字で書くと、撓める。
たわめる、と読むとわかりやすいかと思います。
曲げるのです。曲がってないのなら曲げてみせよう、です。
しかし、曲がってほしいところ一点にオリャッと力を加えたらどうなるか。
賢明な皆さまなら想像つくことでしょう。ゆめゆめ早まってはなりません。
私が師匠から教わった「ためるコツ」は、離れたところからゆっくり丁寧に、ということでした。
急がば回れ。
急いては事をし損じる。
百里の道も一歩から。
まさに先人たちの教えの通りです。
目標を定め、少し離れたところから一歩ずつ進むのです。その結果、自然で美しい曲線が現れます。
これは、私たちの日常生活でも同じかもしれません。
急ぐあまり、周りをよく見ていないことはないか。早く目標に到達したいと焦ってはいないか。
ふり返れば、私の来し方には折れた枝が無数に転がっているように思います。
もうすぐ春。
新年度とともに新しい一歩を踏み出す方もおられるでしょう。
私の職場はボスのうちの1人が変わる予定です。何度も何度も繰り返してきた変化ですが、やはり少し緊張します。
でも、急がず、一歩ずつ。
自分を少しずつ、折れないようにしなやかにためていきたいものです。
そうしたら、美しいものが見られるかもしれません。
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