子どもが親に求めるもの(後編)
亀子「子どもたちは、最終的に血のつながりと6年間の育ちのどっちを取ったんですか?」
ウ仙「まぁその質問は言い換えれば、赤ちゃんの時に取り違えられた子どもたちは大人になってから『産みの親』と『育ての親』のどっちを本当の親として選んだかという話になるな」
亀子「そういわれると、そうですね」
ウ仙「実はな、どちらでもなかったんじゃ」
亀子「どういうことですか?」
ウ仙「前編でも言った通り『育ての親』が自分の親だと思っていたら『産みの親』が別にいたという事実が判明しても、6歳の時はその事実を受け止めきれずに『育ての親』がいいとなるんじゃ」
亀子「映画『そして父になる』でも書籍『ねじれた絆』でも同じだとおっしゃってましたね」
ウ仙「それが思春期を過ぎて、高校生くらいにもなると、親を(乱暴な言い方じゃが)品定めするようになるのじゃ。一人の大人としてな」
亀子「そこまでは前編でも伺いました」
ウ仙「取り違えられた子どもは二人いて、それぞれ親として品定めする対象は2組あるじゃろ?」
亀子「いますね」
ウ仙「二人の女の子は、2組の親を比較して『より愛情深い』言い換えれば『自分を子どもとして愛してくれた』夫婦を自分の親と認めたのじゃ。夫婦と言っても、とくに母親のほうじゃがな」
亀子「どういうことですか?」
ウ仙「2組の夫婦のうち、片方の母親はとても愛情深く、血がつながっていようといまいと二人の女の子を分け隔てなくかわいがったのじゃが、もう一方の母親はネグレクト(育児放棄)気味で子どもそのものにあまり興味がなく、不倫も繰り返して家庭をめちゃくちゃにする人だったんじゃ」
亀子「二人の女の子は、前者の愛情深い母親を選んだということですか?」
ウ仙「その通りじゃ。中学生くらいの時は二人で一人の母親を取り合いしたらしいぞ。『あんたなんか、血がつながってないんだから自分の母親のところに帰りなさいよ』とか『後からこの家に来たくせに偉そうなこと言わないで。私のお母さんよ』とか言い合って壮絶なケンカをしたようじゃ」
亀子「まさに血をかけた姉妹ゲンカですね」
ウ仙「それでもその取り合いになった母親は、二人に対して平等に愛を注いでいたので、二人とも母親の娘ということで落ち着いたようじゃ」
亀子「そのお母さんは立派ですね」
ウ仙「娘たちが選ばなかったほうの夫婦の、とくに旦那がな、その状況に憤懣やるかたなしだったようじゃが、仕方ないな」
ウ仙「いずれにしても、この話から言えることは、
子どもが親に求めるものは『いかに自分を愛してくれるか』
ということなんじゃな」
亀子「たしかにそうですね」
ウ仙「親側の『お腹を痛めて産んだ』ということや『長い間一緒に暮らした』ということは、子どもが親を評価する上で残念ながら考慮に入れられていないようじゃ」
亀子「子どもって恐ろしいですね」
ウ仙「前にも言ったと思うが『子育てに正解はない』とは言うものの、この話から考えられるのは『子どもに惜しみなく愛情を注ぐことは決して不正解にはならない』ということじゃろ」
亀子「むしろ正解のような気がしますね」
ウ仙「最終的には二人の女の子は紆余曲折があったものの、幸せな大人として今も立派に生きておるんじゃ」
亀子「それがよかったですね。人生が始まった途端に『赤ちゃん取り違え』なんて大事件に巻き込まれて、人生ゲームをマイナス状態から始めたみたいなものなのに」
ウ仙「もう一つ、この話から言えることはな、
人間というのは、自分に惜しみない愛情を注いでくれる人が一人いれば、誰でも幸せになることができる
んじゃよ」
亀子「なるほど。それは盲点でした」
ウ仙「多くの子どもたちは、産みの親と育ての親が一致していて、かつその親、とくに母親が惜しみない愛情を注いでくれているんじゃ」
亀子「ギクッーーーー!私はちゃんとできているかな」
ウ仙「おぬしも子育てに悩んだ末に、こうやってわしの話をずっと聞いておるくらいじゃから、それは子どもに必ず伝わるじゃろぅ。まぁわしのアドバイスをうまく実践してくれたら、よりいいがのぅ」
亀子「精進します」
こうして亀子はレベルが上がった。
『愛情を惜しみなく注ぐ』の魔法を覚えた。
亀子「ところでウサギ仙人様、『愛情を惜しみなく注ぐ』ってどうやればいいんですか?」
ウ仙「良い質問じゃな。それは『愛とは何か』という哲学的な問いに対して答えを出さないといかんな」
亀子「ぜひ伝授をお願いします」
ウ仙「その話も一つの大きな命題じゃから、次回じゃな」
亀子「ええーーー!!今回はまだ2000字いってないのに」
ウ仙「それはそれで残りの字数では語ることができないくらい大きな話じゃから、次回詳しく伝授するず」
亀子「じゃ早くお願いします」
ということで、次回亀子は「愛とは何か」について学ぶことになったのであった(つづく)