見出し画像

歴史の影に迫る『ソウルの春』

先日、楽天TVで配信されていた『ソウルの春』を観ました。

この映画を見るために、韓国では1,300万人以上もの観客が劇場に足を運んだそうです。国民の約4人に1人が鑑賞したとも言われていて、『パラサイト 半地下の家族』などの大ヒット作をさらに上回る数字だったようです。

この作品は、1979年10月26日に暗殺された大韓民国大統領をきっかけに、実際に起こった粛軍クーデター、通称「12.12軍事反乱」を題材にしています。


暗殺後に合同捜査本部長に任命された保安司令官チョン・ドゥグァンが、秘密組織「ハナ会」を率いて新たな独裁者を目指し、1979年12月12日にクーデターを起こします。一方、首都警備司令官イ・テシンは、軍人としての信念に基づいてその暴走を食い止めるべく、激しい攻防戦を繰り広げるのです。


チョン・ドゥグァンを演じたファン・ジョンミンは、この役を引き受けるために、頭を剃り、特殊メイク3〜4時間もかけてで鼻の形まで変えるなど、外見を徹底的に再現することにも力を注いだようです。そして自ら『演じるのに勇気が必要だった』と語るほど、政治的・歴史的配慮を要する役柄でした。



逆にイ・テシンは実在の軍人をモデルにしているものの、映画では名前や細部がフィクションとして描き直されています。

彼のキャラクターは、当時の混乱した政治情勢や軍内部の権力闘争を象徴する存在として描かれていて、理想が現実の圧倒的な状況の中でどれだけ孤独で無力なものだったかを私たちに伝えてくれます。



実話なだけに、ラストに救いを見出すことはできません。観客は圧倒的な無力感に包まれてしまうのですが、当時の人々が直面していた苦境や葛藤もとてもリアルに伝わってきます。

自分では思いもしなかった歴史の転換点に立たされオタオタとする人たち、事件や出来事は、時として予測できない速さで展開し、私たちの意識が追いつく前にとんでもない現実が動いていく様子が手に取るようにわかります。

事件から40年、今の視点からあの事件をもう一度見つめ直してほしいという願いが込められた作品です。

いいなと思ったら応援しよう!