『ウィリアムテル』 (中高生たちの超短編小説 004)
起きたくもないのに早く起こされてしまう。
自分の下にいるこの少年もまた恐怖しているんだろう。
気がついたら木の下にいる。また例の人間が弓を構える。
そしていつものように矢が射られる。
体の奥で何かが壊れて、溢れる。
どよめきがおこる。また英雄の小道具で終わりたくない。
私は精一杯身をよじった。つもりでいた。
このまま悲劇でも何でも起こってしまえばいい。少年の命なんか知ったことか。
だがそんな無駄あがきは伝説には不要だった。
リンゴは壊れてつぶれて捨てられた。
少年の上にリンゴを乗せて射るなんてのが間違っていたんだ。
体の痛みが鈍くなって、きえた。彼の伝説は後世に残るだろう。
私を、哀れなリンゴを、少年は忘れずにいてくれるだろうか...