『ヒモ』 (中高生たちの超短編小説 030)
「はい、今月の作曲費用ね〜」
天女のささやきが僕の毎日を躍起だてるのだ。
築27年3LDKの5階建てマンションの3回の一番奥、311号室。生涯夜型であった僕がこんな毎日朝8時にスッキリと目覚めれるようになるなんて。
「じゃ、今日もよろしく〜」
悠空の声が次第に玄関口の風の音にかき消されていく。ああ、もう少しいてくれればいのに、天女よ!
さて、僕は先程、『作曲費用』と呼ばれるものを手に取った。だが、よく考えてほしい。作曲に消耗品などあるのだろうか?あって弦の交換とかかな。でも、僕は作曲をするとし「ても」パソコンとMIDIキーボードしか使わないさ。
「はぁ……あの英雄もせん馬の肩書がつくなんて…」
競馬場そんなことをぼやく。三年前の天皇盃にダークホースとして現れ、優勝をその後2年かっさらった馬『ジャスティス・トルドー』。それが今、メンタルが病んだとかなんとか分からないが、去勢されてせん馬になった、と。馬にも苦悩はあるのだろうか。少なくとも『作曲費用』をこんな競馬に注ぎこむ僕はこいつよりは幸せ者なのであろう。あの三年前の優勝と、儲かった札束、そして札束から目を少し離した時に不意に写った天女の姿を思い出しながら、今日も夕暮れの日吉駅を後にする。
変わらない日々、安定した生活、何もしなくても金が得られるこの周期に溺れていく。今日も一日が終わる。天女に…抱きしめられながら…
と、気づいた。今日は天女の仕事場で忘年会があったのだった。少し残念に思いつつも、刺激を求めたいと言う思いで、ついつい悠空の部屋の戸を開ける。質素で、整理された、きれいな部屋。見た目から裏までここまで誠実とは、こんな人世界にどれほどいるのか。
ただ、机に斜めに雑に置かれた一冊の小さなノートがなんとなく目にとまった。新品にしては少し鉛筆の炭のあとが目立つ。彼女に日記を書く習慣が!?こうして気になってしまったのならばもうためらう必要はない。すかさずノートをめくった。
ーーーーーー今日も彼は消えない。何年立っても何年立っても、彼はもう私のことを求め続ける。金を稼ぐノウハウだけを担いっていたのにパパはなんで部屋に私だけを残して言ってしまったのだろう。経営戦略とか言ってたのに。どうして。どうして。社長になったのは幻なの?私を頼ってほしい。いつまでも私に求めてほしい。それがお金を競馬に次ぐような彼でもいいの。金を注いで、蜜を吸い続ける蜂を手にしたいの。それが女王の血なんじゃないの?ーーーーーー