【推し作家】佐々涼子/現代のイタコ
ノンフィクション作家、佐々涼子さん。
普段見えない、あるいは見ないようにしている厳然とした事実を、地べたから取材して人間模様をあぶりだすその筆力は、何かに取りつかれているかのような気迫を感じます。
そう、彼女はイタコのように、いろいろな人の思いを引き受けて、それを世に出す使命を負っているようです。
紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生日本製紙石巻工場
東日本大震災で大きな損害を被りながら製紙工場の機能をいち早く再生させた過程を追ったノンフィクションです。
物理的な本や雑誌や新聞は、どんな紙を使うかによって印象も、中身の染み入り方も、ひいては売り上げも変わるもの。書籍の電子化が進んだといっても、紙の製造にはこだわりがあり、製紙工場のプライドがあります。
津波に襲われたその時、家や家族が被災した中で、社員たちはどう動いたのか。そこまでしても紙を作るということの意義を考えさせられる実話です。
エンジェルフライト
国境をまたがる霊柩送還をテーマとする「エンジェルフライト」は、Amazon primeで米倉涼子主演でドラマ化もされていてこちらもお勧めです。「客死」という言葉がありますが、旅先での突然の事故死や病死、しかもそれが海外でとなると、我が家に戻るまでは簡単な道のりではありません。
国際霊柩送還は、現地で荼毘に付さず故人を空輸し、処置を施してきれいにして遺族に返す仕事です。
それはすべて遺族が最後一目、故人ときちんとお別れするため。
映画「おくりびと」を思わせる崇高さと、国境をまたがる沖仲士的な丁々発止が相まって、なんとも人間くさい仕事模様であり、こんな仕事はそうそうないのでは、と思わせられます。
エンド・オブ・ライフ
看取りの在宅医療をテーマとする本書は、最後まで自分の家で尊厳に満ちた人生を全うする可能性をさぐるものでもあり、佐々涼子がかつて取材で出会った看護師ががんになり、まだ小さい子を残して亡くなる過程に寄り添うノンフィクションでもあります。
余命いくばくの方とディズニーランドに行くというエピソードが数回出てきます。きらびやかな永遠の夢の国で、いつ急に容体が悪くなってもおかしくない病人の状態をハラハラしながらも一生懸命にこの時を楽しもうとする本人と家族・友人が印象的です。何かを賢しく悟るわけではなくても、ただ生き抜くということ自体が人生最大のプロジェクト、という気がします。
ボーダー
本国での迫害を恐れて日本に来た外国人が難民認定されず、入管に犯罪者のように収容され、見殺しまがいや自殺に追いやられています。ヴィシュマさんの件からようやくメディアでも入管の人権侵害が報道されるようになりましたが、日本の難民政策に本書は鋭く切り込みます。
また、消極的な移民政策のために十分な労働環境が守られない中、なし崩しでグレイゾーンにいる外国人労働者を増やしている実態も暴きます。
建築現場や製造業、安いコンビニ弁当などは、多くの外国人労働者が支えていることを薄々わかっていながら、不安定な社会的弱者の立場に追いやっていて、この社会が成り立つのでしょうか。
難民にしても移民にしても、上から目線でよいのか、社会とか包摂とか大袈裟にいう前に、人として恥ずかしくないようにありたいと思わせられます。
佐々涼子さんの書くものには「死」が多すぎて、でもどうしても書かねばならないものに突き動かされているとしか言いようがありません。
そんなだから普通の人には見えない彼岸と此岸の往路に通じてしまっても、まだ優先パスを彼女に与えないでほしい、彼女にはもっと書いてほしいと切に思います。
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