あさとゆう
ネオページさんで連載させていただいている長編ファンタジー小説の転載です。 最新話は月・水・金の21時にネオページさんで更新しています。 作品ページ:https://www.neopage.com/book/30238316220366900
創作についての気づきを気ままに呟きます。
「実は、花丸は家族から捜索願が出されている」 「捜索願ぃ~?」 財前があからさまに顔をしかめる。 「単なる人探しってことか?そんなのSPTじゃなくて、警察の仕事じゃねえか」 「通常はそうなのだが、人手が足りないらしく協力を要請された。それに、この幸村凪はSPTに入隊したばかりでな。彼女の研修も兼ねて、比較的やりやすい人探しの任務が与えられたというわけだ」 しれっと嘘をつく焔に私は思わず目を泳がせる。ふと前を見ると、財前が疑いの眼差しをこちらに向ける。私は反射的に
こんにちは。あさとゆうです。 私が住む北海道は、最近初雪を観測。 とはいえ、今はすっかり雪も解け、降るとしたら雨ばかり☔ 個人的に雨は嫌なので、降るなら雪が降って欲しい~。 先週はかなり仕事がバタバタして、シナリオや小説の締切が立て続けに…。 どのお仕事も大変でしたが、何とか今月の山を乗り越えてホッとしてます。 楽しいけど大変、でもやっぱり楽しい、というこの気持ちのループ(笑) 来月はもっと余裕を持って取り掛かろうと固く誓った週末でした。 そんなこんなで小説の方は今第二
ジリジリとした夏の熱気が室内にこもる中、財前は話を続ける。 「確かに、俺たちは人狼族の血を探している。目的は、攫われた仲間を救うためだ。人狼族の血を体に入れりゃあ力が手に入る。ミレニアと戦うためにその力が欲しい。だが、人狼族の陰の血は拒絶反応…自我の崩壊が起こるっていうじゃねえか。だから、俺たちは『陰の血』をじゃなく『陽の血』を探している。極めて珍しい、あの『ソルブラッド』をな」 「ソルブラッドだと?」 財前の言葉を聞きながら、私はおばあちゃんの本に書かれていた内容
廊下の突き当りにある財前の部屋は薄暗い和室だった。足を踏み入れると、畳の上に無造作に置かれた空の酒瓶が目に入る。襖はくすんでいて、壁の掛け軸にはタバコの煙が染みついていた。部屋の隅には低い木製の座卓があり、その上には本や書類が乱雑に置かれている。 ちょっと汚いけど意外に仕事部屋っぽい感じ。 私は少し驚いていた。そうだ。この人は紅牙組の若頭。こう見えて、根は真面目なのかも――。 そう思ってふと座卓を見ると、複数枚の名刺が置かれているのが目に入った。いや、違う。よく
焔の正拳がさく裂した後、財前は苦痛の表情を浮かべてその場に倒れ込んだ。喧嘩を見守っていた全員が凍りつき、言葉を失っている。私も目を大きく見開いたまま、呆然とその場に立ち尽くしていた。 「は、速すぎる…」 私が見る限り、先に拳を振り上げたのは財前だった。だが、焔はそんな財前の拳の軌道を読んでいたのか、右足を踏み込んだのと同時に思いきり真っすぐ正拳を繰り出していた。驚いたのは拳の速さ。剣道をしていて動体視力には自信があるけど、それでもまったく拳の軌道が見えなかった。つまり
廊下でのひと悶着の後、私はヤトを抱きながら紅牙組の大広間にいた。壁には何本もの日本刀が飾り付けられていて、まるで決闘場のような重々しい空気が流れている。そんな空気の中心にいるのが、焔だった。いつものような冷静な表情を浮かべているものの、その目にはかすかな怒りが宿っていた。 そして、そんな彼と向かい合う形で立つのが、紅牙組の若頭、財前。 財前は腰に差し込んだ刀を鞘ごと抜き、別の男に渡す。拳と拳の勝負、ということなのだろう。二人の周りを、私たちを含め紅牙組の組員たちが取
夜が明けた朝。私は屋敷の縁側に座っていた。今日は快晴。心地よい風が吹き抜け、空はどこまでも青い。昨日は任務感満載でSPTの制服を着ていた私だが、今日は白い割烹着に身を包んでいた。組長を待つだけの今、特にすることがなかったので、掃除を手伝うことにしたのだ。 昨日、紅牙組の門をくぐった時は一触即発のような空気になったものの、不思議と私たちは紅牙組に溶け込んでいた。焔は料理が得意のようで、昨日の夕食時には自ら台所へ行き、こんなことを言っていた。 「おかずはポテトサラダか。塩
紅牙組での一日はあっという間に過ぎ、気づくと夜になっていた。私と焔、ヤトは紅牙組が用意してくれた客間にいた。客間は昔ながらの雰囲気を感じさせる和室で、広さは八畳ほどだろうか。畳の香りがかすかに漂っている。この部屋にも玄関同様に掛け軸が飾られており、静かな山間の風景画が描かれている。部屋の中央には木目の座卓が置かれ、私たちは囲う形で座っていた。 結局、焔は組長が戻ってくるまで紅牙組に滞在することを決めた。その決断の裏には、彼なりの意図があった。 私は座卓に用意されてい
「花丸。私たちは君を保護するために横浜に来た。君は、半年後には元の世界に戻ることができる。この凪と一緒に」 ストレートにそう伝える焔。瞬間、さっきまでの花丸の笑顔が一瞬にして消えた。 「君はどうしたい?戻るか?それとも、ここに残るか?」 花丸は少し俯いて、軽く目を泳がせる。明らかに動揺している。何か、ハッキリと決められない事情があるのだろうか。しばしの間を置いて、花丸は目を逸らし、悲しげな表情を浮かべてこう答えた。 「…僕は、ここに残る。元の世界には戻らない」
「はじめまして。花丸耕太です」 そう言ってペコリと頭を下げる花丸は、あどけない笑顔で好青年らしい穏やかな雰囲気を纏っていた。 だが、私は少し不思議だった。焔の話によると、花丸はこっちの世界に来た時、ダムにいた。自らの命を絶つために。だから、突然のこの状況に困り果てているだろうし、落ち込んでいると思ったのだが、想像以上に元気そうに見えたのだ。 私と焔、ヤトは自己紹介を済ませ、SPTのことや諸々の事情を花丸に説明した。花丸は驚いた様子を見せたものの、案外すんなりと現状
ヤトがひと暴れした後、紅牙組の男たちは少し冷静さを取り戻していた。男たちの中心にいる若頭、財前も、仕切り直しだと言わんばかりに、挑戦的な眼差しを私たちに向けていた。 「さっきはちょっとばかし驚かされたが、次はこうはいかねえぞ!SPT!」 「…なにか勘違いしてないか。君たちとやり合うつもりは毛頭ない」 すると、この言葉に紅牙組の他の男たちが反論する。 「馬鹿言ってんじゃねえ!」 「てめぇのとこのカラスが先に手ぇ出したんだろうが!」 一方、ヤトは私が抱きかかえて
二メートルはあるだろうか。重厚感のある木製の扉が目の前に佇んでいる。 私が真鍮の取手を思いっきり引くと、ギィィという音を立てて、扉が開く。中へ入ると、そこは静寂に包まれていた。 玄関先の靴箱には五十を超える下駄が綺麗に並べられており、壁には色あせた絵画と「喧嘩上等」と書かれた掛け軸、棚の上には派手な壺や彫刻も置かれている。 「誰もいませんね」 カチカチと、大きな壁時計の秒針が玄関に響く。靴箱を見る限り、相当な人数がここにいるはず。それにしては、嫌に静かすぎる。
寝室に飛んできたヤトは、翼いっぱいに何やら白い物体を抱えている。 「ねえねえ、これ見て!二人にあげようと思って作ったんだよ」 「え?なになに?」 「なんだ?」 同時に聞く私と焔。ヤトは自信満々に嬉しそうな笑みを浮かべ、くちばしで白い布を摘んで広げた。直径一メートルほどの白い布が二枚。それぞれ、習字のような黒い筆の文字でこう書かれていた。 ――HANTO―― 「はんと?」 私はアルファベットの通り、そのまま読む。 「そう!これ、俺たちのチーム名だよ!俺と焔
午後十一時。私は寝間着姿で寝室のベッドに座りながら一冊の本を開いていた。この本の著者は水無月―、いや、幸村藍子。私のおばあちゃん。今読んでいるのは、「人狼族の血」に関するページ。夕方、SPTで焔がミレニアの信者には人狼族の血が与えられていると言っていたのが気になったのだ。人狼族の血について、本にはこう記されていた。 『人狼族の血液に関する考察』 ―「人狼族」が瞬発力、治癒力ともに優れているのは、「血」が大きく起因していると考えられる。これは人狼族のみならず、他種族に与え
「花丸、耕太…さん?ですか?」 「ああ」 焔は話を続ける。 「花丸耕太。二十五歳。君の家からひと駅離れたところにある、東園大学病院で外科の研修医をしていたらしい」 そう言って焔は鞄からファイルを取り出し、一枚の写真を見せた。そこには、黒髪で短髪の大人しそうな青年の姿が写されていた。 「東園大学病院って…」 行ったことはないけど、確か、かなりの大病院だ。そんな人が一体どうして…? 「まさかあの時、我々の近くに人がいたとはな。驚いた」 「でも、そんなのおかし
「―ぎ!なぎ!」 私はハッと目を開けた。すると、ヤトが私の目のすぐ先、十センチくらいのところまで顔を覗き込んでいた。 私は驚いてつい瞬きをする。考え込んでいる間に、ちょっとうたた寝してしまったらしい。体の上にはブランケットがかけられていた。 「大丈夫?うなされてたけど」 「大丈夫、大丈夫」 「今日は色々あったからね。凪も疲れたでしょ」 私はソファの上で体を伸ばし、あくびをしながらふと居間の時計を見る。時間は夜7時を回っている。私はガバッと起き上がった。 「