マガジンのカバー画像

矢萩邦彦著「正解のない教室」

10
気鋭のジャーナリスト・教育者、矢萩邦彦が混迷の時代に道を切り開くために執筆した「リベラルアーツ」入門書『正解のない教室』(朝日新聞出版)。あらゆる世代が「考える楽しさ」を体験した…
運営しているクリエイター

記事一覧

学校や会社に合わないなら我慢しない!「予測できない生き方」こそ創造的で希望的だという根拠

 現在広く受け入れられている仮説に、宇宙はおよそ138億年前に起こったビッグバンという大爆発で生まれたというものがあります。しかし、一点の爆発からはじまったとすれば、それはひたすら均一に拡散して冷めていくはずで、原子同士が出会うこともなく、それではぼくたち人間はおろか、星や銀河も生まれません。  ぼくたちの存在を肯定することは、どうやら現代の科学だけでは難しそうです。  では、どうして星やぼくたちは誕生したのでしょうか? 古代ギリシャの哲学者エピクロスは、原子をはじめあら

「1時間遊びたい子ども」対「1時間勉強させたい親」 どちらの意見も切り捨てない解決法は?

 議論をしたり、意見を言ったりするとき、論理的であることは重要ですが、論理だって万能ではありません。成り立っていると思っても前提や条件に見落としがあったり、考え方が飛躍していたりします。だいたい、ぼくたち自身、たくさんの矛む盾を抱えながら生きています。たとえ論理というものが完璧だったとしても、使っているぼくらが不完全なのですから、過信しないことも重要です。  有名な思考実験に「アキレスと亀」というものがあります。俊足で有名だったギリシャ神話の英雄アキレスと亀が競争することに

「論破」は無意味?意見が対立したときにすべきなのは「前提を共有する」こと

 この世界に、まったく同じものは存在するでしょうか? 中学生のころ、同級生にそんな問いを出されたことがあります。ぼくは「まったく同じものなんてあるはずがない」と答えたのですが、その場にいたぼく以外の全員が「同じものはある」と言うんですね。  原子と原子はまったく同じだというんです。  ぼくは、人間がまだ発見していないような違いがあるはずだし、そもそも同じ原子は重なって存在できないはずだから位置情報は違うというようなことを主張しましたが、「物理の教科書をちゃんと勉強しないか

AIと共存するために、私たちが知っておくべきひとつのこと 便利さとリスクを考える

 AIと人間はどこが違うのでしょうか? ぼくが子どものころは、コンピューターは近未来を感じる存在でした。しかし、いまやパソコンが使えることは常識になり、スマホがなければ生活にも仕事にも不便を感じるまでになっています。「あると便利」から「ないと不便」に感覚が変わるとき、それは、その社会の基盤(インフラ)に組み込まれはじめたと考えられます。  このあと「ないと生活できない」段階に達すると、都市における電気・ガス・水道・通信のように社会や経済活動をするうえでの生命線(ライフライン

「進化」の反対は本当に「退化」?「教科書が正しい」と思っている人が陥る思考の罠

 同じ意味の言葉を「同義語」、反対の意味の言葉を「対義語」といいます。ものごとを比べたり、選択したり、その判断を誰かに説得力を持って伝えるためには<軸>が必要です。「寒い」の対義語は「暑い」で、そのふたつの状態をつないだものが軸になります。<軸>のイメージが共有できれば格段に伝わりやすくなります。  一方で「お金か友情か?」みたいな問いは、あまり意味を成しません。同軸上に乗せられるようなものではないからです。「私と仕事、どっちが大事なの?」とか「芸術と地球環境と、どちらを保

やりたいことが「ある人」と「ない人」 あらゆる可能性を秘めるのはどっち?

 自分の5年後、10年後、20年後はどうなっているでしょうか?  想像してみてください。20年後をリアルに想像できた人はあまりいなかったのではないかと思います。想像しやすさは、自分との近さで決まります。能力的にも時間的にも近いほど、想像はリアルになっていきます。  もし、あなたに自分で選択した具体的な夢や目標があるのなら、それは素晴らしいことです。それに向かって努力することで、少しずつ将来の想像がリアルになっていくのなら、実現に近づいているはずです。  一方で、もし、あ

「自分とは何者か」「他者とはどう違うか」をあぶりだす3つの質問“真善美”

 自分はどんな人間なのか? それは自分自身にしかわかりません。かつて、ギリシャのアポロン神殿の入り口には「汝自身を知れ」という言葉が刻まれていたといいます。いったいどういう意味だと思いますか?  古代ギリシャの哲学者たちは人間の精神や性質を完全に理解することはできないと考えていました。だとすると、自分自身のことも完全に理解することはできないことになります。そこには、神の前で謙虚になれというメッセージや、不可能と分かっていても立ち向かう態度の重要さなど、さまざまな解釈が考えら

「学校に行く意味も勉強する意味も分からない」という子どもたちに知ってほしいこと

 学校に行きたくないという中高生に理由を尋ねると、圧倒的に多い回答が「学校や勉強の意味が分からない」というものです。意味が分からないとは、どういうことでしょうか?  これは内容が分からないのではなくて、学校へ行くことや勉強が自分にとってどんな価値やメリットがあるのか分からない。いいかえれば、自分の現在や未来とどう関係するのかが分からないということです。  たとえば、猫を飼っている人にとって、猫の飼い方や習性を学ぶことは明らかに関係がありますよね。そんなふうに共通するキーワ

「自由なんて面倒くさい!」なら誰かに決めてもらうのも自由。本当の“自由”を選択するために役立つ2つのこと

 リベラルアーツは中世ヨーロッパにおいて、肉体労働から解放された自由人のための特に重要な教養だと考えられていました。この場合の「肉体労働」は、やることを他者に決められていることを指します。つまり「自由人」というのは、ある程度自分のやることを選択する自由がある人のことです。  もしかしたら、「自由なんて面倒くさいから、やることを決めて欲しい!」と思う人もいるかもしれませんが、それでいいんです。自由に決めるかどうかを選ぶことができることこそ、リベラルアーツ的な自由ですから。信頼

「お金はいらない、偉くもなりたくない、だから勉強しない」と子どもに言われたら、あなたは何と答えますか?

 勉強をしていて、「なんでこんなことをしなければいけないんだろう?」って思ったことはありませんか? ぼくは中学生のころ、特に興味がない教科や、先生と相性が合わないときに、よくそんなことを考えていました。いったいぼくたちは何のために学ぶのでしょうか?  あなたにやりたいことや夢があるなら、学ぶ理由は簡単です。よりよい人生を歩むためです。興味があることなら学ぶこと自体が楽しいですし、夢のためなら少々大変でも意味があります。自分のためではなく、世のため人のために実現したいことがあ