\ノーベル文学賞受賞/ハン・ガンさんの2作を「ケアの倫理」で読む/『世界文学をケアで読み解く』(小川公代著)から特別公開
弱者の視点から見る――暴力と共生の物語憎悪から赦しへ――ハン・ガン『少年が来る』
韓国の作家ハン・ガン(한강, 1970-)による全六章で構成される長編小説『少年が来る』(소년이 온다, 2014)も、軍による無残な暴力や暴行が権力を持たない「アウトサイダー」である弱者の視点から描かれている。一九八〇年五月十八日に韓国全羅南道の道庁所在地だった光州で戒厳軍による武力鎮圧が行われたときの犠牲者たちをめぐる六つの物語が語られている。この光州事件は、軍事独裁政権下にあった当時の