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【カルチャー紹介①】SF作家ジュール・ヴェルヌの与えた多大なる影響

  地底や海底探検、世界旅行に宇宙旅行など、皆さんは想像したことがあるでしょうか。ジュール・ヴェルヌはそのような「未知の世界への冒険」をテーマとした作品を多く発表し、それらは今日にいたるまで様々な作品に影響を与え続けてきました。今回はそんな「SFの父」とも呼ばれるヴェルヌと、彼に影響を受けた様々な作品について紹介します。


ジュール・ヴェルヌとは

ヴェルヌの肖像

   ジュール・ヴェルヌ(1828~1905)はフランスの小説家です。H・G・ウェルズ(代表作『タイムマシン』・『宇宙戦争』・『透明人間』)らと共にSFの開祖と呼ばれています。SF(サイエンス・フィクション)とは、科学的な空想にもとづいたフィクションの総称のことです。フランス北西部の港湾都市であるナントで生まれ育ったヴェルヌは、船乗りや海への憧れと共に、豊かな想像力を育んでいきました。大人になった彼は、1863年に『気球に乗って五週間』という気球によるアフリカ探検の冒険小説を書き、人気作家の仲間入りをはたしました。その後も生涯にわたり科学・冒険小説を発表し続け、1905年に77歳で亡くなりました。
  ここからはヴェルヌの代表作の簡単なあらすじと、ヴェルヌに影響を受けた作品たちを紹介していきます。

『地底旅行』

ジュール・ヴェルヌ 『地底旅行』 (高野優 訳)
光文社  2013年

あらすじ…骨董品店で地球の中心にたどり着く方法が書かれている紙を発見した主人公たちは、アイスランドにある火山の火口を下り、地底世界を目指していく。様々なトラブルに遭遇しつつ、たどり着いた地底世界には地上とは全く異なる世界が広がっていた。

  この小説に影響を受けた作品として、2008年に公開された映画『センター・オブ・ジ・アース』があります。この映画は『地底探検』をベースに、舞台を現代とした作品です。行方不明となった父親の残した手がかりを頼りに、主人公達は地下を目指します。ヴェルヌの地底世界をしっかりと映像化している点や、原作では男性だった地元ガイドを女性に変更している点、よりアクション的な要素が追加されている点などが特徴としてあげられます。さらに、作中にヴェルヌの名前と彼の作品が重要な要素として登場します。
  また続編として、2012年に公開された『センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島』があります。この作品もヴェルヌの『神秘の島』という作品をベースとしており、生き物の大きさが反対になった神秘の島を舞台に、様々な冒険が繰り広げられます。

『センター・オブ・ジ・アース』  監督エリック・ブレヴィグ  2008年全国劇場公開作品
『センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島』
監督ブラッド・ペイトン  2011年制作

映画『センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島』予告編 ワーナーブラザーズ 公式チャンネルより

    また、ディズニーシーには「センター・オブ・ジ・アース」というアトラクションがあり、ヴェルヌの小説を元にした地底旅行の世界を、実際に体験することができます。

【公式】センター・オブ・ジ・アース
東京ディズニーリゾート公式チャンネルより

  さらに、地底世界への冒険というテーマは1987年に公開された、『ドラえもん のびたと竜の騎士』という作品にも描かれています。この作品独自の設定としては、地底世界に住む恐竜から進化した恐竜人の登場があります。彼らは高度な文明を築きあげており、地底世界に来たドラえもんたちと交流するという物語です。

小学館DVD『映画ドラえもん のび太と竜の騎士』
原作・脚本/不二子・F・不二雄     監督/芝山 努
1987年公開

  このように『地底旅行』は、地底という近くて遠い場所への想像を掻き立て、私たちを未知の冒険の世界へと誘います。

『月世界旅行』

ジュール・ヴェルヌ 『月世界へ行く』 (江口清 訳)
東京創元社  2023年 (1964年初版)

あらすじ…南北戦争終結後のアメリカで、大砲により月に人を送る計画がたてられた。計画の立案から資金の調達、大砲の鋳造など多くの困難を乗り越え、ついに3人の男が砲弾に乗り月世界に旅立つ。

  この作品は世界に最も影響を与えた作品といっても過言ではありません。1902年にフランス人の映画監督であるジョルジュ・メリエスにより『月世界旅行』が撮影・公開されました。映画の最初期の作品かつSF映画の元祖ともいえるこの作品は世界的人気を博し、しっかりとしたストーリーや革新的な映像技法は映画史において偉大な影響を残しました。特に、この記事のサムネイルにもなっている「人の顔をした月面にロケットが着陸するシーン」は、現在も多くのパロディーがつくられるなど、映画史において代表的な場面となっています。近年の日本のアニメにおいても、2019年公開『映画ドラえもん のび太の月面探査機』OPにおいて、「ドラえもんの顔にどら焼きがささる」というパロディーや、2022年のアニメ『リコリス・リコイル』EDでは、窓ガラスに描かれた絵として登場しました。
     現在公開から120年以上経った『月世界旅行』はパブリックドメイン化し、気軽に観ることができます。全体で12分ほどの短い映画なので、ぜひ観てみて下さい。

映画『月世界旅行』『メリエスの素晴らしき映画魔術』予告編 
シネマトゥデイ公式チャンネルより

[日本語字幕]『月世界旅行』(1902)
"Le Voyage dans la Lune / A Trip to the Moon"
     river stone チャンネルより

TVアニメ『リコリス・リコイル』ノンテロップEDムービー | さユり「花の塔」
アニプレックス公式YouTubeチャンネルより
(月世界旅行オマージュシーンは0:26~0:33)

  話をヴェルヌに戻すと、1865年に発表された『月世界旅行』は海を越えて日本に伝わり、明治時代に翻訳されて読まれました。さらにより大衆向けに、『宗教世界膝栗毛』が書かれました。この本は江戸時代、十返舎一九によって書かれた『東海道中膝栗毛』の主人公である弥次郎兵衛と喜多八が、大砲に乗って宇宙へいくという話で、ヴェルヌの原作の影響を強く受けています。この本については『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』で明治期に書かれた大衆小説としてより詳しく紹介されています。また『宗教世界膝栗毛』はタイトルを検索すると、国立国会図書館デジタルコレクションで原文が閲覧できるので、『月世界旅行』×『東海道中膝栗毛』に興味をそそられた方は、これらの資料もぜひチェックしてみて下さい。

山下泰平『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』
  柏書房 2019年
(月世界旅行に関連する部分はP11~22まで)

  さらに、ヴェルヌの空想は現実世界を変えました。当時における最先端の科学論文を読んでいたヴェルヌは『月世界旅行』において、フィクションにサイエンスを導入し、考証に不十分な部分があるものの、実際に人間を月に送ることについてかなり現実的な考察をしていました。これらのサイエンス的な要素が、後のロケット開発へ繋がります。ロケットで宇宙へ行けることを証明し、「ロケットの父」と呼ばれたロシア人のコンスタンチン・ツィオルコフスキー(1857~1935)や、ロケット開発に多大な影響を残したアメリカ人のロバート・ゴダート(1882~1945)、ドイツ宇宙旅行協会を創立し、フォン・ブラウン(アポロ計画で人類を月へ送り届けた)などに影響を与えたヘルマン・オーベルト(1894~1989)は、全員が『月世界旅行』から影響を受けています。
  このようにヴェルヌの月世界旅行への想像は現実に影響を与え、1969年にアポロ11号が月面に着陸し、現実が空想に追い付きました。この『月世界旅行』と宇宙開発競争についての一連の流れは、「世界の奇書をゆっくり解説 番外編3『月世界旅行』」という動画や、この動画の投稿者である三崎律日さんが執筆した『奇書の世界史』という本で詳しく解説されています。

世界の奇書をゆっくり解説 番外編3「月世界旅行」 三崎律日/Alt F4 チャンネルより

三崎律日『奇書の世界史』 KADOKAWA出版
2019年
(月世界旅行に関連する部分はP279~305)

  また直接の影響ではありませんが、ヒュー・ロフティング著、動物の言葉がわかる医者のドリトル先生が活躍する「ドリトル先生シリーズ」においても、『ドリトル先生と月からの使い』『ドリトル先生月へゆく』『ドリトル先生月から帰る』と3作品にわたって月に関連した話が描かれ、ドリトル先生が月面で様々な学術調査を行うなど、SF的な要素が多く含まれています。 

ヒュー・ロフティング
『ドリトル先生と月からの使い』
『ドリトル先生の月旅行』
『ドリトル先生月から帰る』
( 河合祥一郎 訳 patty 絵)
角川つばさ文庫  3冊とも2013年

  このように、『月世界旅行』は宇宙への想像を私達に与え続け、現実の宇宙開発にも大きな影響を残しました。

『海底2万マイル』

ジュール・ヴェルヌ『海底2万マイル』
(加藤まさし/訳   高田勲/絵)
講談社 青い鳥文庫  2000年

あらすじ…海難事故が多発する海域を調査していた主人公たちは、潜水艦ノーチラス号が船を沈没させていたことを知る。捕虜としてノーチラス号に乗り込むことになった主人公たちは、謎の多いネモ船長と共に数々の海の神秘を目撃していく。

  この作品は私が初めて読んだヴェルヌ作品で、一番好きな本です。海の美しさと不気味さや、魅力的なネモ船長と潜水艦など、何度読んでもワクワクさせてくれます。
 さて、例に漏れずこの作品も様々なものに多くの影響を与えています。
  最初に作中の名前・名称が与えた影響を紹介します。作中に登場する潜水艦名である「ノーチラス」とはラテン語で「小さな船」という意味を持ち、元々はナポレオンの要請によりフルトン(蒸気船の発明者)が1800年に建造した世界初の実用潜水艦の名前でした。ヴェルヌがこの名前を小説に使用した後、今度はヴェルヌの小説の影響で実在の潜水艦にこの名前が使われるようになりました。その中でも特に有名なのが、アメリカにより開発され1955年に就航した、世界初の原子力潜水艦「ノーチラス号」です。原子力潜水艦とは原子力機関を備えた潜水艦であり、ほとんど無限の航続力を持っています。この潜水艦は1958年に初の北極海横断潜航に成功し、ヴェルヌの描いたノーチラス号が現実に現れました。

フルトン設計「ノーチラス号」復元模型
世界初の原子力潜水艦「ノーチラス号」

  続いて作中の主要人物である「ネモ船長」が与えた影響について紹介します。「ネモ」とはラテン語で「誰でもない」という意味であり、作中のネモ船長はどこの国にも属さない謎めいた人物です。そんな「ネモ」という名前は、南太平洋上に存在し、陸地からもっとも離れた場所に使われています。「ポイント・ネモ」はもっとも近い陸地(島)から2688キロ離れており、居住区域から隔絶された場所であることに加え、生物学的にさほど多様ではないことから、役目を終えた人工衛星を落下させる地点として利用されてきました。現在活躍している国際宇宙ステーションも、役目を終えた2031年に「ポイント・ネモ」に落下させるという計画がNASAにより発表されています。 
 「ネモ船長」が与えた影響の続きとして、こんどはディズニーとの関係について紹介します。『海底二万マイル』は何度も映画化されましたが、1954年にはディズニー社が実写映画化し、アカデミー視覚効果賞と美術賞を受賞するなど、高い評価を得ました。さらに、東京ディズニーシーのエリアの一つである「ミステリアスアイランド」は、ネモ船長の研究所という設定で(ヴェルヌの小説『神秘の島』に由来)、はじめに紹介した「センター・オブ・ジ・アース」や、今回紹介した「海底2万マイル」などの、ヴェルヌの作品を元にしたアトラクションは、ネモ船長により発明された機械に乗るという設定になっています。

Walt Disny LEGEND COLLECTION
『海底2万マイル』
監督 リチャード・フライシャー
原作 ジュール・ヴェルヌ
1954年制作

【公式】海底2万マイル
東京ディズニーリゾート公式チャンネルより

  また、2003年に公開されたディズニーとピクサーの共同アニメーション映画であり、海を舞台としたカクレクマノミの親子の物語である『ファインディング・ニモ』の主人公ニモ(Nemo)の名は、ネモ船長からとられているといわれています。これに関連して、主人公ニモの名前はニモが特定の存在では無いことを意味し、反対に全ての子供をニモに当てはめることができるということを表しているとする興味深い考察も存在します。

『ファインディング・ニモ』(原題:FINDING NEMO)監督 アンドリュー・スタントン、リー・アンクリッチ 制作総指揮 ジョン・ラセター
2003年制作

ファインディングニモ | 予告編 | Disny+(ディズニープラス)
ディズニープラス公式チャンネルより


 『海底二万マイル』は日本の作品にも影響を与えています。1889年を舞台に、発明好きの少年ジャンと謎の宝石"ブルーウォーター"を持つ少女ナディアが冒険へと旅立つ『不思議の海のナディア』というアニメ作品は、『海底二万マイル』や『神秘の島』を原案としており、ネモ船長やノーチラス号などが登場します。

不思議の海のナディア30 【公式】ポストより

 また2008年に公開された、人間になりたいと願うさかなの子・ポニョと、船乗りの父を持つ5歳の少年・宗介の交流を描いたジブリ映画『崖の上のポニョ』にも、『海底2万マイル』が影響しています。それは、ポニョの父親であるフジモトが、元ノーチラス号唯一の東洋人乗組員だったという設定です。
「宮崎監督の設定では、フジモトは「海底2万マイル」のネモ船長の弟子らしいんです。それで100年以上も生きていて、ひとりでコツコツとサンゴ塔を改造して研究室にしたんですね。」【美術監督:吉田昇】『ジ アート オブ 崖の上のポニョ』P112 より引用

スタジオジブリ公式HP『崖の上のポニョ』
作品静止画より 「フジモト」

  このように、『海底2万マイル』は実際の潜水艦や、海を題材にした多くの作品に影響を与えてきました。

『八十日間世界一周』

ジュール・ヴェルヌ『八十日間世界一周』
(田辺貞之助 訳)  東京創元社
2022年(初版1976年)

あらすじ…1872年のイギリス、資産家の主人公は80日間で世界一周することが可能かという賭けをし、忠実な執事と共に世界一周の旅へ出発する。イギリスを出発し、旅先で様々な出来事やトラブルに遭遇しながら、80日間で世界1周ができることを証明するため、主人公たちは旅を続けていく。

  この作品は、1872年に行われたトーマス・クック社(世界初の旅行会社)による世界一周ツアーに、ヴェルヌが触発されて書いたといわれています。1867年にサンフランシスコ・横浜・香港をつなぐ定期船の太平洋航路が開通し、蒸気船を乗り継ぐことによって誰でも世界一周旅行が可能になりました。また、1869年にスエズ運河(エジプト)と大陸横断鉄道(アメリカ)が完成し、世界一周はますます容易になりました。『80日間世界一周』においても、主人公たちはロンドン(イギリス)を出発し、スエズ(エジプト)、ボンベイ(インド)、カルカッタ(インド)、香港(中国)、横浜(日本)、サンフランシスコ(アメリカ)、ニューヨーク(アメリカ)などの国々を巡り、ロンドンに帰還することを目指します。特に注目すべき点は、物語の中に日本の横浜が登場することです。当時の日本人の生活描写に始まり、商店の活気、田んぼや鳥などの自然描写、日本の軽業師への賛辞、天狗の出し物などが描かれています。
  世界一周ツアーという実際の出来事に影響されて書かれた本作は、反対に現実世界に影響を与え、この小説を元に80日間で世界一周を目指そうとする人々を生み出しました。今回はその中でも、特に有名な2人の女性について紹介します。
  アメリカ人女性記者のネリー・ブライはヴェルヌの小説に影響を受け、まだ女性の一人旅が珍しかった1889年に、ニューヨーク・ワールド紙の支援を得て、小説と同じ東回りルートを巡る、80日以内での世界一周に挑戦しました。また、この挑戦を知ったコスモポリタンという月刊誌の編集者は、同じく女性記者であったエリザベス・ビズランドを世界一周に挑戦させ、エリザベスはネリーの出発から8時間30分後に、ネリーと反対の西回りルートでの世界一周を目指すことになりました。2人とも旅の途中で日本を訪れており、それぞれ好意的なコメントを残しています。特にエリザベスは、後に日本国籍を取得するラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と交流があったため、彼女の日本への好意的な印象が、後にハーンが日本を訪れた理由の1つになっています。
  2人の女性記者の生い立ちや、より詳しい旅先での出来事、世界一周競争の結末などは、『ヴェルヌの「八十日間世界一周」に挑む』という本に書かれています。この話に興味を持った方は、ぜひ世界一周を目指した2人の女性記者について調べてみて下さい。

マシュー・グッドマン『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む
4万5千キロを競ったふたりの女性記者』
(金原端人・井上里 訳)
柏書房   2013年
(写真左がネリー・ブライ
写真中央がジュール・ヴェルヌ
写真右がエリザベス・ビズランド)

  ヴェルヌの小説である『八十日間世界一周』も例にもれず映画化されており、1956年に『80日間世界一周』として公開されました。カラー映像でイギリス・フランス・イタリア・スペイン・エジプト・インド・香港・日本・アメリカなどの多くの国が描かれており、スペインでは本格的な闘牛のシーンが、日本の場面では鎌倉大仏などが登場します。映像化されたこの作品も高い評価を得て、第29回アカデミー賞にて作品賞を含めた5部門を受賞しました。またこの映画のテーマ曲は広く使われているので、皆さんもどこかで聞いたことがあるかもしれません。

『80日間世界一周』制作:マイケル・トッド
監督:マイケル・アンダーソン
原作:ジュール・ヴェルヌ
1956年制作

『80日間世界一周』テーマ曲『アラウンド・ザ・ワールド』ヴィクター・ヤング作曲
フィルム・スタジオ・オーケストラ より

 また、最近では2021年に新たにドラマ化されており、新たな旅の同行者として女性のフィックス記者や、原作では白人であった執事のパスパルトゥーが黒人に変更されるなどの新しい要素が追加されました。

海外ドラマ『80日間世界一周』キャラクター、完璧なセット、19世紀のファッション、作品のテーマについて主要キャスト&監督が語るインタビュー映像   
オリコン洋画館 ORICON NEWS チャンネルより

  このように、ヴェルヌの描いた世界一周の冒険の世界は色あせずに、世界旅行の素晴らしさを私たちに伝え続けています。

『十五少年漂流記』

ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』
(大久保昭男  訳)
ポプラ社  2009年(初版1984年)

あらすじ…ニュージーランドにある寄宿学校の生徒達14人は、夏休みに行われる旅行が待ちきれなくなり、夜の内に船に忍び込んでしまう。その後動き出してしまった船は、14人の少年と1人の水夫見習いの黒人の少年をのせたまま無人島に漂着してしまう。人種も年齢も多様な少年達は、様々な工夫をしながら無人島での生活を送っていく。

  この作品は、「子供たちの無人島サバイバルもの」の元祖といえる作品です。15人の少年たちは、大人の居ない無人島という大変な状況のなかで協力し、成長していきます。興味深いのは、15人の少年たちの家庭状況や国籍などの違いです。ニュージーランドの寄宿学校生である少年たちは、フランスやアメリカ、イギリスなどの国籍を持ち、親の職業も土木技師や地主、裁判官に商人、牧師に将校など様々です。また、少年の1人に黒人の見習い水夫が登場することも本作の特徴の1つであり、そんな様々な背景を持つ彼らが協力していくところが本作の魅力です。しかし、当時の世相を反映した暗い描写として、島でのリーダーを決める選挙が行われた際に、黒人の少年には選挙権が与えられなかったことがあります。少年たちの行った選挙であっても、大人と同じ黒人への差別があったという描写は、多くのことを考えさせられます。
 『十五少年漂流記』は何度もアニメ化されており、『まんが世界昔ばなし』のエピソードの1つとしてアニメ化されたり、日本アニメーションにより、『瞳のなかの少年 15少年漂流記』などが制作されています。また2013年には、キャラクターを猫に置き換え、現代を舞台にした『15少年漂流記~海賊島DE大冒険~』が公開されました。

映画『十五少年漂流記 海賊島DE!大冒険』
予告編   シネマトゥデイ公式チャンネルより

  この他にヴェルヌの影響を受けた作品として、不二子・F・不二雄の描いた『宇宙船製造法』という作品があります。この作品は宇宙版『十五少年漂流記』ですが、原作とは異なる要素として、規律と安定を重要視するリーダーが暴走してゆく様子が描かれます。この作品は『不二子・F・不二雄大全集  少年SF短編 第1巻』で読むことができます。

『不二子・F・不二夫大全集 少年SF短編 第1巻』
小学館出版 2010年
(『宇宙船製造法』はP219~268に収録)

  さらに、『十五少年漂流記』で描かれた、大人の居ない状態での子供たちのサバイバルという要素は、2つの有名なアニメ作品に影響を与えました。
  1つ目の作品は1979年に放送されたSFロボットアニメ『機動戦士ガンダム』です。
「ガンダムが当初目ざしたのは、ジュブナイルの古典『十五少年漂流記』を参考にした極限状態のドラマです。指導すべき大人が戦闘で死に、老人と子供ばかりのホワイトベース。追いつめられた思春期の少年少女たちは「生きのびる」ために戦うが、その個性は時に激しくぶつかりあう!」(BANDAICHANNEL Newws! 号外 2007.07.06 より引用) 
 このように、ガンダムで描かれた宇宙での少年少女のサバイバルという要素は、ヴェルヌの作品を参考にしたと明言されています。

第1話 | 機動戦士ガンダム【ガンチャン】
ガンダムチャンネル(ガンダム公式YouTubeチャンネル)より

 2つ目の作品は、1999年に放送された『デジモンアドベンチャー』です。電脳空間に迷い込んでしまった少年少女たちが、デジモン(デジタルモンスター)と共にサバイバルしていくというストーリーは、ヴェルヌの影響を受けています。
「この物語は、少年少女たちとデジモンのサバイバル冒険活劇なのです!!21世紀を間近にした子供たちへのプレゼント・・・『デジモンアドベンチャー』は、平成の『十五少年漂流記』を目指します!」(フジテレビホームページ 番組紹介より引用)

【公式】デジモンアドベンチャー第1話 「漂流?冒険の島」
東映アニメーションミュージアムチャンネル(東映アニメーション公式YouTubeチャンネル)より
 
『十五少年漂流記』はあまり長くない物語なので、多くの作品に影響を与えたこの小説に興味を持った方は、ぜひ読んでみて下さい。    また、様々な名著を漫画化している『まんがで読破』シリーズにおいても『十五少年漂流記』は漫画化されており、さらに分かりやすく内容を知ることができます。

『十五少年漂流記 まんがで読破』原作 ヴェルヌ
企画・漫画 バラエティ・アートワークス
イースト・プレス社  2012年

 このように、『十五少年漂流記』に描かれた子供たちの友情や無人島サバイバルなどの要素は、今も多くの作品に影響を与え続けています。

まとめ

 今回記事を書くにあたって改めてジュール・ヴェルヌの作品の面白さと、後世の作品に与えた影響の大きさを知ることができました。    今回紹介した作品以外にも、多くの作品がヴェルヌの影響を受けており、また今後生まれるだろう多くの作品にも、ヴェルヌの影響は続いていくだろうと私は考えます。
  今回最後に紹介するヴェルヌに影響を受けた作品は、1985年に第1作目が公開された、SF映画の金字塔である『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズです。作中に登場する発明家のエメット・ブラウン博士は、子供のころに読んだヴェルヌの作品に影響を受け、発明家になったと語っており、自分の子供たちにジュールとヴェルヌという名前をつけたことが3作目で明かされました。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』
監督/原案 ロバート・ゼメキス
1990年公開

  以上、この記事が少しでも皆さんの新たな興味への引き出しや、未知の作品への入り口になれば幸いです。改めて、最後まで読んで下さりありがとうございました。

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