熱き革細工師が語る、イタリアのモノづくり。そして育成。エノガストロノミア&アトリエ n.4*
『フード&デザイン』をテーマに、アトリエや工房を見学しつつ、「ワインを飲みながら、食事も楽しみましょう!」という、あちらも、こちらも、どちらも楽しそうなイベント。
前回までのお話しはこちらです。
4回目は、革職人を訪れます。
情熱 Passione。
スクオーラ・ディフーザの見学のあとは、ヴィッキオ村で革工房を開いているステファノ・パッリーニ [Stefano Parrini]さんの工房へと移動。
とても小さな村なので、徒歩3分で到着。
世紀が変わった、いまから約20年前。ほかの仕事を一切辞めて、革業一本でやっていくことを決意したステファノさん。馬具の鞍や、革オブジェが専門。
職人に必要なもの?
それと、もうひとつ。情熱を注いでいることがあるんだ。
工房には、提携している学校からの学生が研修にきてたけど、若い子がいるといいねぇ。賑やかで、発想が豊かで、とても刺激を受けるよ。
若い子が工房に興味を持つというのは、工房が軒並み減っているいまの状況で、貴重で大切な一歩なんだ。
でも工房に支払われる授業料は雀の涙。ないも同然だった。若い子を育成するという、情熱があるから続けていたよ。
そんなこともあって、工房内に革学校を作る夢を、ずっと温めていたんだけど、コロナで、この2年間は完全に止まっちゃった。いやー大変だった。貯金もすっからかん。やっと。ホントにやっと。再スタートを切れる。
わたしの革学校は、トスカーナ州と提携して、州の助成金により人材育成をし、生徒は無料で学ぶことができるシステム。わたしはというと、州から支払われる予定。予定通りに運ぶといいけどなぁ。予定通りに支払われるといいけどなぁ。
学校を作りにあたり、ステファノさんがリサーチしてみると、トスカーナ州全体で、270件ほどの工房しかないことが分かり、ショックを受けたそうです。しかも、人材育成のための学校は、わずか16件。
そんな言葉を漏らす、ステファノさんの口調やジェスチャーが、まるで役者のようで、見学者から笑みがこぼれつつ、そうだよねー。大変だったよねー。と各々に感想を言い合うのでした。
井の中の蛙(かわず)のイタリア人。
世界のあらゆるところへ行き、職人の仕事を見て回った経験のあるステファノさん。イタリア人に物申すところがあるらしい。
例えばパキスタン製の商品は粗悪だとする。その背景を考えたことがあるかい?
1日中働いて、賃金が1ユーロ。
ここが問題なんだ。
もし賃金が30ユーロだったら、商品を20ユーロで売ることはできないだろう?
中国に行った時に、上海で素晴らしい職人技術を見せてもらった。世界中で、高い技術を持つ職人はたくさんいるんだ。お山の大将になっているイタリア人は、ちゃんと世界を見る目をもった方がいい。
イタリアであることの恩恵。
唯一、イタリアが世界に誇れるのは、多様性かもしれない。
イタリアは地理的に、とても興味深いところにあると思う。遥か昔、遠くは、紀元前のエトルリア、ギリシャ、そして、古代ローマ。さらに、アラブ、北欧、フランス、ドイツ、オーストリア、スペインから、人がやってきては、移住してきた。
多種多様な文化が、血が、混ざり合ってる国。それがイタリアなんだ。
わたしの祖母は、1890年にフィレンツェの下町で生まれたけど、そのときは、単語のなかに、普通にフランス語が混ざっていたんだ。
うなずいている年配の方々。きっと、彼らの祖父祖母もそうだったんでしょう。
知りませんでした。当時の様子とか、庶民の生活とか、知り得る機会がないので、こんなお話しを伺うと、すごく面白い。
B.I.C.
B.I.C.。さて、なんの暗号でしょう。ステファノさんの造語です。
わたしの仕事は、ほとんどが、受注生産。お客さんの注文を聞いて製作します。注文なしで作り、販売するときは、基本的に自分が作りたいものを作ってる。せっかくの自分の工房。楽しまなくっちゃね。
型にはめて作ることに、いま凝ってる。革を濡らして、型にはめて、乾燥するまで待つ。そんな時間のかかる工程が好きなんだ。
ベントレーって、高級車で有名だろ? ホームインテリアのラインもあってね、そこのトレーを作っている。
ベントレーを買ってもいいけどさ、ムジェッロは砂利道が多いから、すぐ汚れちゃうんだよ(笑)
こちらは、カッラーラの大理石のオブジェを販売している会社。大理石と異なる素材を組み合わせたいということで、依頼されて作ったんだ。容器は大理石。蓋になる部分が革。
これは、わたしが勝手に作っているもの。すごく軽いんだ。
なぜかって、型に嵌める時に、ガーゼを6枚くらい重ねて、それから革を張っているからね。
奥さん、用途からオブジェに名前をつけちゃあ、ダメなんだよ。
野菜を入れるボールとか、花瓶とか、名前をつけた時点で、これは300ユーロくらいの価値だとする。
あえて、ただの「オブジェ」とすると、同じものでも1000ユーロの価格がつくんだよ
それを、わたしは、B.I.C.と名付けたんだ。
美しくて無駄なものが、いまのご時世、価値がつくんだよ。
ベントレーのトレーにしろ、大理石の容器にしろ、なくても困らない。そんなB.I.C.が、売れる世の中なんだ。
アールヌーボーに触発されて。
なんか、不思議な形と、なんか、そぐわない色の、変な物体があるなぁ(失礼)。写真すらも撮ってなかった。偶然写り込んでいた、緑色の蓋のある、手前右側の容器。
フィレンツェで、ガリレオ・キーニの展示会に行って、すごく触発されたんだ。それで、その勢いで、ここまで作ったんだけど、毎日眺めては、ここからどうしていいやら、どう手をつけていいやら、わからなくて、いま寝かせているところ。
下の写真の方が、わかりやすいですね。テーブル中央にあるオブジェが、全体像です。結構、大きい。
ガリレオ・キーニの作品を模倣するつもりは、まったくないけど、あんな感じの雰囲気を作りたくてね。
この展示会は、わたしも行ってました。
お花、草、昆虫、蔦などをモチーフにした、自由な曲線に、淡い色合い。とても美しい作品ばかり。
クリムトに似てるけど、金箔はなく、お花が散ってて華やかで、優しい印象を受ける作品。
花瓶に至っては、植物が生まれ変わったような、人の手で作られたものなのに、自然のなかにあるみたい。
たしかに、ステファノさんの、作りかけのオブジェも、そんな雰囲気や空気感が、なんとなく漂っています。
アールヌーボーは、新しい芸術。という意味。ボジョレーヌーボーは、その年の新しいワイン。ヌーボーは「新しい」という意味で、Newのフランス語。
英語読みのリバティ(Liberty)を、イタリアではイタリア語読みをした「リベルティ」と呼びます。
展示会が開催されのは、ヴィラ・バルディーニ。昔は、骨董大商人バルディさんの個人邸宅だったところ。左手にあるピンク色の建物がそれ。庭園もあり、眺めもすこぶる素敵なところです。
庭園は、藤棚があることでも有名。4月中旬から下旬にかけて、藤の花見をするフィレンツェ人で、賑わいます。入園料を払えば、誰でも入れますので、来年以降、4月のこの時期に来られる方は、ぜひ!
こんな素敵な写真も、誰でもお気軽に撮れますよ!
そろそろ、ヴィッキオ村のステファノさんのもとへ戻りましょう。
ここまで作って、失敗だったら、革を捨てることになっちゃうから、なんとか形にしたいんだけどねぇ。しばらくは、このままかな。
そんな風に聞いてくれるの、嬉しいねえ。
赤ちゃんにキスしていいですか?と言われる親の気持ちになるよ。
ステファノさんの説明が終わり、各々に、革小物を手にして、おしゃべりしていると、1時間があっという間に経過。
ロマネッリ氏の声がけで、工房を後にしようとするところ。
ねえ、わたしも参加できるのかな、そのランチ会。とステファノさん。
みんなぞろぞろと工房を出て、お腹を空かせて、ランチへ向かうのです。
このオブジェが完成するのか、しないのか。
ヴィッキオ村に再訪したら、ステファノさんの工房に立ち寄ってみよう。
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ステファノ・パッリーニさん。わたしの文章力不足で、口調をお伝えできずに、とても残念。まじめな話題でも、トスカーナ人は、皮肉を交えつつ、ユーモアたっぷりに話すので、工房内は、笑いが絶えず、やんややんやと盛大に盛り上がり、とても楽しい見学となりました。
前回のヴィンチェンツォさんも、今回のステファノさんも、ムジェッロという田舎に工房を構えながら、世界的に有名な会社を顧客に持ち、受注生産していることに、驚きます。いるところにはいて、探すひとは探せるんですね。
とても刺激を受けて、とても楽しい1日でした。やっぱり、モノづくりの現場は楽しいです。
次回は、フィレンツェに戻るまえに、ちょっとだけ、ムジェッロを散策して、どんな村が点在しているのか、ご案内します。
最後まで、お読み頂きまして
ありがとうございます!
ステファノ・パッリーニさんのHP
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