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伝統と継承。*Homo Faber n.9* 最終回

Homo Faber(ホモ・ファーベル)は、2年おきにベニスのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島で開催される、高級工芸品の国際展示会です。今回はシリーズ9回目。最終回。

アートじゃないアート。Homo Faber n.1
未来の創造者たち。Homo Faber n.2
日本の匠と、イタリアと。Homo Faber n.3
紙は、紙にあらず。Homo Faber n.4
現代の、芸術のパトロン。 Homo Faber n.5
東洋と西洋が、出会う場所。 Homo Faber n.6
工芸の美と、モダンの美。Homo Faber n.7
工芸の美と、モダンの美。2部。 *Homo Faber n.8*

伝統を守ること。受け継ぐこと。

工房に弟子入りし、師から教わり、技を受け継いでいく。何世紀にも渡り継承されてきた師弟システムが、危機に陥っています。

カルティエ、シャネル、エルメス、etc..  ハイブランド社の多くは、近年、製品を販売するだけでなく、組織立って次世代の職人を育成することに力を注いでいます。

フランス語の「サヴォアフェール [Savoir Faire]」。イタリア語では「サペーレファーレ [Sapere Fare]」。

英語だとノウハウのような意味合いになるようだけど、ちょっと違う。

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Savoir / Sapere。知る。
Faire / Fare。作る。

手仕事の技術を、体験を通して学び、極意を会得し(知り)、その技を磨くこと(作る)。を意味します。

人の手により作り出される、贅を尽くした作品。腕の立つ職人がいなければ、ハイブランド社の製品を誰が作るのでしょう。後継者を育成することは、とても大切で重要なことです。

VAN CLEEF & ARPELS

例えば、エルメスでは、小学校、中学校、高校で、手仕事と職人技に出会うワークショップを行っています。エルメス財団とパリ市教育委員会が、フランスの職業訓練校等と共同で企画したプログラムです。

少し長いですが、エルメスの公式HPから引用します。

職人とは何なのか。どのような仕事をするのか。作品はどのようにつくられ、その価値を生み出すものは何なのか。

普段の授業に代わりに、裁断や組み立て、研磨、仕上げの技術を学ぶことは、他の学びにもつながります。

子どもたちが木材に興味を持ったなら、その木材はどこから来たのか、どのようにしてここまでたどりついたのかなど、それをきっかけに地理の授業に内容を広げていくことができます。

また、協力し助け合いながら作品づくりを進めることにより、生徒や教師たちの間には仲間としての意識が生まれ、さらには、あまり触れる機会のない職業について学ぶこともできるのです。

工房が消えかかっている。職人が少なくなっている。その対策を政府に委ねることなく、自分たちができることを支援し、10年後、50年後、100年後の未来を見据えている。

ハイブランドの製品は高価です。一等地に店を構える場所代、広告費、いろいろな経費。そのなかには、将来の職人文化を支える投資費用も含まれていることでしょう。

ラグジュアリーの定義。

ハイブランド社が揃ったセクションでは、1800年代や1900年初頭の作品も多く展示されていましたが、「良い」ものは、時間がどんなに経過しても「良い」ものなんだ。と改めて感じます。

写真集や美術書などで見るのと、実際に自分の目で見るのとでは、明らかに感じ方が異なります。作品と対峙すると、「美」という気配を纏った、本物の力が、肌に伝わってくるようです。

Pattern of Craftsセクション

ラグジュアリーの定義を、辞書で調べると、「贅沢、豪華、高級」とあり、そこから連想されるものは「金銭的に高価なもの」。いまの時勢には、そぐわないように感じます。

ラグジュアリーの定義を、個性や、芸術性を表現する「至宝」と、言葉の意味を転換できたら、素敵だな。と思います。

ラグジュアリーとは、修復の利くものです。

ロベール・デュマ・エルメスの言葉。

ミケランジェロ財団が主催する、Homo Faber(ホモ・ファーベル)は、わたしのような市井の者にも、人の手が作り出す「美」を感じられるような展示でした。日常に追われる、一般人に対して「美」を知ってもらう場であるようにも、思えます。

サン・ジョルジョ・マッジョーレ島にある建物

フィレンツェに戻って。

フィレンツェのアルノ川を渡ったところに位置するサントスピリト広場には、以前は、たくさんの工房があり、広場に面して職人が仕事をしている風景が日常でした。

ここ10年で、この風景は様変わりし、工房だったところは、白から黒に反転するように、きれいに飲食店に取り変わってしまいました。

おおきな理由のひとつは、後継者を持たず、老齢で閉じてしまうためです。知り合いだった、おじぃちゃん職人さん達は、いまは天国でワイワイやっていることでしょう。

サントスピリト広場

なかには、以前にインタビューした、額縁工房のマセッリさんのように、二人の息子さんが、情熱を抱き、祖父、父、そして自分たちの代へと引き継いでいるところもあります。

代変わりした息子さんが奮闘し、いまの時代に沿った新しい製品を作ろうと、試行錯誤している工房もあります。

象嵌職人の望月さんのように、フィレンツェに工房を構えて、がんばっている日本の職人達もいます。

ちょっと嬉しいのは、イタリアの若い世代が、自分を表現する手段として、手に職をつける仕事を選ぶようになったことです。数年前までは見られなかった傾向です。

広場は飲食店ばかりですが、小さな路地の、空き家だったところに、工房ができてたり、この前は、ジュエラーさん(宝飾彫金の職人)が共同で作業がきるコワーキングのスペースを開いているのを見つけました。

Homo Faber(ホモ・ファーベル)シリーズの、n.8とn.9のセクションのテーマは「装飾の系譜」。これから先も、ずっと系譜が受け継がれていくことを切に願います。

わたしも、微力ながら、モノづくりをする職人の応援をしていこうと、もう一度、強く心に決める機会を与えてくれた、展示会でした。

そして、「職人」という言葉の裏に潜む「豊かな気分」を、立ち寄ってくださる皆様と、共有できたら、とても嬉しいです。

フィレンツェのアルノ川対岸の風景

次回のHomo Faber(ホモ・ファーベル)は?

次回のHomo Faber(ホモ・ファーベル)は、2年に一度の開催なので、2024年。今年も来週は、もう6月です。びっくりです!2年なんてあっという間でしょう。

興味を持たれたて、日程の合う方は、ぜひ、足をお運びください。太鼓判、推しの展示会です。

夜のベニスも素敵です。

気になる料金は? 今年は10ユーロでした。いまの為替で1400円くらい。10時〜18時。たーっぷり楽しめますよ!

Homo Faber(ホモ・ファーベル)のほかの活動にも参加してきましたが、そちらは、別の機会にご案内します。

次回はフィレンツェに戻っての、テーマになります。今週末はちょっと休憩して、来週に投稿します。

随分と長くなってしまった
Homo Faber(ホモ・ファーベル)シリーズ。

最後までお付き合い下さり、
ありがとうございました。
次回、またお会いしましょう!


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イタリアのモノづくり | ようこ
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