流体力学の理想形態(完全流体)の物理を知ること -10-
流体力学で理想状態のひとつに見做される「完全流体」について。連続体と仮定した場合に、流体の接線応力(抵抗力)を無視したものとして、完全流体の定義が成されます。
流体圧力を2階のテンソルで表記した場合に、圧力のスカラー量(p)とクロネッカーのデルタ(行列的な対角成分を有値にする処理)と合わせて、次のように表現されます。
$${p_{ij}=-p\delta_{ij}}$$
今回の連載では、完全流体としての物理的な特性を中心に見ていきます。
前回はジューコフスキー変換を利用して、翼型の流体力学(物理)を複素速度ポテンシャルを起点として考察しました。流体力学で扱う内容の中でも比較的に実用性のある話題です。
ここでは「渦」に関連した運動方程式などから、渦度領域を伴う完全流体の物理を考えていきます。
渦度領域においては、仮に渦なしでありながらも特異点として渦度が存在します。粘性の作用を考慮すれば渦定理が崩れます。粘性流と非粘性流の間で境界層(剥離)が生じることから、その周辺で孤立渦を形成します。
今回は渦度に伴う速度場の概要などを説明し、次回以降の具体的な渦度領域を例題から、解析的に確認するための準備をしていきます。
渦度と速度場
流れの速度場(ベクトル量)が与えられたとき、一般的に渦度は次のように定義されます。
$${\bm{w}=\textrm{rot}\,\bm{u}}$$
ここで、2次元(xーy平面)の速度場であるならば、渦度は上記の定義から法線方向(z方向)のみ成分を有します。
次に、速度場(u)を「渦なし」に対する部分(スカラーポテンシャルに勾配を掛けたもの)と「渦あり」に対する部分(ベクトルポテンシャルに回転を掛けたもの)の和になります。
$${\bm{u}=\bm{u_1}+\bm{u_2}=\textrm{grad}\Phi+\textrm{rot}\bm{A}}$$
ここから次の仮定を踏まえて、ベクトルポテンシャルと渦度を次のように関連付けます。
$${\Delta{\bm{A}}=-\bm{w}}$$ , $${\textrm{div}\bm{A}=0}$$
上記はポアソン方程式です。一般解は一意に求められることから、最終的に速度場の渦ありの部分は次の通りに求められます。
$${\bm{u_2}=\textrm{rot}\bm{A}=\frac{1}{4\pi}\int{\frac{\bm{w(\bm{x'})\times(\bm{x}-\bm{x'})}}{|\bm{x}-\bm{x'}|^3}}d\bm{x'}}$$
これまでは渦なしのポテンシャル流を前提に話しましたが、渦ありのポテンシャル流も存在します。また、渦なしでも特異点として渦が存在する領域を想定する場合もあります。
渦糸は渦度(ベクトル)を連結させて、断面積を極めて小さくしたものです。また、循環は渦度(大きさ)と渦糸の断面積($${\sigma}$$)になります。
$${\Gamma=\sigma{w}}$$ , $${w=|\bm{w}|}$$ , $${r=|\bm{r}|=|\bm{x}-\bm{x'}|}$$
先述の積分表示を踏まえて、渦糸の微小部分を切り取り、そこに対する速度場の方程式を考えます。
$${\delta\bm{u}=\frac{\bm{w}(\bm{x'})\times(\bm{x}-\bm{x'})}{4\pi|\bm{x}-\bm{x'}|^3}\sigma\delta{s}=\frac{w(\bm{x'})\sigma}{4\pi{r^3}}\delta{\bm{s}}\times\bm{r}=\frac{\Gamma}{4\pi}\frac{\delta\bm{s}}{r^2}\times\frac{\bm{r}}{r}}$$
ここで、循環を電流(大きさ)に、速度場を磁場に置き換えることで、上記の方程式の形は「ビオ・サバールの法則」と同義であることが分かります。
渦領域に対する流れ場
渦度のある完全流体の運動方程式を復習します。ここで、圧力関数(P)、速度場の大きさ(q)、外力ポテンシャル($${\Omega}$$)を用います。
$${\frac{\partial \bm{u}}{\partial t}=-\textrm{grad}(P+\frac{1}{2}q^2+\Omega)+\bm{u}\times\bm{w}}$$
上記の方程式の両辺に回転を掛けると、右辺の第1項目は消去されます。渦度の定義も踏まえると、次のような渦度方程式が導かれます。
$${\frac{\partial \bm{w}}{\partial t}=\textrm{rot}(\bm{u}\times\bm{w})}$$
完全流体の渦運動(2次元流と軸対称流)に関しては、これから示していく一般的定理が成立します。
♦️2次元流の例題 → 次回詳細を示します。
2次元の速度場について、x軸成分(u)とy軸成分(v)を設定すると、渦度は速度場に対して法線方向(z軸方向)に成分を有します。
$${\bm{w}=(0,0,w)}$$ , $${w=\frac{\partial v}{\partial x}-\frac{\partial u}{\partial y}}$$
ここで、渦線は常に速度場に対する法線方向(z軸方向)に存在して、同時に伸縮しません。
定常流(非圧縮性)の流体密度と同次元の定数を分けて、流れ関数($${\Psi}$$)を用いて次の関係が成立します。
$${u=\frac{\rho_0}{\rho}\frac{\partial \Psi}{\partial y}}$$ , $${v=-\frac{\rho_0}{\rho}\frac{\partial \Psi}{\partial x}}$$
また、運動方程式の第2項目について、次の関係が成立します。
$${\bm{u}\times\bm{w}=(vw,-uw,0)=-\frac{\rho_0{w}}{\rho}\textrm{grad}\Psi}$$
ヘルムホルツの渦定理を踏まえると、流れに沿う形で次のことが成立します。右辺(定数表記)は流れ関数($${\Psi}$$)の関数と言えます。
$${\frac{w}{\rho}=const.}$$
ここから、上記の微分形式は流れ関数で積分計算できます。非圧縮性流体の場合で、流体密度を一意に決めるならば、次のように処理されます。
$${p+\frac{\rho}{2}q^2+\rho\Omega+\rho\int{wd\Psi}=const.}$$
なお、圧力関数(P)は流体密度を掛けることで圧力(p)に変換されます。右辺の一定値はいずれも流れ場を通じて一定です。同時に、ベルヌーイの定理の2次元流の一般化と言えます。
おわりに
今回は完全流体における渦運動(渦度領域における流れ)について、初頭的な概要を示しました。
前述の通り、完全流体の2次元流と軸対称流では次回に示すような一般的定理が導かれます。詳細は次回に持ち越すことにします。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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