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数値解析法の紹介 〜分子動力学法について〜

以前に私の仕事紹介を書きました。数値解析技術を利用した物理現象のシミュレーションです。それを実現するソフトウェアのユーザーサポート(品質管理)が主な業務です。

前に紹介したのは「有限要素法」でした。解析対象を細かい要素に切り分けて、それぞれの要素の挙動を連立方程式として数値的に求めるもの。そこから全体像を把握する手法でした。

今回紹介するのは有限要素法よりも細かい領域での物理的挙動を求める手法です。その名も「分子動力学法」と呼ばれるものです。

私自身は大学院の頃に分子動力学法を用いた研究を進めていました。その名の通り、原子単位に対する物理量を計算していくもの。現在こそ直接的な関わりはありませんが、他部署で使用しているので、今なお有用な数値計算手法です。

今回はそんな「分子動力学法」をなるべく分かりやすく説明します。数学的背景が必須であるため、限界もあることをご承知頂けると幸いです。

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分子動力学法の概要

分子動力学法とは、前にも書いた通り、時間経過を伴う原子単位に対する物理量を数値的に求める計算手法になります。

分子動力学法:
原子間の相互作用(原子間ポテンシャル)を利用して原子に対する運動方程式を立てて、それを数値的に解くことで、原子の運動を時刻単位で追跡します。

ここで言う原子間ポテンシャルは、実験的に求められたものを代用します。各原子の運動方程式を連立することで、その時刻での各原子の数値解を求めます。運動方程式から直接的に求まるのは加速度であり、それを1階微分したものが速度、2階微分したものが変位であることを利用します。

ちょうど良い説明図がありましたので、そちらを引用することにします。

分子動力学法の利点

分子動力学法(MD:Molecular Dynamics)は原子単位で挙動を求める数値計算法です。

物質の密度やエネルギーなどのマクロ(巨視的)な特性は、原子単位の配置や運動などのミクロ(微視的)な特性から決まります。工業分野でよく利用される有限要素法はマクロな特性に基づいた計算です。

これは、言うなれば「マクロな特性が分かれば十分な精度が得られる」ということを意味します。製品なり構造物なりを設計する場合を考えれば、確かに納得できることでもあります。

一方で、温度や圧力変化に伴う物質内部の相変化、局部変形等に伴う物質内部の結晶構造の変化など、原子単位の挙動で状況が左右する場合は、マクロ(巨視的)な挙動だけでは不十分と言えます。

分子動力学法は計算コストのことを踏まえると、ナノレベルの領域を観察するのが精一杯です。分子(原子)の挙動を観察することで物理現象の素過程を追う必要がある場合には数値計算としての効果を発揮します。

金属の結晶塑性解析に適用

私自身、大学院で分子動力学法を利用していました。金属結晶のサイズが非常に小さい場合に、ナノスケールの空隙(欠陥)を導入すると、塑性領域における材料特性が向上するという仮説を検証していました。

欠陥を導入すると言うと、材料特性の劣化が真っ先に考えられますが、金属結晶のサイズが非常に小さい場合というのがポイントになります。

金属結晶のサイズが非常に小さいと、降伏応力が向上すると言われています。これは結晶粒界の影響が一因と言われていて、同時に粒界破壊に起因して破壊が脆性的になるも判明しています。そこで、ナノスケールの空隙を入れることで、降伏応力を大して変えず、脆性破壊を延性破壊に転じさせるというのが趣旨です。

これも原子挙動から確認するのが最適ということで、分子動力学法を利用して検証を試みていました。

おわりに

今回は数値計算法でメジャーな有限要素法以外の手法として、分子動力学法について紹介させて頂きました。

分子動力学法は観察できる領域としては非常に小さいものの、ミクロ(微視的)な挙動を知る上では非常に重要な解析手法です。目に見える物理現象の根本を見つめるようなやり方だと思います。

他にも解析手法は様々ありますが、それらも機会があればぜひ紹介したいです。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。なるべく毎日更新する気持ちで取り組んでいきます。あなたの人生の新たな1ページに添えたら嬉しいです。何卒よろしくお願いいたします。

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