【#20】材料力学の強化書 〜平行軸の定理から断面二次モーメントを計算する〜
今回のトップ画像は、東京都江東区(西部)を南北に貫く大横川に架かる福壽橋です。江東区指定の都市景観重要建造物に選ばれているとのこと。トラスの補強部材と橋の構造部材がツートンに色分けされいて、この他にはない面白いカラーリングをしています。
さて、材料力学の話に戻りましょう。
前回は曲げ変形の計算において重要な断面二次モーメントと断面係数について説明しました。また、これらの定数について、物理的にどういう意味があるのかまで見ていきました。
今回は引き続き、断面二次モーメント(断面係数)の計算方法について説明します。平行軸の定理を利用することで、複雑な形状に対しても断面二次モーメントを算出することができます。
今回は例題として、トラス構造などで多く用いられるH鋼の場合について見ていくことにします。
平行軸の定理
まずは断面二次モーメントの定義を確認します。下記の図の左側に図心を基準とした任意断面を示します。断面二次モーメントを求める時は、常に断面の図心を座標系の基準(原点)にする必要があります。
平行軸の定理は、図心を座標系の基準とする断面二次モーメントから、任意の座標系の基準とする断面二次モーメントを求める時に利用します。
例えば、上記の図中点線の長方形断面をx方向にx、y方向にyだけ移動させた時の断面二次モーメントは、次のように求めることができます。
$${{I_x}'={I_x}+A{y^2}}$$ , $${{I_y}'={I_y}+A{x^2}}$$
ここで、Aは断面積です。上記の方法により、複雑な形状をした断面に対しても断面二次モーメントを求めることが可能になります。
H鋼の断面二次モーメント
例題として、H鋼の断面二次モーメントを導出してみます。これまでの通り、はりの長手方向をx軸として、z軸回りの断面二次モーメント(断面係数)を求めることにします。
方針ですが、H鋼断面について、面積(bxd)の大きい長方形と、そこから切り抜かれた2つの小さい長方形に分けて考えます。大きい長方形の断面二次モーメントから、小さい長方形の断面二次モーメント(2つ)を引き算することで、断面二次モーメントを算出します。
長方形の断面二次モーメントは、既に前回で導出していますので、結果から各寸法を代入します。まず、大きい長方形と小さい長方形それぞれの図心位置における断面二次モーメントを求めます。
$${I_{z1}={\frac{1}{12}}db^3}$$
$${I_{z2}={\frac{1}{96}}h(b-t)^3}$$
次に、小さい長方形は基準位置(原点)と図心がずれていますので、平行軸の定理を利用して正しい断面二次モーメントを算出します。
$${I_{z3}=I_{z2}+\frac{h(b-t)}{2}(\frac{b+t}{4})^2=\frac{h(b-t)^3}{96}+\frac{h(b-t)}{2}(\frac{b+t}{4})^2=\frac{h(b^3-t^3)}{24}}$$
途中計算は省略しましたが、手計算で過程を追いかけてみてください。以上より、H鋼の断面二次モーメントが算出できます。
$${I_z=I_{z1}-2I_{z3}=\frac{(d-h)b^3+ht^3}{12}=\frac{2sb^3+ht^3}{12}}$$
また、断面係数は図心からy軸方向の部材表面までの距離で除算すれば良いので、
$${Z={I_z}/(b/2)=\frac{2sb^3+ht^3}{6b}}$$
となります。途中計算が長くなりましたが、これで導出は完了です。
おわりに
今回は平行軸の定理を利用して、複雑な断面形状(今回はH鋼を例示)に対する断面二次モーメントと断面係数を計算してみました。
H鋼は広く普及されている構造部材のひとつですが、その理由は、断面二次モーメントの大きさと構造部材の質量のバランスの良さと言われています。つまり、コストパフォーマンスが良いということです。
余力のある方は、前回紹介した断面二次モーメントの計算ツールで試してみると良いかと思います。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。実際は非定期ですが、毎日更新する気持ちで取り組んでいます。あなたの人生の新たな1ページに添えるように頑張ります。何卒よろしくお願いいたします。
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